162+恐らく、数時間前の話。
前話の数時間前の話。
アサキです。
買い物がしたくなった学校帰り、カイトともユキとも別れた後。目的のものは買えたんだけど、ついででスーパーに寄ったら雨に降られた。や、半端ない感じの雨に。
折りたたみ傘は持ってるんだが鞄の中、仕方なく取り出そうとしていたら。
「――あ」
「おや、アサキ君」
空を見上げて突っ立っていたアスカ君に出会った。
「どうしたの、空なんざ見上げて」
確か今日、アスカ君は学校休みだったはず。というか毎日が高確率で休みなんだけどさ此の人は。
私服と思われる白いパーカーを着たアスカ君が歩み寄ってくれば、相変わらずな笑顔を向けてきた――でも今日ばかりは苦笑だったけど――。
「どうやら、お天道様はご機嫌ナナメのようでして」
「ミタイデスネ、こんなことならまっすぐ帰りゃ良かった」
「ふふっ、残念でしたね」
本当に残念だ。
此れ以上酷くなる前に帰りたい、のだけれど。気になることが一つ。
「――アスカ君、傘は?」
ビニール袋片手に立つアスカ君の手には、傘なんてものが握られていない訳でして。
「忘れてきました、ですから濡れて帰ろうかと」
アスカ君は笑顔で一言、そう言った。どんな状況下であろうと彼は笑顔、だけども。
「今日、体調悪いんじゃなかったの?」
学校を休んだということは、そういうことなんだろうし。悪化したらどうするんだよっていう。
「ええ、まあ。ですがこうやって外に出て来てる訳ですし、平気ですよ」
「……本当に?」
「……ふふっ、はい。心配して頂いてありがとうございます」
笑ってるし、大丈夫かな、――なんて、言うとでも思ったのかな彼は。
鞄の中からやっと取り出せた折りたたみ傘、カチン、と音を立てて開けば、その真っ青な傘の柄をアスカ君に向けた。
「使いなよ」
「え……?」
凄くキョトンとした表情ありがとうございます。
目を瞬かせたアスカ君は、驚いた表情で僕を見遣る。
「傘、使った方が良いよ」
「ですがアサキ君が――」
「僕はいい、どうとでもなる」
そう言って傘を差し出してるんだけど、なかなか受け取ってくれない。出来れば早く受け取って欲しいんだけど……手ぇ疲れる。
「俺は本当に大丈夫ですよ? 俺よりも、アサキ君は受験を控えている訳ですし……」
「あ、そういえば合格おめでとう」
「ありがとうございます、――じゃなくて」
アスカ君の華麗なるノリツッコミも出たところなので。僕は傘を其の場に置けば、本来の目的だった物も一緒に其処に置いた。
「此れ、ユウヤに渡すやつだから持っててくれない?」
「え、あ、はい、分かりました、ってアサキ君!?」
折角買ったのに濡らしたくないんだよ。僕は鞄とビニール袋(※スーパーにて購入)のみを持って、雨の中に突っ込んだ。……まあ突っ込んだとは名前だけで、冷静に歩き出しただけなんだけど。
「じゃ、気をつけて、ユウヤには言わないでよー」
雨の中でアスカ君に手を振れば、既にびしょ濡れになった靴――水溜まりに入ったんだよ……――を鳴らして帰路を歩いた。
ええと、言い訳どうしよう。
「おや、此れは……――」
アサキ君が折角貸してくれた傘を差して、アサキ君に渡された物を見る。
つい、笑みが零れるのが分かった。
「ふふっ、何時渡すんでしょうね、此れ」
ユウヤに渡すらしいですが、……いやはや。
けれど深入りは無用だと思うので俺はとりあえず、アサキ君が風邪を引かないことを願っておくことにしました。
ありがとうございました、アサキ君。