158+仮、決戦!/当日
「それじゃ、いってきまーっす!」
「いってらっさい」
参考書片手に、意気揚々と自宅を出ていった我が兄が去って。……おはようございます、パジャマだけどアサキです。
気合いを入れる為なのか、普段より五割増しな朝飯を作って出ていったユウヤ。……まあ、確約とかいうの貰ってるんだし、心配することは何もないだろう。あんな格下な学……いや何でも。
休みだというのに起きてしまった――実際には起こされた――から、仕方なくそんな朝飯を食おう。
昨日から持ち物チェックを遠足時の如くしてたし、忘れ物もないよね。流石のあの馬鹿でも。
「イタダキマ…………」
――あれ、珍しい。郵便物出してきたのか。
形式的に手を合わすと、机の端に新聞を発見。何時出してきたんだろ、たまにはちゃんとしてるじゃないか、とか思いつつ新聞を手にすれば、其の下から一枚のハガキを発見。此れ……って――え?
「あ、あんのクソ野郎……!」
――此れ、“受験票”じゃねぇか……!!
ユウヤですっ、駅ですっ、といっても二駅しか乗らないんだけどね☆
切符の買い方に試行錯誤するカイト君を横目に見遣りつつ、俺は最後の荷物チェックに入った。
「えーっと、筆箱でしょー、中身は鉛筆おっけー消しゴムおっけー定規も入ってるー!!」
「切符って買うの難っ」
滅多に買わないからそうなるんだよカイト君。
「あと財布にー、お守り×3(※家族から各々渡された物)にー、お菓子にー、参考書にー」
「待て、途中何か入ってなかったか?」
「え、あー、お菓子のこと? 勉強する前は甘い物が大事だーって、アサ君が」
「しかしその鞄には明らかな程甘くねぇ菓子が見えるんだが」
そんな些細なところをツッコまないで欲しいね!!
「そういうカイト君なんて手ぶらじゃないか!!」
俺は言い返さんとばかりに、ビシッとカイト君を指差す。待ち合わせ結構待ったから準備してたのかと思いきや、制服手ぶらで現れたカイト君。ポケットに鉛筆とか突っ込んだらしいけど、受験に手ぶらって此の人は……!
「いーんだよ、俺様ァ参考書なんざ不必要だ。テスト直前は参考書とか見ねぇ方が良いんだぜ?」
「むきーっ!!」
「後ろには財布、左には文房具、そして右に受験票だ!!」
「鉛筆折れたって知らないんだからね! 受験票だって落としても知らないよーだ!」
「誰が落とすかい。……そういやユウヤ、お前受験票は?」
改札前まで歩く俺達、そんなカイト君の台詞にふっ、と笑みを零せば再びカイト君を指差す。
「鞄に入れるといざという時に出しはぐねるからね、手で持って――……て?」
――持って来た、はずだったんだけども。
あ、あれ? 俺確かに持って来たよね!? 確かに鞄じゃ駄目だと思ったから肌身離さず右手に持って出たよね!?
「ユウヤ、まさか――」
「忘れてないよ! 絶対持って外出たもん!! 持って出て――」
全ポケットを漁る。ぱたぱたと騒ぐ俺、改札前で止まってごめんなさい!! 一旦端に寄って、鞄も探る。……無いよ、無い無い無い、うわあああああ!!!!
お、落ち着け、思い出せ、確かに持って出たはず。んで、たまたまポストに目がいって、たまには郵便物出してみよっかなっとか思いまして、新聞出して、机に置いて、再び外――へ。
……気付いた時には――既に受験票持ってねぇ。
「――たはずなのに所在が分からねぇええええうあああああああ!!!!!!」
「ちょ、落ち着けよ」
ちょ、マジで、何処、何処なの受験票ー!! 持って出たけどまさか家!? 口には出せないけどカイト君の所為で取りに行く時間なんてないんだけど!?
「どうしよどうしよどうしよどうしよどうしよどうしよどうしよどうし――」
「ユウヤー、皆様が見てるぜー……」
「――ユウヤ!!」
やばいしくったやはり鞄に入れとくべきだった何で手に持ってたん……あれ? 今誰かに呼ばれた気が。
「――って、あれ、……もしかしなくてもアサ君!?」
「や、あ、と、……見つけた!」
息が切れ切れアサ君。
どんなに体力無くたって遠からず近からずな距離を走ってきただけで息が切れる訳も無いし、……どっから走ってきた……?
「馬鹿野郎! 大事な、時に、忘れ物すんじゃねぇよ!」
「……あ! アサキ其れは……!!」
真っ赤な顔でぐわしと俺の顔面に拳を投げ付けた。や、痛いけど。もう片方の手に持たれたハガキの方に集中力がいってるもんで、実際そんなに痛くなかった。
「届けてくれたんだね!? ありがと! 真面目に!!」
「ほー、アサキ乙」
「僕の休日を、返せ」
俺涙目。元々涙目っぽかったのがより涙目でハガキ――受験票を受け取った。うわあああ良かったあああああ。
気付いて直ぐ来てくれたのかな、パジャマから普段着に着替えたり大変だっただろうに。今日帰りに何か買って来てあげよう。というかアサ君が俺の為に走って――うあああああああ!!(※感極まって)
そして呼吸の整ったアサキ、そして一言。
「お前等急げよ」
そうだった、ギリギリだったんだ☆
「「はい、言ってきます」」
そしてやっと、改札を潜った俺とカイト君。
「ユウヤ、カイト」
「あい?」
「何ー?」
「名前だけは書けよ」
改札越しに小学生っぽい注意を受けました。
「「おう!」」
でもアサキの注意は何時も役立つからね、俺もカイト君も素直に頷いて、やっと会場を向かうことになった。
よおっし、戦闘開始だい!!




