154+大切な何かを忘れてる。
こんばんは、カイリだぜ!
今週から学校が始まったとか、そんなの俺にはどうってことねぇぜ! 家に居ようが居まいが、やることはひとつ!!
「寝るだけだー」
「あははっ、実にカイリらしいね!」
机にぐったりとする俺に、相変わらずなユキの笑顔。新学期になったって変わらないなぁ……。勿論その隣のアサキも。
「――チッ、しにさらせ」
――中学校にゲームを持参する生徒なんざ、何時でもお前だけだわな。
「おや、負けてしまったのかい?」
「低レベルクリアが僕のモットーなんだ」
「ただレベル上げが怠ィだけだろそりゃ」
苦笑する俺に目も暮れず、アサキはかちかちと物凄い勢いでボタンを押している。
「――にしてもさーあ」
そうしてから俺は、ふとため息をついた。ユキが物珍しいものを見るように俺を見る。
「中学校生活も、あと一ヶ月弱なんだよなぁ……」
「まあ、三月中旬で終わりだからね、そういうことになるさ」
にっこり笑顔で言うユキ。
「なんだよー、ユキは寂しくないのかよー」
「何を言ってるんだいっ、寂しいに決まってるじゃないか!!」
再びのため息混じりでそう言ったら、凄く過剰反応された。隣のアサキが無反応なのはもはや気にしねぇ。
「私は二人よりも此の学校に居た時間は少ないが、こうやってぐだぐだとする時間が好きだったのだよ?」
「んー、確かに」
ユキは一年ん前に越してきたんだもんなー。
「でも、くよくよはしたくない。だからこそ、残りの日々を楽しもうじゃないか!」
「……そだなっ!」
もう残り少ない日々、来週には私立の入試だってあるけど、楽しめるだけ楽しみたい。ユキとは学校違っちゃうし、俺が公立落ちたらアサキとだって別れちまう。
何もない、残りの平凡な日常を、楽しもうと思う。
それで最後は、笑顔でまたなって言えたらいいな! 会えなくなる訳じゃねぇんだし!!
「よーし、球技大会頑張るぞー! 勉強しつつ」
「ふふっ! 頑張ろうね、最後のイベントだよ」
二人で見合って笑顔な俺達。こういう時間が、楽しいと思う。
「ねぇ」
――と、急に声が。ゲームから目は離してないが、確実にアサキの声。
「お前等行かないの」
「何処に」
「京都」
「何故だい?」
「……」
あれ、黙られた。訝しげに視線を上げたアサキを見て、俺とユキは首を傾げる。
「三月の修学旅行、行かないの?」
「「……え?」」
――すっかり忘れてた、なんて口が裂けても言えない。