152+世界中の全ての幸せを願って。
はいユウヤですっ! あと一時間近くで年越し! あはは、楽しみだなぁ!!
「何でそんなに楽しそうなんです、ユウヤ?」
「だってだって、皆が家に居るのなんて久しぶりなんだもん!」
「うふふっ、ユウ君ったら。可愛いんだからもー!!」
食卓机に向かい合って座る父さん母さん、俺はマヒル兄とアサ君とテレビの前のソファの方に居るんだ! 皆に囲まれてる俺、うわー、なんか久しぶり! うきうきし過ぎて今日は寝れそうにないや!
――なのに。
「……」
「……ふわぁ」
――もう寝そうな両隣。
欠伸をしたマヒル兄は未だしも、ちょっとアサ君、起きてる?
「アサくーん?」
「オキテマス」
片言なんだけど。
「マヒル兄も大丈夫?」
「おーよ、にーちゃんトリプルすらっしゃー的な見解を曝す予定」
意味分かんねぇ。何の見解それ。
「相変わらず夜更かしが苦手ですね、うちの息子達は」
「今日は特別、ユウ君だけ元気みたいだけどね」
どこぞのバカップルのような雰囲気を醸し出している二人の邪魔をする気にはなれないしー。むむむ、二人共起きてーっ、覚醒してー!
「アサ君マヒル兄! もう少しで年越蕎麦だぞ!!」
「そうだなー、あれだよミルクティーに丸薬を入れてみようか」
「そんな毒薬かもしれないもん入れてどーすんのマヒル兄!! ていうアサ君もおーきーてー!!!!」
ゆさゆさ揺らしてみても、首の座っていない赤ちゃんみたくなるだけなアサキ。首取れそうで怖いからやめよ。
「あ゛ー、駄目だ俺、眠くて自分が何言ってっか分かんねぇ」
俺がアサ君を揺らしていれば、反対隣のマヒル兄がぐしゃぐしゃと頭を掻いてそう呟いた。折角のワックスが台なしだよ兄貴。
ていうか自分が変なこと言ってる自覚はあったんだね。
「そんなに無理して起きてなくても良いんだよ?」
マヒル兄に見兼ねた父さんがそう言う。
「や、蕎麦食いてぇ」
マヒル兄の目的は其れだった。……なんだか侘しい目的だね。
「時間になったら起こすわよー?」
そして母さんもそう言う。
「や、寝たら起きても要らないって言うから」
マヒル兄は手を左右に振って否定した。……此の人の起きてる理由って、蕎麦だけみたいだ。
苦笑する両親を余所に、マヒル兄は再び欠伸をして目をこするのだった。
「ご馳走様ーっ!」
「お粗末様です」
何故か母さんではなく父さんがそう言って、年越蕎麦完食な俺。カウントダウン? そう言えば食べてる内にテレビからハッピーニューイヤー!! とか聞こえたけど、食べてたから興味無ぇや。
先に食べ終わった約二名は再びソファに座っているけど、マヒル兄が「ユウヤー」と俺を呼ぶ声がするところを見れば、恐らく片方が寝ちゃったんだなー、と俺苦笑。
「何ー?」
「アサキが俺を背もたれに寝てしまった」
蕎麦をキッカケに覚醒しきったマヒル兄は、何とも言えない表情で俺を見た。横には兄貴が言うようにアサキが一人――いや、二人居たら困るんだけど――。
相変わらず寝てる時だけは何か安らかだよねー、普段あんだけアレなのにー。マヒル兄もそう思ってるのか、何やら妖しい笑みを浮かべている。あれこそブラコンの笑みだ。……別に俺は浮かべてないもん!!
「蕎麦も食べたし、アサ君上運ぶか起こすかしよっか」
「だな」
という訳で、アサキを二階に運ぶことに決定して、そのまま俺とマヒル兄も寝ることにした。
「今日は楽しかったなぁ」
「お前の歳でそんなこと言うたァ、ホント変わってるよな」
「いーのっ! 俺は皆で居るのが好きなんだから!」
多分凄い笑顔で言ったら、兄貴はアサキを背負ったまま、俺の頭を小突いた。変わってるよ、そう言われたって、笑顔で言われたら説得力も何も無いのにね。
部屋で別れて、眠るアサキと二人になる。
「今日は楽しかったなぁ……」
今日は絶対に起きていないアサキだろうけど、俺はそうやって呟いた。あ、今日じゃないや、もう明日だった。あれ、よく分からない……あれ?
でも楽しかったからいっか! これからまた一年が始まる訳だし、誰かが居たら絶対変に思われるくらい笑顔で俺は、二段ベッドの下に眠る弟を上から見遣った。
「今年も宜しくね、アサキ」
だからどうか、今日も明日も、善い夢を。