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146+冬の寒空、悠然と続く。


「だぁー、疲れたー」


 こんばんは、お久しぶりですね、アヤメ……といっても被るか、マシロです。

 テスト前っていうのは生徒にとっても教師にとっても大変なんですよね、ホント嫌になりますよ。しかも生徒達はテストが終われば終わりなのに、教師はその後こそが大変なんです。


「お疲れ様です、イツキ先生」


「おー」


 というか此の人にとっちゃどっちだって大変なんでしょうね。


「テスト問題くらい、先週中に終わらせれば良かったじゃないですか」


「仕方ねぇだろ、やる気起きなかったんだから」


 やる気が起きなかったからといってやらないのは大人としてどうなんだろ――其処は大人な僕だから言わないであげますがね。前日に問題作る人なんて居ませんよ全く。


「ったく、教師っつー職業はどうしてこう、色々面倒臭ぇんだろうなぁ」


「そんな面倒臭い職業を選んだ貴方が悪いんじゃないですか」


「うるせぇ」


 小学生なら誰しも回す回転椅子にもたれ掛かり、長い脚を机にがつん、と投げやった目の前の図体だけ一人前の先生。何なんですかね彼は、このまま置いて帰ってしまいましょうか。


「たまたま数学が得意だったからなっただけだっつーの」


「はいはい」


 もはやため息をつきたくなります、ということでため息をつけば、「幸せ逃げんぞ~」と暢気な声が聞こえる。ナメてんですか此の人は本当に。




「さてイツキ先生、七面倒臭い残業なんて終わりにしてとっとと帰りませんか?」


「相っ変わらず口悪ィなお前……」


 最高の笑顔で言ったのに呆れ口調でそう言われてしまった。いやですね、貴方より口悪くないですって。もう遅い時間ですしね、早く帰って夕飯にしたいんです。


「そういえばアレだな、今日はキクカワが居ねぇから静かなんだな」


「……確かに」



『イツキ君シロちゃん! 姐さんは今日一緒に残ってあげられないんだが淋しがるなよ!』



 夕方名残惜しそうに言われた時は、晴れ晴れとした気持ちになりましたね。あの人好きで残る時の方が多いから……。


「一生アイツ居なきゃいいのに」


「ちょ、キクカワ先生全否定してどうするんですか」


 真顔で呟くイツキ先生、冗談ですよね、此の人の冗談と本気は長い付き合いなのに未だよく分からない。



 職員室を後にして、のこのことこの寒空の下にやってくる。昼も寒いんだから夜なんて尚更、だから冬の残業は嫌いです。


「あー、寒ィ」


「奇遇ですね、同じこと考えてました」


「馬鹿野郎、この寒空に暑ィって考える奴が居るなら連れて来やがれってんだ」


「それもそうですね」


 絶対零度な環境で生きてる人とかなら暑いっていうんじゃないかな、とか思ったけれど、其の前に言葉を発した彼が居るので僕は黙って口をつぐむことにしました。


「そろそろまた三者面談だなぁおい」


「あ、そうでした」


「うちのクラス、未だ進路決まってねぇ奴多いんだよな」


「僕のクラスもですよ。親御さんも子供に任せっきりって人が多い所為か、決定が遅れてるみたいで」


「親のエゴが無ぇのは良いことだが、出来れば早く決めてもらいたいもんだぜ」


 はぁ、と深々とため息をつく僕達。

 今の生徒達は初めての卒業生だから、不安だって多い。でも其れ以上に不安なのはきっと生徒である彼等だから、僕達は彼等に精一杯のアドバイスをしてあげなければならないんですよね。


「ホント、教師って大変ですよね」



「まあな。――けど、どうにかしてやんねぇとなんだから、面倒臭ぇとか言ってられねぇよな」


「ですね。……ふふっ」



 つい笑ってしまった。



「何だ? 何笑ってんだ、アヤメの癖に」


 随分酷い物言いですが、今回は大目にみます。だって――



「“イツキ君”、今、すっごい教師みたいでしたよ?」


 珍しいじゃないですか、そんなの。


 彼はそんな僕の物言いに、一度キョトンとしてからお得意の皮肉スマイルで僕を見た。


「“みたい”じゃねぇ。俺は教師なんだよ、アヤメ」


「おや、そうでしたね、“イツキ先生”」





 こんな寒空だけど、こういう馬鹿話をしていると、何だか寒さを忘れられる気がしますね。


 仕方がないから、今度はキクカワも混ぜてやるかー。イツキ先生は楽しそうに笑いながらそう言った。




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