136+ドキドキ☆ハロウィンパーティーナイト!!/前編
「見て見て見てー! 俺吸血鬼ー!!」
「ぎゃー!! 来んな! 十字架喰らわすぞ!!」
「へへん! 俺はにんにく好きだぞ!!」
「おーい、お前等騒ぎ過ぎんなよー。未だ寝てる奴居るんだから」
「「はーい」」
其の寝てる奴だったはずのアサキです。リビングのソファで昼寝をしてたら騒がし過ぎて起きてしまった。
此の声はユウヤとカイトか……通りで五月蝿い訳だ。マヒルの制す声も聞こえたけど、……何だって? 吸血鬼? ――ユウヤもとうとう脳からイカレたらしい。
「あ、起きたか」
「そりゃ起きるよ、騒がし過ぎ――」
正面に座っていたマヒルの苦笑を見てから、五月蝿い根源に目を遣った。其処に居たのは確かにユウヤとカイト――だと思われる人物達――だったけど、あれ……?
「何、其の格好」
目が悪くなった訳ではないはずだ。
「姉ちゃんが作ったんだ、凄ぇだろ!!」
「ねーねーアサ君! どう? お兄ちゃん格好良い?」
「嗚呼、ある意味な」
どちらの返答にも同じ台詞を吐いて、僕は唖然と二人を見遣る。
「――立派な仮装だと思うよ」
そうだった――今日は土曜日だ。
先週にそんなことを言い出して帰ったカイトの姉を思い出す。一週間延ばした理由――此れを作る為だったら本気で呆れるんだけど。
目の前の二人は、吸血鬼とミイラ男だった。
「アサ君の血を頂くぞー」
「うっせぇトマト食ってろ」
「アサキー、前見えねぇ」
「うっせぇ包帯外せ」
漆黒のマントだなんて洒落た格好ではあるが、愛すべき弟よりも何故ユウヤの方に金かけてんだウミさん。カイトなんて包帯オンリーじゃないか、適当に見繕ったぜ、ってな気がするぞ僕は。
「で。此れ等を作った当の本人は?」
「徹夜で疲れたから後から来るらしいぜー」
そしてまるっきりやる気がないマヒルはテレビをつけてバラエティ番組を見ている。時刻は六時半、其の、パーティーとやらを始めるらしい時間は確か七時だった気がするのにそうのんびりしていて良いのだろうか……?
「マヒル」
「あん?」
「何か準備とか要らないの?」
「あー、何かパーティー最初外でやるらしいぜ?」
――は?
「何つってたかな……――“ドキドキ☆ハロウィンパーティーナイト!!~季節外れの肝試し大会!?~”……?」
「其のネーミングセンスと其れをフルで覚えている兄貴に吐き気がする」
テレビのリモコンをカチカチと弄りながらそう言うマヒルを見つつ、内心のみで本気で嘔吐感に駆られた。何だ其の古臭いネーミングは。
というか今――肝試しって言った……?
「カイト君、前見えてるのー?」
「全然」
後ろで騒ぐ二人を見る。……確かあの二人、怖いもの駄目だった気がするんだけど。
「……ウミさん弟が怖いもの駄目なこと知らないのかな」
「知らないのかもな、ちなみに言えば、ウミも駄目だった気がすんだけどな」
駄目じゃないか。ウミさんは一体何がしたいんだ……?
「とにかく。もう少ししたら皆一旦家来るから、したら出発な」
「うん、分かった」
外に出る気なんてさらさら無かった僕としては落胆極まりないが、出ると分かったのだからマフラーとコートを用意しよう。ただそう思った。
「あ、誰か来た」
ユウヤがマントを翻し――則ち吸血鬼の姿のまま玄関へ向かう。ちょっと待て、パーティー関連の訪問者じゃなかったらマジで引かれんぞ。
そんな僕の心配を他所に、やって来たのは普通に知り合いだった。
「こんばんは~」
「こっ、こんばんは!!」
聞き慣れた声だな、と寝転ぶ身を起こせば――何故か其処にはピンクと紫の魔女っ子が居た。
「あ、アサキ君は普通なんだね」
「何で普段着なのよ! 私絶対着なきゃかと思って着ちゃったじゃないのよ!!」
そう聞けば、彼女等がランとカトウなことが分かるけど。何故に魔女……? ――まさか。
「ロクジョー君の家寄ってからこっちに来いって、招待状に書いてあったからね」
あの招待状か。スペルが違っていたことについて誰かツッコんでくれただろうか。
というか要するに、ウミさんはあの衣装は皆に作った訳か……!? まさか僕のも――いや、考えないことにしよう。
こんな寒い日にスカートはかされて仮装させられて、なんと災難な二人。カイトの家から此処までそんなに距離が無いとはいえ、其の格好で外を歩かされたのはさぞ大変だっただろうに。
「リョウちゃん、この服可愛いね~」
「か、可愛いかもしれないけどモモ……今日はただの休日よ!? は、恥ずかしかった……!!」
どうやらランにダメージが無い分、カトウに急所ダメージがいったらしい。
「ユウヤ君、此れ弟が作ったケーキだよ~」
「うわあ! ホールで三つも!? ありがとう! 帰って来たら皆で食べようね!!」
「きゃああ! ミイラ!?」
「俺様だ、前は見えないけど」
この時点でびっくりストレンジショーなのに今から外に行くのか……。ていうかホール三つて、どう持って来たんだってツッコミは無しじゃなきゃ駄目?
「アサキ」
何時の間にか消えていたマヒルがリビングに現れる。手に持つ携帯を閉じるのを見れば、電話でもしていたのだと伺えた。
「ウミから連絡。他が来るの遅れてるらしくって、直接そっち行くってよ」
「そう……じゃ、行こ」
ソファに捨て置いていたコートを羽織って、
「ほら、行くぞ」
と他四人に声をかけた。
四人仮装に普通の二人、――どうすればこのシュールな絵を和らげられるだろうか。しかも此処に未だ増えるんだろ? ――危険過ぎる。
僕はそんなことを色々考えながら、マヒルを先導に夜道を歩いた。