134+トリックオアトリート!
アサキですが。
土曜日だからとのんびり寝ていたら、片割れの
「あーくん! おっきてー!!」
という久方ぶりの呼び名で起こされた。
だが。
――何故か彼は、金髪の魔女っ子だった。
「トリックオアトリート☆」
「しね」
――寝起きな件を差し引いても、滅茶苦茶イラッとくる発言だった。
「ぶー」
「うるせぇ、文句言うな」
「だってー」
「黙れ刺すよ」
「何で!?」
群青色の三角帽子に同じ色のローブみたいな服、そして金髪のウィッグから一転、普段着に戻った我が片割れと僕は徒歩で出掛けることになった。
『このカードを皆の家に届けるんだよ!』
片割れ――ユウヤが眠気眼な僕に見せ付けてきたのは手の平程度の黄色い紙。その紙には、多分ハロウィンと書きたかったんだろうけど、見事にスペルを間違えていることは言わないでおいた。
『何其れ』
『ハロウィンパーティーの招待状に決まってるでしょ!! 皆の家に届けて回るんだからね!!』
『は? ……そんなのアレだろ、学校で口で言えば――』
『楽しくないじゃん!』
楽しさを求めるな。
何やら僕まで道連れらしかったので、とりあえず普段着にさせたらふて腐れた。どんだけ気に入ってたんだお前。
そして今に至る。
「で、誰のとこ行くの」
というか午前中から回る気なのか?
「先ずカイト君家」
「は? カイトは知ってるだろうが」
「いーの! 届けるの!」
只楽しみたいだけなんだろうな……。という訳で、届けるメンツの中では一番家の近いカイトの家に行くことになった。寒いから、出来れば早く終わりにしたいな……。
ピーンポーン
「カーイートー君、あっそびーましょ!」
お前やめろ恥ずかしい。小学生か。
ガチャ
「良いぜー!!」
訂正、お前等やめろ恥ずかしい。
インターホンを押して叫んで一秒もしていないのに何なんだお前は。待ち構えていたのか……?
「あ、カイト君カイト君」
「ん?」
「トリックオアトリート!!」
間。
お前まさかそれが目的じゃあないだろうな。カイトは数秒ポカンとしたから身を引いて、
「昼飯、食ってく?」
と家の中を親指で指差した。其れはお菓子じゃなくないか? というツッコミもしたかったが、ブランチの時間に起きた僕としては腹が減っていたので。
「「食ってく」」
ユウヤと意見が被った。
「まーたー負けたァ! 二人共強いし! マジふざけんなし!」
昼飯を食ってゲームやっておやつ食べてから本来の目的を思い出した僕とユウヤは、カイトをゲームでこてんぱんにのしてから家を後にした。
うん、有意義なゲーム大会だった。
しかし目的が。
次に近いのはユキの家だな。寒くなる前に行かなければ。
「ユキちゃん居るかなー?」
「大丈夫だ、こういう時にあいつは空気を外さない」
「やあ、アサキにユウヤではないかっ!」
外さない処か、自分から現れやがった。
「何という奇遇かな! 買い物に出た私が君達とこのように出会うだなんて!」
「たまたまだ」
「たまたまだよ」
ユキは買い物袋を片手にオーバーアクションしてくれるものだから、流石のユウヤもそんなテンションだった。
「――で、どうしたんだい? 私に用事があったのでは?」
――そして急に戻るものだから、こいつは扱いにくい。
首を傾げてこちらとユウヤを見比べて、ユキは僕等の返事を待った。
なのでユウヤが簡潔にパーティーについての説明と、カードの贈呈。
そしてユキの反応。
「是非とも!!」
だろうな。
「ハロウィンパーティーだって!? そんな楽しげなイベントに私を誘ってくれるだなんて恐縮だね! 来週だね? 何か準備しなければならないことはあるのかい? ――そうか、了解さ! 楽しみにしているよ!!」
そう言ってユキは颯爽と帰って行った。爽やかな笑顔がより爽やかだったから、相当楽しみにしてるのだろう。
流石はユキだ、うん。
「あ、トリックオアトリートっていうの忘れた」
どうでもいい、次。
「あ、ユウヤにアサキ君。珍しいですね、どうしたんですか?」
次に近いアスカ君の家にやって来た。
「アスカ!」
「はい?」
「トリックオアト――」
「はい」
早っ。ユウヤの差し出した手の上に、アスカは何時もの笑顔でチョコレートを置いた。
「わぁい!!」
「アスカ君、何故」
「ふふっ、用意周到と言って下さいね? はいアサキ君にも」
アスカ君はそう言って僕にもチョコレートをくれた。……うん、後で食べよう。
「それで、此れで用事は済みましたか?」
アスカ君は僕等の用事が此れだけかと思ってるんだろうけど、此方としては未だ未だある。
ユウヤが再びパーティーについての説明と、カードの贈呈。
「土曜――ですか、良いですね、是非参加させて頂きます」
体調が良ければ、と付け足すアスカ君を見たら、やっぱり仮病じゃない時の方が多いんだなー、と思った。
「チョコレート美味し」
だからどうでも良い、次。
「はーい、――って!? な、な、何しに来たのよアンタ達!?」
「トリックオアトリート!!」
「無いわよそんなの!!」
カトウの家。直ぐにカトウが出たけど、一刀両断されてユウヤは淋しそうだった。ざまあみやがれ。
「で、何か用なの……?」
ユウヤと僕を8:2の割合で見比べるカトウ。凄く訝しげだ、何か謝りたくなるくらい訝しげだ。
そして三度ユウヤが説明と贈呈。
「ぱ、パーティー!? な、何其れ、私行っても良いの……? ……良いの? なら行くわよ……。い、いやとかじゃないわよ! 絶対、ぜーったい行くから!! ……おめかししなきゃ」
3人目だけど、そんなテンパってくれなくても。そして最後の言葉、要らん。
「ふははん、リョウちゃんったらおっとめー」
だからどうでも良いってば、というかどういうこと? 次、最後。
「わあ、アサキ君にユウヤ君、こんな時間にどうしたの?」
可愛いらしく首を傾げてくれたラン。夜分にゴメン、カイトの家で遊び過ぎた。
「モモちゃん! トリックオアトリート!!」
何時までも言うんだなお前は。カトウのところで一喝されたのによくやるよ。
「あ、今丁度弟がパンプキンケーキ作ったんだけど食べてく?」
「え、良いの!?」
「うん、どうせ食べ切れないから~。配分考えないで作るのが悪い癖なんだよね……。ハロウィンだからって『パンプキン的ケーキを作れるスキルを身につけるぁあああ!!』って叫んで作り出したんだよ~」
ランの弟って一体……。
しかし食べていくには時間も時間だったので、包んで貰って夕飯の後に食べることにした。美味しそう。
そして、そのまま一回帰ろう引き替えしかけて、本件を伝え忘れたので更に引き替えした。ケーキでどれだけ満足なんだ僕等は。ユウヤが説明と贈呈をすれば、ランは何時ものニコニコ顔で、
「うん、行く~!!」
と、何とも簡潔な返事を頂けた。……まあ、良かった良かった。
後、帰り道。
「無事渡せて良かったな」
「うん!」
ユウヤは凄く満足気だった。
「ケーキ貰えたしね!」
そっちか。




