130+シーズンまっしぐら。
「考え中」
考え中です、普通考えるとき考え中って言わないよね、ユウヤです。
「何考えてるの」
珍しくアサ君が尋ねてくれたよ、お兄ちゃんびっくりだぜ! しかし確かにアサ君に聞いた方が早そうな話題かもしれない。俺にはさっぱりだもんね!!
「んー、実はね」
「へー」
「……そうなんだよ! 何が分かったのか分からないけどそうなんだよ!」
ああんもう! 真面目な話なのにー! 漫画見んなよ! 漫画から目ぇ離してお兄ちゃんを見なさい!!
「で?」
「聞き返すなら言い返すなよ」
「じゃあ聞かない」
「まあ落ち着けよ、お互い冷静になろうぜ」
という訳で。
「あのねー、この前、アスカと高校についての話をしたんだー」
「へえ」
「俺さ、高校行けるかな?」
「行けるよ、私立なら」
そうじゃなくてですね。
「俺、公立に行きたいんだよ」
自分の中ではかなり真面目な表情で言ったつもりだったけど、アサキは滅多に見せない驚愕の表情を見せた。
え、そんなに無謀……?
「おま……その頭で、か……?」
「うん、行きたい」
「真面目に……?」
「うん、真面目に」
俺が真面目なのをやっとのことで悟ってくれたらしいアサキは、驚愕のあまり落としそうになっていた漫画を拾って――最早落ちてるね――横に置く。アサキと同じとこ行きたい、って騒いでたんだから、公立に行きたいって思ってるのを悟ってくれてると思ってたのに。
「理由は」
アサキはポツリと続ける。やっと真面目に聞いてくれるみたいだ。此処でふざけたら二度と話聞いて貰えなくなるので、ちゃんと答えます。
「俺、金かければ絶対行けるようなとこ行きたくないんだよね。百歩譲って、アサ君と一緒のとこじゃなくても良い、だから――」
「無理だな」
一刀両断とはなんという……! 未だ途中だし、俺結構真面目なんだけど!
「ユウヤ、今のお前の成績じゃ無理だ」
「そ、そんなの分かってるよ!!」
「分かってない」
アサ君はあたかも『何だ、そんな話か』とでも言いたげに漫画を再び手に持った。また読むのか、話聞いてくれるんじゃなかったのか。
「お前の内申書じゃ前期は無理だ、絶対に」
――と思いきや、アサ君は再び語り出すのだった。
「お前の内申は30プラマイ1、2といったところだったか。しかも内18から20は実技科目ときた。どんなに面接が上手だったからといって、お前が受かれるような学校は相当の低レベル、行ったって――いや、是が非でも行かせない。そして賭けるのは後期。――五科の内申10前後のお前が、どうする気だ?」
「え、ど、どうするって……?」
「内申云々の問題じゃなくて。内申10のお前が、賭ける為のテストで何点取れる?」
「……」
視線はこっちに全く向いていないのに、すんごい勢いで圧力をかけられている。テストで何点……? ――いや、上限が分からないだけじゃなくて、テストで良い点なんて、取れる訳ない。
「さあ、それでどうするよお兄ちゃん」
全棒読み。漫画から目は離さずに、アサキは俺に言ってのけた。
「……」
――やべぇ、なーんにも浮かばねぇ。付属、爽やかな笑み。
でも考えてみる。俺が公立高校に受かる為にどうすれば良いのか、試験である五科目を切り抜ける為には。嗚呼あっさりだ、そりゃひとつしかないでしょうに。
「――勉強?」
「まあ、そうだな」
アサ君からもそんな返事だし。やる気だそうぜ。
「只の勉強じゃ駄目だよ」
ま、やる気なさそうに見えて実は考えてくれているところが、アサキの良いところなんだけどさ。
「お前が本気で国公立に行きたいんなら、一から勉強し直すべきだよ。参考書でも買って、毎日全教科一頁で良い、そうするべきだ」
「勉強、か……」
「絶対、そうするべきだよ」
僕が言えるのはそれだけかな、アサキはそう言って全く喋らなくなった。ほんと、言いたいことだけ言うなぁ。
お前が本気で国公立に行きたいんなら――か。
「あ、もしもしマヒル兄? 俺、ユウヤだけどさ、今度の土日買い物付き合ってよ! ……え、服じゃなくて、ドリル的なの買いたいんだよ、金は母さんに頼……え? べ、別に頭強く打ったりしてないから! いや! 兄貴がそんなに驚かなくたって――」
そんな廊下での通話中、アサ君が遠くでくすり、と笑ったのを、俺は聞き逃さなかった訳で。
遅過ぎる受験シーズンです。
こいつ等が受験生なのを、作者はたまに忘れます(Σ