129+未来のことは未来で考える。
「ユウヤ、知っていますか?」
俺にそう言ったのは、穏和な笑顔が印象的な学校帰りなアスカ其の人だった。ユウヤです。
「ん、何が?」
「もう、十月なんですよね」
いや、知ってるけど。
「受験まで、もう半年無いんですよね」
「……」
何やら深い話な予感。基、心臓に悪い話な予感。
「ユウヤはもう、受験勉強はしていますか?」
「え、あー、全然」
「ですよね」
ですよねって言われた。アスカだから許すけどさ!
「そろそろそういうの、考えなきゃですよねー、って話です」
という話らしいです。
――やべぇ、すっげぇ耳が痛くなる話だ……!!
しかしアスカだからちゃんと話聞こう。
「周りの方々は、よく塾に行っているって聞きますが――ユウヤは行ったりしてないですよね」
「遠回しに『其の頭で行かないで大丈夫かよ?』って聞こえるけど気の所為だよね?」
「あははっ! 俺がそんなこと言う訳無いじゃないですか。――思うことはあっても」
「そうだよね~、思っても口に出さないもんね~、アスカは」
酷い会話だ、戻そう。
「俺、塾には行かないんだよ。やる気がないのに只塾に行ったって、何の役にも立たないって言われてさ」
「へぇ……確かにその通りですよね。ですがユウヤ、本当に大丈夫なんですか……?」
アスカは首を傾げながら俺を覗き込む。どうやらマジに心配されているみたいだ。……まぁ、馬鹿だから仕方ないんだけどさ。だからといって全ッ然勉強したくないし。
「んー……分かんない」
「私立の学校であれば平気でしょうけど……」
「あ、俺私立は行かないよ、お金かかるもん」
余りお金はかけたくない。まぁぶっちゃけ、うちは金に困ることがないくらい余りに余ってるらしいけどさ、父さん医者だし。でも、――出来ることなら公立に行きたいと思ってるんだ。
「どうしてですか?」
アスカは再び首を傾げる。今度は不思議そうに。
俺はにへらっと笑ってみせるだけに留まったけど。
特に理由はないんだ。強いて言うなればただひとつ、
「だって、アサキは私立、行かないでしょ?」
其れだけ。
「――ふふっ」
あ、笑われた。
「ユウヤは本当に、アサキ君のことが大好きなんですね」
「――うん! 大好き!」
笑顔と笑顔がぶつかって。普通は照れたり否定する場面だけど、俺は心からそう思っちゃう訳で。
「一緒の場所に行けなくても良いからせめて、同じ時間くらいには帰りたいな、って。じゃなきゃアサ君が飢え死ぬし」
「それもそうですね」
あっさり首肯された……! アサキ大丈夫なのか……!!
「あ、それじゃあユウヤ、また明日」
「うん! また明日ー!!」
アスカの一方的な話で今日は終わっちゃったけど、俺は元気良く手を振ってアスカを見送った。
そういや俺、アスカが何処の高校行きたいのか聞いたことないな……。というかもう決めてるか……?
アスカはそこそこ頭が良いから、きっと俺なんかが届かないくらいの所に行っちゃうんだろうな。そう思えば少し淋しいけど、きっと俺達は大丈夫。ずっと友達で居れる。――根拠は特にないけど。
「さって、帰りますか!」
そうひと言呟いて、俺は自宅に向かって歩き出す。早く帰らないとアサ君に殺されるもん。奴は殺るっつったら殺る……殺られる!! 昔はこんな関係じゃなかった気がするのになぁ、全く。
ま、帰ってから考えよ!




