122+最終日こそが本番です。
長かった夏休み、時間的感覚ではそうでもなかったけれど。とても楽しかった気もするし、全然楽しくなかった気もする。だが、だからこそ今ひとつ、立ち向かわねばならないことがある。
「アサキ」
「何」
「――宿題手伝って下さい」
――最終日なのに宿題全く終わってません、カイリッス。
「――夕方から人の家に来たと思ったら何様?」
「もちカイリ様だぜ☆」
「――……」
「ちょ! 無言でスルーはよくない、心臓にもよくない!!」
ただいまアサキの部屋です、そりゃあ最終日だもの、馬鹿正直にやるなんてしない、アサキのを写させてもらうに決まってるぜ!
しかしアサキはなかなか見せてくれないんだよなぁ、いいじゃねぇかよ、減るもんじゃねぇだろ?
「なぁアーサーキー」
「何でさ、最初にやらない訳? こんな数時間あれば終わる宿題、直ぐ終わらせちゃえば良いじゃん」
「何を言うんだアサキ君、終わらせる気がないからに決まっていたたたたたた蹴り入ってる右足向こう脛にトーキックがいだだだだだ!!!!」
「少し黙ってくれるか虫酸が走る」
こ、こいつ相変わらず手強いな! くそう、どうやって手伝ってもらう&写させてもらうか……超難関過ぎて俺の脳じゃなかな――
「アサくーん! 明日何か買ってあげるから宿題貸してー」
「漫画」
「ありがとー!」
――か? ……え?
「……な、アサキ」
「何?」
――お前物でつられ過ぎだろう。
狡いぜ! バーンと勢い良く入って来たユウヤには宿題をあっさり渡しやがって!! 俺だって見たい!!
「……何すれば、手伝ってくれる……?」
「……明日の帰りにコンビニ」
「おし、交渉成立な」
どうやら金で動くらしい。流石過ぎる。真顔なアサキは凄いが、言ってることも理に敵わな過ぎて逆に凄い。
……まぁ、手伝ってくれんならいっか。
「終わらない」
「当たり前」
「頑張ってカイト君!」
約三時間経過。未だ終わらない俺の宿題。だ、だって少しもやってねぇもん! 今日で終わるだなんて思うなよ!!?
「終わんなきゃいけねぇだろうが」
さーせん。
黙々とペンを走らせるアサキと、何かを手伝ってくれているらしいが全く役に立っていないユウヤ。ごめん、色々と涙が出て来るわ。
「つかユウヤー、何でお前終わってるんだよー」
「だって夏休み中に少しやったもん!」
ユウヤの癖に偉いじゃねぇか。
「僕が言い続けたからだろう」
撤回。偉いのはアサキだった。
「んー、でも今年は宿題少ない方だよねー」
「だなぁ。去年は半端なかったもんな」
去年――サックラせんせーは物凄い宿題を出してくれたっけ、教科書の厚さと宿題の厚さがあまり変わらなかったのをよく覚えている。あれ、此処地獄?
「今年は数学半分以下まで減ったんだから、ちゃんとやれよ」
とか言って、人を地獄から引き戻してくれたアサキは、俺の目の前にダンッ、とノートをたたき付けた。俺の漢字の冊子だ。
「……え、まさか終わった……?」
「まさかも何も、終わらした」
お前は神か。
「アサキ、お前凄いを通り越してキモい」
「お褒めの言葉、感謝するよ」
だっておま、ええ? この厚さ二センチ弱のこの冊子を? ――何なんだお前。
「流石はアサ君だね! 仕事が早い!」
「僕はやるときはやるのさ」
「逆に言えば、やるときしかやらないんだよね!」
「あれ? お兄ちゃん喧嘩売ってる?」
お兄ちゃんと呼ばれてはしゃぎ出したユウヤはさておき。どうやら今年も宿題は助かりそうだ。良かった良かった、無事で何より。
しかしこう考えると、来年からはどうなってしまうのやら。違う高校に行くことになったら、もしや俺は一人で宿題を……? ――いや、考えたくもない。
来年のことは来年に考えよ。それで良いや。