114+身近で気付かないこと。
ピンポーン。
インターフォンが鳴りましたユウヤです。朝早い時間に珍しいな、とか思って時計を見れば未だ九時だった。
未だ俺とマヒル兄以外起きてないんだけど。
「悪ィユウヤ、出ろ」
「そこ普通“出て”でしょ」
とりあえず玄関の扉を開けに行く。こんな時間にどちらさまー?
「おっはよーさん!」
「おはよーユウヤ君、朝早くにごめんなさいねぇ?」
見知った顔が二人程。金髪の人と茶髪の人、即ちせっちーとウミさんだった。え、説明が雑? 五月蝿いなぁ、眠いんだよ。
「マヒル兄に用事?」
「まぁ、そうだな、つか届け物」
「ふーん……あ、入ってどーぞ」
面倒なので中入れちゃおう。
リビングに舞い戻れば、先程から朝ご飯を作るマヒル兄に「誰だったよ?」と聞かれたけど、俺が返事をする暇もなく「やっほーマヒルー!」とセツさんが五月蝿く喚いた。……今、朝なんだけど。
「……チェンジで」
「チェンジ!? 何チェンジすんの!?」
「五月蝿ぇよド阿呆。静かにしろ、未だ寝てんのが三人居んだよ」
マヒル兄の冷めた言葉はさておき、まぁアサキの睡眠の妨げになったら殺されるよ、せっちー。
「三人? あら、お母様達帰って来ていらっしゃるの?」
「違う違う、親戚が来てんだ」
ウミさんは相変わらずマイペースに、あらまぁ、とだけ漏らした。……結局この人達何しに来たのかな?
マヒル兄も其れが気になったのか、キッチンから尋ねれば、せっちーが何かニヤニヤしていた。
「お前、昨日が何の日だか忘れたかー?」
「昨日? ……何かあったか?」
「あらやだマヒルったら、忘れてるの? ユウヤ君なら分かるわよねー?」
「……」
――あれ、何の話?
「昨日……何日だったか……八日か」
「八月八日! ほら、分かっただろ?」
相変わらず俺は分からなかったけど、マヒル兄は小さくあ、と言葉を漏らしたから気付いたみたいだ。
「――新巻発売日だ」
「「違うわ」」
違うことに気付いたみたいだ。
「あー! もう! 何忘れてんだよこのおっちょこちょこちょい!!」
「ちょこ多い」
「日本語って読みにくいねー」
「おい黙れヒコク兄弟」
マヒル兄と「ねー」と言ってたらせっちーがドスの利いた声を出した。そんな声も出せるのね。
「分かった分かった、思い出してるよ」
ひとつため息をつけば、マヒル兄はそう言ってリビングにやって来る。あれだろ? と前置きを置けば、カレンダーの八日を指差して、
「俺の誕生日、だろ」
と首を傾げた。
――え?
「「正解!!」」
「え、嘘、マヒル兄って誕生日昨日――うわ忘れていた!!!!」
実の弟が兄の誕生日を忘れるなんて! 何てこったい!!
「せっかく誕生日プレゼントを持って来てあげたのよ~? なのに忘れてるってあなた……」
「悪い、無頓着だった」
マヒル兄の誕生日って夏休み中だから、つい忘れちゃうんだよ。きっとアサ君も忘れてるさ……!!
とか自己嫌悪に陥りつつ考えてたら、二階から階段を下る音がした。アサ君起きたかな?
「あ、おはよアサキ」
「……」
基本アサ君から朝の挨拶が返って来ることは無いけどね。
「ね、ね、アサ君、昨日が何の日だか知ってる?」
「……?」
アサ君は言葉は発しなかったものの、カレンダーを見遣ったので聞いてはくれてはいるようだ。ウミさんが「寝起きのアサキ君も可愛いわ~」とか言ってるけど気にしない。
暫く突っ立ってるからやっぱり分からないじゃーん、とうはうはしていたら、
「――誕生日?」
――と解答返って来ちゃいました!!
「あれ、アサキ覚えてたんだな」
マヒル兄も素っ頓狂に言う。そりゃあ一番無頓着そうなのが覚えてたもんねぇ。
「昨日から覚えてたよ、」
「じゃあ言ってよ! 忘れてたよ!!」
「忘れるなよ」
ご尤も。
その後、一時間くらい家に居座ったせっちーとウミさん。本当にプレゼント置いて帰っていった。
「何くれたのー?」
「どうせろくなもんじゃねぇから後で見るわ」
どうでも良さそうに言うマヒル兄だけど、微妙に表情が笑ってるから嬉しかったんだろうなぁ。朝飯出来たぞ、と思い出したように言ったマヒル兄がその証拠で、今日辺り何か買いに行こうとか思った俺でした。




