人生塞翁が馬2
美玲「正美のやつまじウケる笑」
同窓会の帰り、正美の話で盛り上がる一行。
美玲は22歳で医者と結婚。
夫は院長の孫。
大手の大学病院である。
美玲は数多くの男性経験を積み、怪しく照らめく体をしていた。
いつも振る方は美玲からであった。
美玲はついに勝ち組の頂点へと登り詰めた。
月に使えるお小遣い金額は200万円。
姑さんはとても穏やかな良い人で、家事を率先してやってくれる。
お腹の二人目の子供を気遣っての事だった。
順風満帆な人生。
二人目出産。
穏やかな昼間。
休日。
家族団欒。
これ以上ない、幸せ。
ある日。
正美がテレビに出ている事が耳に入った。
信じられなかった。
美玲「ま・・正美大学?な、な、何よ・・何よそれ・・」
誰より。
誰よりも幸せである筈だった。
なのにどうだ。
日増しに正美は祭り上げられていく。
不細工なのが余計に気に入られる要因らしい。
仮想通貨で莫大な富を成し、その後の慎ましい暮らしと、一大決心の大学建立、建立した後のスポンサーに頼らない姿勢、講師達の引き抜きの賢さ、そして、嘘をつかせない誠実さ。
何もかも、どのニュース、雑誌も、正美をヒロイン扱いだ。
時代を変えた転換点、それが正美だと言う。
イラついた。
どうしようもなくイラついた。
ギャン泣きする小さな我が子に八つ当たりする度合いが日増しに、強くなる。
自分は、頂点ではなかったのか?
誰もが憧れる勝ち組の頂点の『女』に、なれたのではなかったのか?
今では知り合いや、友人達ですら、男達ですら、正美をヒロイン扱いしている。
一緒にうんこを正美に投げたのに。
勝手なモノだ。
正美を誉めたら、負けた気がした。
何だったのか?
今まで正美に吐いた暴言や、態度は何だったのか?
誉めたら、誉めてしまったら。
それこそ今までの暴言は間違いでしたと、高らかに宣言したも同じ。
正美様、すいません、あの暴言は間違いでしたと、宣言したも同じ。
どうしてそんな事が出来よう?
口が割けても。
腹が割けようとも、絶対に言えるモノではなかった。
・・。
あっちは歴史に名を残す永遠のヒロイン。
かたやこっちは、ただの一般市民の一人。
あっちは世界を変えた。
こっちは子供の世話をしながら歳を重ねるだけ。
気がつけば。
赤ちゃんの口を押さえていた。
刑務所の中では、太陽の光は時計になる事を知った。
今にして思うのは。
幸せだと自分は思っていただけだという事。
頂点から下ろされた途端、『持ち物』は変わらずとも。
自分は足りないと思ってしまう生き物だという事。
美玲「私はー・・幸せじゃなかったんだ・・私は競争していただけ・・一番前で走っていたかっただけ・・あの女はビリだったから・・馬鹿にしていただけ・・私は・・一度だって・・幸せを感じた事がなかったんだ・・う・・う・・ううぅ」
よく弁護士と話た。
弁護士から夫へ伝わり、夫が面会に来た。
夫「君は・・心の病気なんだ・・まだ僕は、君を愛してる」
美玲「!!」
夫「一緒に治そう・・幸せを感じた事がないというのなら・・う・・と・・とても・・さみじいげれど・・ぐう・・う、う・・ま、また・・いちがら・・幸せを、今度こそ・・一緒に・・う、うう・・ううう」
美玲「!!!!あ、・・あ、ああ・・うあああああああああ、ああああああ、アアアアアアアアアアアア、アアアアアア、ごべんばざあああああ、ごべんばざあああああ、あ、あ、あ、あ、ああああああああああああああああああ」
その後。
育児ノイローゼ、精神疾患、幼児期の過度な競争教育の影響、夫の情状酌量の願いはを鑑み、2年で出所出来た。
出所した足で、正美に会いに行きたいと迎えの夫に告げた。
夫は送ってくれた。
正美は会ってくれた。
しかし、怖い顔つきだった。
正美「また馬鹿にしに来たの?」
美玲「・・」 土下座をし始める。
正美「・・」
美玲「・・ごめんなさい、すいませんでした」
正美「・・」
美玲「・・」
正美「・・私は・・どうすれば神様に嫌われずに・・あなたを痛め付ける事が出来るかしら?」
美玲「・・」土下座のまま震える。
正美「・・あなたのせいで自殺を考えた事、あったわ」
美玲「・・ごめんなさい」 頭は上げない。
正美「・・私が死ねば良いと思っていたでしょう?」
美玲「・・はい」
正美「理由を言いなさい」
美玲「・・無様に生き恥をさらし続けるくらいなら、死ねば良いと・・思っていました」
正美「恥も、生死も、あなたに決められる筋、ございません」
美玲「・・本当に、すいませんでした〈ゴツン〉」
正美「子供を殺したそうね?」
美玲「!・・はい」
正美「・・ざ・・」 口が震えている。
正美「ざまあみろ」 涙を流しながらやっと言った。
美玲「・・・・う・・うう・・ううう」 背中が震える。
正美「さあ、今から謝るわ、許してちょうだい」
美玲「・・・・」沈黙、背中が震える。
正美「赤ちゃんの事、ざまあみろだなんて言って、ごめんなさいね、本当にすいませんでした」
美玲「・・・・う・・うわああ!」 ガードマンに止められた。
美玲「死ねえ!死ねえ!死ね!死ね!死ね死んじまええ!お前なんか死んじまええ!!呪い殺してやるからなあ!!いい気になってんじゃねえ!!!!この糞不細工があ!汚ねえ顔しやがって!ぶっ殺してやるよお!キャアアアア!クキャアア!!」
正美「・・」 正美は涙を流し、静かに見つめていた。
正美「・・悲劇のヒロインとなり、今度はヒロインとしての『競争』に勝とうとしたあなたの心なんてお見通しです、人はそう簡単には変われない!鏡を見なさい!馬鹿者!あなたこそ呪われています!地獄がお似合いよ!ケダモノ!!」
美玲「ウギャアアアアアア!!死ね!死ねえ!!死ねお前を殺してやるう殺して〈バタアン!〉」
美玲の夫は連れ出されて来た妻を見て、全てを理解し、離婚を申し出た。
美玲はハサミを使い、夫を切りつけ、再び逮捕。
前科と重なり、精神病院へ搬送された。
医者「美玲さん、正美さんはあなたを試したのですよ、あそこであなたは謝るべきでした、なのに何故謝らなかったのです?」
美玲「は?何言ってるの?おかしいこと言うわね、まあ、いいわ、教えてあげる、いい?私は彼女を虐めた、そして謝った、これでイーブン、OK?けどあの糞不細工は、今度は私を虐めたの、許さないか許すかは私が決めて良いのよ、解る?」
医者「いいえ、解りませんな、いいですか?あなたが虐めた、あなたが謝る、ここまでは自然です、ですが、あなたが謝るイコール正美さんが許すとは限らないでしょう?あなたはまだ許されていない、あなたはまだ彼女から許されていないんですよ?イーブンになってないんですよ?」
美玲「そうよ?だからその話を飛び越えて、私を虐めたのは許されないことでしょ?だから私はキレたのよ!」
医者「いいえ、彼女は虐めたのではなく、あなたを試したのです、美玲さんは正美さんが許してくれるのが当然だと思っている事を感じて、実際は違うかもしれないですが、とにかくそう感じて、ならば、そう簡単に人が人を許せると思うのならば、あなたはどうなのか?あなたも簡単に許せる筈だと、そう正美さんは考えたのです、そしてあなたは人間のした過ちは許せるよね?という癖に、あなたは人間のした過ちは許せなかった、これはあなたの意見が矛盾している事になる、そう正美さんは突き付けたのです」
美玲「・・・・」
医者「美玲さん、あなたは本当は許されて当然だと思って、正美さんの所へ行ったんじゃないんですか?、あなたはまだ、競争に抜かされてないと思っているのでは?」
美玲「・・く・・くく・・」
医者「まだ正美さんを、人間として、下に見ているのではないですか?」
美玲「・・・・」医者を見つめる。
医者「・・」 睨む。
美玲「あいつは仮想通貨で一山当てただけでしょ?」
医者「違う、正美さんはお金の使い方が尊敬されているんだ」
美玲「私だったらもっと上手くやれてる!ふふ」
医者「月のお小遣い200万円をブランドモンに消費していた人の台詞とは思えませんなあいやはや」
美玲「・・てめえもあたしをなめてんのか?あ?正美にさえ勝てない底辺女って思ってんだろ!!ああ!?《ガタアアン!》」机を蹴る。
医者「一つ勘違いをしていらっしゃるようですから、申し上げます」
美玲「ふー、ふー、ふー」
医者「正美さんは底辺ではありません、誰とも競争せず、己との欲望、様々な利権による恐怖と戦い、勝利している高尚なお人です、あなたは始めからかやの外なのですよ?」
美玲「・・え?」
医者「言うなれば世界と戦う視野を持つ正美さんと、かたや、女一人との戦いをしている『つもり』になっているあなた」
美玲「え・・え?・・え?」
医者「魂の次元が違うという事です」
美玲「・・」 戸惑う。
医者「あなたはビリから抜かれた気分なんでしょう?しかし、正美さんは、始めから、いいえ、途中から、もう、その競技場には居ないのです」 席を離れる。
美玲「ま、まって!じゃ、じゃ、あいつは今どこにいるのよ!」
医者「彼女は、今、専用機でアメリカへ」
美玲「あ、アメリカ?」
医者「そう、アメリカですよ、アメリカのホワイトハウスへ現在向かっています、あと3時間で到着しますね、ごほん、では私も休憩を、失礼?」
美玲「・・」 無表情。
医者「・・」 そんな美玲を憐れむように。
〈カチャン〉 静かにドアを閉めた。
教会。
日の光が差し込む。
正美「私は許しても良かったのです、しかし、私の情けが原因でまた美玲さんによる犠牲者が出たら・・私は・・自分を許せません・・情けは責任が伴うのです・・ああ・・神様・・私は・・あなたから嫌われましたか?私をまだ好きならば、1の目をお出しください《ヒュッカッコッココココロコロ》
3つのサイコロの目がー・・。
《コロコロ・・コロ》
《・》《・》《・》揃った。
正美「アーメン」
《END》