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1-76 勲章と宝玉:前編


ようやく暑い夏が終わろうかという頃合いのある日。市長の所に呼びだされた俺とチェルファーナは揃って眼を丸くした。


「報奨?」


「そうだ」


市長は今日もしっかりコーヒーカップに角砂糖を四個入れてスプーンを回しながら続ける。


「ジグァーン討伐の功績を報奨してくれとな、帰還後にすぐ後に頼んでおいたんだがやっと返事が来た」


「随分と前のことのような気がするけど」


「まぁお役所仕事なんかそんなもんさ」


ぶーたれるチェルファーナの横で俺は呑気にアイスコーヒーをずずずと飲んだ。むしろ想定外の収入はありがたい。報奨金ならそれなりの額が期待できるだろう。


「しかし待った甲斐はあったぞ。何せ王国騎士勲章だからな」


「騎士勲章!?ホント!?やった!」


椅子から飛びあがって喜ぶチェルファーナ。その横でなんだそれ?という顔をしている俺に学院主席様が偉そうに説明をしてくれる。


「王国に貢献した人に与えられる名誉騎士の称号とペンダントよ。実際に戦う騎士団に所属するというわけでは無いけど、国に認められた人物って事ね。王城のパーティにも参加できるし、それを持っているだけでかなりの著名人として扱われるわ」


「へえー」


あまり感動を示さない俺に市長もチェルも少し不満そうな顔になった。


「なんだジュンヤ、嬉しくないのか?」


「まぁ、俺のマシンゴーレムの名前が売れるならそれはそれでありがたいが……王城のパーティとか行かないからなぁ。それより報奨金はいくら貰えるんだ?新しいゴーレムを作ったおかげでうちの工房は火の車なんだ」


肝心の部分について聞いた俺に市長はきっぱりと言い放った。


「そんなものは、無い」


「無い!?」


予想外の答えに俺の目は飛び出そうになった。あの巨人を倒して(一人でやった訳じゃないが)貰えるのがなんだか良くわからない勲章一個とは。期待した分余計に心理的ダメージが重い。


「なんてこった……今夜こそ久しぶりに肉が食えると思ったのに……」


「あんな贅沢なゴーレムを作るからよ。しかも売り物じゃなくて自分用だなんて。そりゃリティッタのご機嫌が悪くなるのも無理ないわ」


「……とにかく、この勲章とその新しいゴーレムがあればジュンヤの名声は一気に広まる。金持ちの客が来るのも期待できるだろう。授与式は明日正午にクローネタワーの展望レストランで行う。それなりに良い格好で来てくれ、ジュンヤのために料理も多めに用意させておく」


「そりゃありがてえや」


「じゃ、また明日ね」











市長から聞いた話を伝えるとリティッタは予想外に喜んだ。騎士勲章というのは相当有名なものらしい。日本で言う内閣総理大臣賞みたいなものだろうか(昔、毎日パソコン入力コンクールなるものを受けたがあれも総理大臣賞と聞いて驚いた)。


「凄いじゃないですかご主人さま!」


「そんなにありがたいものなのか?」


「ゴーレムに詳しくない人でもダンナさまに興味を持つくらいにはな。よその街からのお客も増えるかもしれないぞ」


世事にあまり興味のないウーシアも少し嬉しそうに言っているくらいだから知らない俺の方が少数派なんだろう。地球人なんだから仕方ない。


「有名になって忙しくなるより、今は大金が転がり込んでくれたほうがありがたいんだけどなぁ」


「そんなんじゃ天国のお師匠様に怒られますよ。それより明日の式に出る服を用意しないと!」


「ええ?前にホテルに飯を食いに行った時のでいいじゃないか」


「ダメですよ!勲章の授与式なんですよ!ちゃんとしっかりした格好で出席して下さい!」


激おこ状態のリティッタに引っ張られて俺とウーシアは街の大きな仕立て屋まで連れてこられた。ラフな生き様が身上の俺たちとしてはこういう店は大変苦手だ。体中にメジャーを当てられ何時間もしてやっと似合うタキシードとドレスを用意された。


「だから勲章なんて貰うのは気が進まないって言ったんだ」


「ワタシも少しその意見には同意だ」


ぐったりしてそう言う俺たちの言葉は一切聞かず、リティッタは満足そうに手を引っ張って帰宅した。(代金はツケにして貰うことになった)


明けて翌日。クローネタワーの展望レストランは大変な人数でごった返した。およそこの街で出会った人はみんないるんじゃないだろうか。


「おめでとう、ジュンヤ!」


「良かったな!」


「おめでとうございます!」


ケイン達やジェフ、ヒムにピェチア、ラドクリフ、バーラム、ザッフ、プレク達にあの『色眼鏡』のユアンとジョアンまで来てくれている。とにかくみんなに一言づつお礼を言うのが忙しい。料理もステーキに海鮮パスタに鶏の丸焼きなど食いごたえのあるものがたんまりと並んでいて俺とウーシアの胃が早くも檻に入れられた獣のように暴れてようとしている。


一通り挨拶が終わったところでみんなにシャンパンのグラスが回され、俺とチェルファーナ(細かい刺繍の施された薄桃色のドレスを着ている)に壇上に上がるよう市長から声がかかった。役者が揃ったところで市長がゴホンと咳払いをする。


「みんな、忙しい中集まってくれてすまない。今日、ここにいる二人の偉大な技術者が王国騎士勲章を授与される事となった。ジュンヤが金勲章でチェルファーナは銀勲章だ。大変めでたい事なのでみんなで是非祝いたい。とりあえず二人から一言ずついただこう」


雑なフリだなと思いつつ壇上でみんなに一礼をする。


「みんな、わざわざ集まってくれてありがとう。正直な事を言うとこの騎士勲章、その……どのくらい凄い名誉なのかあんまりわかっていないんだけど」


隣のチェルファーナからゴスッと肘鉄が入り会場に失笑が漏れる。


「でも、勲章が貰えたのはありがたい事だし、何よりそれはみんなが俺のゴーレムを買って上手く使いこなしてくれたからだと思う。本当にみんな、ありがとう」


もう一度頭を下げる俺にとても大きな拍手が浴びせられた。まさかこんな異世界にやってきて大勢の人に褒めたたえられるとは思いもしなかったので感激だ。続けてチェルファーナもみんなに挨拶をした。


「皆さん、今日は本当にありがとうございます。ジュンヤより下の勲章というのが結構悔しいけど、次はより上の勲章がもらえるように今まで以上に頑張ります。これからもよろしくお願いします」


チェルファーナにも同じように拍手が送られた。俺も横で力一杯拍手をしてやった。それからみんなで乾杯をする。


「よし、これで大事な所はおしまいだ。二人にはこれからもノースクローネのためにガンガン働いてもらうこととして……後はみんな酒と料理を楽しんでくれ」


「うおおおー!!」


市長の言葉に冒険者達は雄叫びを上げると料理に群がって行った。ウーシアも負けじと緑のドレスの裾を上げて冒険者の群れに割り込んでいく。


「あーあー!せっかくのドレスが!」


リティッタがみんなに続こうとする俺の服の袖を捕まえながら悲鳴を上げる。


「リティッタさん、俺も肉食いたいんですけど」


「持ってきてあげますから待ってて下さい。ご主人さまは主賓なんですから、大人しくしてなきゃダメですよ」


メッ!と怒られてテーブルに座らされる俺。皿を持って冒険者の背中を追うリティッタを見ていると、グラスを持ってラドクリフがやってきた。


「やあ、おめでとうジュンヤ」


「ありがとう。……でもなんかこの式にみんなが来たのってタダ飯が目当てなんじゃないかって気がするな」


「気にするなよ。めでたい事には変わりないさ」


チン、とグラスを交わしてからシャンパンを楽しむ。


「名誉騎士を授与されたゴーレム技師がいるとなれば、腕に覚えのある冒険者も自然と集まる。そうすれば迷宮の奥に潜む“強大な者”とやらとも戦える……というのが市長の考えじゃないか?」


「なるほどねえ」


レストランのスタッフと忙しそうに話している市長(代金の値切りでもしているのだろうか)を見ながらラドクリフの話にいろいろと納得する。


「ラドクリフは、その“強大な者”ってどのくらい強いと思う?」


「実際会わないと何とも言えんが」


肩をすくめてシャンパンを飲み干してから、少し考えてラドクリフは続けた。


「これだけの大きな迷宮に封じられる存在だ。まともに考えてもロクな奴じゃない。ジグァーンを10体相手にするより苦労すると考えていいんじゃないか。山のような竜か……一息で100人は殺す毒を吐くヒドラか」


「そんなの、冒険者をいくら集めても勝てないんじゃないのか」


 心底ゾッとして背筋が震える。あんなのが10体も出てきたらもう逃げるしかない。


「そこは名誉騎士ゴーレム技師のジュンヤ様が何とかするのさ」


「冗談だろ」


嫌そうな顔をする俺を見てラドクリフが珍しく面白そうに笑う。


「みんな心のどこかで期待はしてるのさ。だからこうやって祝いに来ている。とんでもない魔物が出てきてもジュンヤのゴーレムがいればきっと勝てるってな。当然俺達にも冒険者の誇りはあるが、それだけではどうしても乗り越えられない時がやってくる」


「ラドクリフ……」


「その時には、力を貸してくれ」


一転、真剣な顔になるラドクリフの差し出した手を俺は苦笑交じりに握った。


「約束するよ」





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