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1-5 盾とドワーフ:前編


 リティッタが鍛冶ギルドに帰ると、家が少しさみしくなった。しかしお陰で工房も部屋もすごく綺麗になった。今夜は久しぶりに気持ちよく寝られそうだ。


 「晩飯でも食いに行くか」


 このまま寝るのもなんだしなと小さな財布に銅貨を10枚ほど入れて家を出る。いい匂いの漂う暗くなった街を歩きながら店を品定めしていると、まさに焼き鳥という感じの串焼き肉の飲み屋が目に入った。


 (塩でいただくか)


 異世界タレがあればそれはそれで食いたいなと思いながら木のドアを開けて店に入る。のれんが無いのが寂しい限りだ。


 「えらっしぇえーー!」


 威勢のいい親父の挨拶を耳に浴びながら席に座る。カウンターは常連が占めているようで店の端の小さいテーブル席に座った。赤毛を三つ編みにしたソバカスのお嬢ちゃんが注文を取りに来る。


 「こんばんわ!なんにしましょ」


 「サングリアに串焼きを適当に4本くらい。塩と……タレはあるの?」


 「ありますよ、特別ソースのいい味の奴」


 「じゃあ2本ずつで、あとネギかなんか。よろしく」


 「はいはい少し待っててください!」


 半分踊りながら楽しそうに厨房に向かうお嬢ちゃん。店員が楽しそうに仕事する店はいい店だ。とりあえずサングリアを楽しみながら客を見渡す。


 (冒険者が多いな。ギルドが近いからか……ちょいちょい妖精っぽいのもいるようだが)


 隣の席では豊かなヒゲのドワーフがでかいジョッキでビールをごくごくと飲み干していた。全身包帯だらけで左腕はよく見ると骨折しているようだ。仲間のレンジャーや魔法使いが苦笑いしながらそれを見ている中、10センチほどの大きさの、ティンカーベルのようなフェアリーが飲酒をやめさせようと叫びながら飛び回っている。


 「おまたせ致しましたー!串焼きですよ」


 「おお、ありがと」


 俺の卓に届いた串焼きは鶏や豚肉などいろいろな部位の物が適当に刺されて焼かれたモノだった。俺は食い物にはうるさく言わない性分なので黙って頂くことにする。塩はかなり濃い物を使っていて酒に合うし、タレは野菜を煮詰めた甘辛めの物でこれも美味い。同じ肉なのにそれぞれ全然別の味わいになっていた。玉ねぎみたいな野菜の輪切りを焼いた物も、苦さと甘さが程よく融合して実にグッドである。


 (この街は美味い店が多いな)


 メシが美味いのはありがたい事だ。もぐもぐと肉と酒を楽しみながら他の冒険者の様子も見てみる。それぞれのパーティの戦士役っぽい人はやはり生傷が絶えない様だ。金属鎧や盾にも損傷が目立つ。迷宮探索というのは過酷な商売なのだろう。先程のドワーフなどはチョッキみたいな簡単な革鎧しか着ていないので、当然受けるダメージも激しくなる。というかなんでパーティ唯一の戦士がそんな軽装なのか。


 他のパーティも戦士が2人だったり薬師が3人だったり弓使いしかいなかったりとどうにも片寄りが激しい気がする。RPGとかのゲームの影響で冒険者パーティというのは戦士に魔法使いに回復役に……とバランスを取る物と思っていたが、実際問題そう都合良くパーティが組めるわけでもないようだ。


 (一緒に迷宮に挑むなら気の合う奴じゃないと嫌だろうしなぁ)


 そんな事を考えながらゆっくりと晩飯と酒を味わっているうちに隣の席のパーティはお開きになったようで酔っぱらったドワーフを担いで店を出る所だった。フェアリーが呆れ顔で見送りながらぼやいている。


 「なんでドワーフが酒で潰れるのよまったくもう」


 好奇心が疼いた俺はそんなフェアリーに声を掛けた。


 「なぁ、そこのフェアリーさん」


 「ピェチアよ。なぁにお兄さん」


 振り向いたフェアリーに人差し指を出すと、ピェチアと名乗った女の子のフェアリーは両手で指先を握ってくれた。なかなか良い奴のようだ。


 「いきなり話しかけてすまない。おれはジュンヤ。最近この街に引っ越してきたんだ。ちょっと気になった事があってさ」


 そう言いながら片目で店から出ていくドワーフとその仲間たちを見ると、ピェチアは小さな体から深いため息をついた。


 「アレ?ドワーフのオルデン。ウチのパーティの大事な戦士なんだけどとにかく突撃命の単細胞で怪我が絶えなくてねぇ」


 「突撃はまぁ戦士の仕事のような気がするが、それなら硬い鎧を着た方が良いんじゃないか?」


 「ああ見えて意外と足さばきに自信があってね、避けながら戦うってのが身上なんだって。でも正直なところを言えば鎧より酒代の方が優先みたい。パーティの盾役も兼ねてるのに潜っていきなりザコモンスターに大ダメージくらって撤退なんてのも一度や二度じゃすまないんだから」


 割とストレスがたまっているらしいピェチアの話に俺は商機を感じ始めてきた。


 「なぁ、俺は冒険者用のゴーレムを作っているんだがもしかしたらキミらの力になれるかもしれない。興味があったら明日西の街外れにある俺の工房へ来てくれないか?」


 俺の言葉に緑の髪のフェアリーはキョトンとした顔を返した。







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