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1-16 眼帯と扇風機:後編





 それから二日、扇風機『ガルー』の作成に精力を傾ける。とにかく重量オーバーは話にならないので、重要なフレーム以外は穴を開けまくり軽量化を施す。扇風機本体を構成するリングもひたすら鋼板をハンマーで叩きできるだけ薄くした。


 もう一つの問題は出力で、肝心の霧を吹き飛ばす風量が無ければいけない。最初は本体の魔導力炉からのパワーを使おうと思っていたが扇風機を動かすと浮遊に回すマナ・パワーまで無くなる事が判明した。仕方なくマナ・ダイナモを増設する。軽量化した分が一気にチャラになってしまった。

 

 「どうします?」


 古いレジスターみたいな計算機を叩きながら重量配分を計算するリティッタが困り顔を見せる。穴を開けられるところは全て開けたし、翼の大型化も限界がある。俺は舌打ちしながら本体のカウルを外し始めた。


 「仕方ないから本体の方の魔導力炉も一つ上の出力の奴にしよう。ザッフがお宝を見つけてくれなきゃ赤字だな」


 「わかりました、用意しますね」


 (しかし……なんだかんだで今回もいい稼ぎにはならなそうだなぁ)


 工房の宣伝の為にはこういう銭にならない仕事でもキッチリやって評判を上げなければならないのだが、そればかりでは肝心のメシが食えなくなる。まるで貧乏な下町の工場だ。グッとこらえてコストの高い魔導力炉を積み込む。


 「そこ、ボルト締めてくれ」


 「はい、もう少しで……OKです」


 「よし……これで大体は完成だな。後は試運転して自律行動に問題が無ければ引き渡しだ」


 「名前はどうするんですか?」


 そう言えば扇風機とばかり呼んでいて名前が無かった。そもそもリティッタは扇風機を知らないし。


 「そうだなぁ……『ファンガルー』にするか」


 「なんか安直ですが、わかりやすくていいかもですね」


 時々コイツは痛い所を突く。魔操杖をリティッタにポイと渡すと彼女は面倒臭そうにそれを『ファンガルー』に向け起動ボタンを押した。


 フィ……ィィィィィィンとドローンが飛ぶように『ファンガルー』が飛び始める。どうやら飛行は問題ないようだ。続けてリティッタにメイン機能であるファン、送風機能のスイッチを入れさせた。


 ゴォォォォォォォォー!


 意外に強力な風が工房内に吹き始める。机の上の設計図やメモが飛び散り、さらに椅子までもがガタガタと動き始めた。


 「よ、よし!もういい、動力オフ!」


 「は、はいぃ!」


 リティッタも慌てて魔操杖の入力を切る。ゆっくりと『ファンガルー』が着地した時には、俺もリティッタも髪が天然パーマ寸前になっていた。


 「アハハ、お前凄い頭になってるな」


 「ご主人様も爆発した鳥の巣みたいになってます!」


 「まぁまぁ怒るな。クシで梳かしてやるから待ってろ」


 その後クシャクシャになったリティッタの髪を丁寧に梳かしてやったのだが、彼女の機嫌は帰るまで直らなかった。俺はリティを見送ると二日ぶりにベッドに入り、横になって10秒後には眠りについていた。








 明けて翌日、ザッフが注文のゴーレムを受け取りに来た。


 「どうだ塩梅は」


 「裏に置いてある。ま、満足してもらえると思う」


 俺は工房の裏に回してある『ファンガルー』の所にザッフを案内した。


 「なんで外にあるんだ?」


 「思いのほか威力が出てな、中で動かすと工房が壊れるかもしれないんだ」


 「そりゃあ期待できそうだな」


 裏の空き地に置いてある『ファンガルー』を見てザッフは、ほうと小さく漏らした。


挿絵(By みてみん)


 「意外と小さいんだな」


 「迷宮の中では、威力さえキープできれば図体は小さければ小さいほどいいんだ。小回りが利くからな」


 「なるほどな、で、どう使うんだ」


 リティッタが魔操杖を見せながら使い方を指南する。ザッフがそんな簡単でいいのか?と半信半疑でロッドを『ファンガルー』に向けると、扇風機ゴーレムはゆっくりと宙に浮かんだ。


 「おお!飛んだぞ!」


 機械が苦手なオッサンにラジコンを持たせた時と同じようなリアクションをするザッフ。年季の入った冒険者の風格が一気に無くなってしまっている。


 「そしたら、真ん中のスイッチを押すんだ」


 「これか!……うぉぉぉぉぉおおお!?」


 『ファンガルー』の下にぶら下げられた扇風機が運転を始め、ザッフに向かって強風を吹きかけた。威力がわかっている俺とリティッタは早々に『ファンガルー』の前から逃げ出している。予想通りザッフの髪も服装も嵐に遭ったように滅茶苦茶になったが、本人はその性能にいたく感動したようだ。


 「これだよこれ!これならあのウサギどもも手も足も出ないってもんだ!いやあありがとな!」


 「結構金かかっちまったんだ、お宝の分け前よろしくな」


 「おう、任せとけ!」


 最初のクレバーな印象はすっかり無くなり、代金を払ってご機嫌な足取りで帰って行くザッフに俺とリティッタは一抹の不安を抱いた。

 

 


 





 数日後。工房で新しい魔導力炉を組んでいると、あのザッフがぶらりとやってきた。いつもと違いボロボロの格好だ。慌ててリティッタが救急箱を持ってくるが、ザッフはヨロヨロしながらも手を上げてそれを止めた。


 「傷は塞がってる、大丈夫だ」


 「だいぶ苦戦したみたいだな」


 客用の木の椅子を出してやり座らせる。それからポットに淹れてあったお茶を注ぎザッフに飲ませてやった。


 「すまねえな……いや、冒険稼業ってのは全く思うようにいかねえもんだ」


 「霧は飛ばせなかったのか?」


 いや……と言いながら、ザッフはお茶を一気に飲み干す。


 「お前さんの仕事は完璧だった。俺たちはフェイントラビットの棲家にもう一度突っ込んだんだ」


 彼の話では、こういう顛末だった。


 攻撃を受け催眠の霧で反撃するラビット達に対しすかさず『ファンガルー』を起動させたザッフ。扇風機の風は見事通路の中に放出された昏倒の霧を追い返し、そのまま無防備なラビットに接近した。しかし、その奥から大きな獣が現れた。


 「いわゆるジャイアントトゲアルマジロってやつだ」


 「アルマジロってあの丸くなるやつか?」


 「そうだ」


 人間の大人より大きく硬い表皮に鋭いトゲを持ち、特に火を吐いたりするわけではないが丸まって体当たりをするだけで並の冒険者には脅威だ。狭い通路では避ける事もままならず、また具合の悪い事にフェイントラビットの霧では昏倒せず、むしろ興奮して暴れ回り出したのだ。ラビットは通路の壁の穴に逃げ込み、必然的に対峙するアルマジロとザッフ達。


 戦闘を開始した両者だったが、残念ながらザッフのパーティの火力ではアルマジロの外皮を貫通できなかった。ボール状になったアルマジロから逃げ惑っているうちにメンバーはバラバラになるわ落とし穴に落ちるわ散々な目に遭いながら、何とか全員合流して今しがた帰ってきたのだという。


 「そりゃあ……エライ目に遭ったなぁ」


 「全くだ。まさかあんな奴が出てくるとはなぁ」


 上体をそらして伸びをしようとしたザッフがイテテと腰を抑える。落とし穴でケツでも打ったのだろうか。それからポケットから小さい金色のナイフを出し、机の上に置いた。


 「これは?」


 「今回の稼ぎの1割って奴だ。ウサギの前に見つけた小部屋の宝箱の中にあった」


 ナイフを手に取って見てみる。黄金製だがペーパーナイフみたいなもので宝石などの装飾も無い。それほど高値はつかないだろうが、それでもこうやって持ってきてくれたザッフの律義さに感心し、素直に受け取る事にした。


 「物足りないけど、じゃあこれで」


 「悪いな、なんか厄介なヤツがいたらまた来るよ」


 「ああ、よろしくな」


 そう言うとザッフは席を立った。街の方へ帰って行く後姿を見送りながら、リティッタが不満そうに椅子とコップを片付けた。


 「大していい稼ぎにならなかったですね」


 「仕方ないさ、向こうは稼げなかったどころか痛い目にあって帰ってきたんだから。ナイフを貰えただけでもありがたいってもんさ」


 「ご主人様は少し甘すぎますよ」


 

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