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1-12 チャラ男剣士と草刈りゴーレム:後編



 翌日、いつもより遅く起きてからゴーレムの作業を続ける。魔物との戦闘のルーチンやコマンドを組むのは、タイプライターみたいな機械にマナ・カードを挿して入力をする。条件付けをして複雑な戦闘を実行する事も出来るが、使い手がちゃんと理解していないとアダになる事もあるので大体シンプルな行動しか入力しない。工程的にもその方が楽でいい。


 程よく進んだところで先日自作したシャワーを浴び(二階にある水タンクにポンプ役のゴーレムが水を汲み上げてそれを流すだけのシンプルな物。リティッタには好評だった)、冷たい水を飲んでさっぱりする。昼時には少し早いが飯を食いに出かけてしまおう。工具棚の奥に隠してある“生活費”と書かれたツボから適当に銅貨をひっつかんでポケットに入れてから出かける。


 街にいくつかある食堂から、近めにある『青い航海』亭に入る。なんで海から離れたノースクローネでこんな名前を付けたのかは知らないがメシの方は安くて美味いので重宝している。ウェイトレスにスクランブルエッグと焼きチーズスパゲティ、果実酒を頼んでいつもの窓際の席についた。


 「お酒にはまだ早くないですか?」


 後ろからかけられた声に振り向くと市長のメガネ秘書が立っていた。確かマーテとかいうお姉さんだ。会うのは久しぶりの様な気がする。


 「果実酒なんか酒には入らねぇよ」


 「サラダも食べないと可愛い助手ちゃんに怒られますよ」


 「いいんだよ、アイツは今日は休みだ。夜にはメシを作りに来るけどな」


 「え、なんでですか?」


 昨夜のやり取りを話すとマーテはアハハと笑い出した。


 「ずいぶん懐かれてるのねぇジュンヤさん」


 「懐かれてるのか、コレは」


 「そうでなかったら独占欲が強いんじゃないかな、彼女」


 「アイツまだ13だぞ」


 「10歳くらい、大したことはないですよ」


 ニコニコと笑うマーテを見ながら(コイツと市長はどんくらい離れてるんだろうな)と心の中で思いつつ酒を飲む。


 「俺の仕事の評判とか、聞いてもいいか?」


 「そういうの、気にするタイプだとは思いませんでしたけど」


 「一応、ヨソ者だからな」


 その辺を歩いていて睨まれたりした事は無いがどこかで恨みを買ってないとも限らない。


 「そうですねえ……」


 マーテは炭酸水(この地方は炭酸石が多く出回っておりタダ同然でソーダが飲める)を飲みながら少し考えるそぶりを見せた。


 「実際、評判と言うほど噂は広がって無いみたいだけど少なくとも悪い噂は聞いていないですね。貴方の作るゴーレムをもの珍しそうに見ているって感じで自分達でも使うかどうか考え中のパーティがいくつか……ってトコじゃないかしら」


 「先は長いな」


 「もしかして冒険者パーティ全部にゴーレムを売りつけるつもりなの?」


 ケラケラと笑うマーテだが、俺は冗談を言ったつもりはない。


 「市長は冒険者の人手不足を解消するためにゴーレム術師を集めているんだろう?俺としても師匠の名を高めるためにゴーレムを売りまくりたい。利害は今の所一致している」


 「ジュンヤさんは地球から来たのでしょう?なんでそのお師匠さんの為に頑張る事にしたんですか?」


 「俺は……」


 酒を飲み干してしまったのでウェイトレスにおかわりを頼む。


 「地球でも特に目的の無い毎日を過ごしてた。真面目に働いてはいたが、将来どうなりたいとか目指すモノが無かった。こっちに来てあんな老体でなお上を目指す師匠に会って、初めて思ったんだ。この人の夢なら継ぐ価値があるんじゃないか、ってな」


 「変わってますね」


 「そうかもな。でも、今でもそう思ってるよ」


 勢いでもう一杯飲み干すと、もうお腹はパンパンになった。眠くなる前に仕事を進めておかないと。


 「じゃあな、たまにはまた遊びに来てくれてもいいぜ。リティッタが喜ぶから」


 「わかりました、お仕事しっかりやってくださいね」


 秘書に見送られて俺は工房へフラフラと帰った。










 約束の日の朝。俺はケインが来る前に依頼されたゴーレム・『ディケルフ』を玄関の横に出しておいた。ちょうどセッティングが終わったところでケインがやってくる。

  

 「お!出来てるじゃんジュンヤさん!なんかカッケーっす!」


 「そうだろうそうだろう、ちょっと見栄えも良くしておいた」


挿絵(By みてみん)


 ちょっと胸を張る俺。あちこちに装飾を施し見栄えを良くしておいた。両腕には派手なトゲのついた剣を持たせいかにもチャラいケインが好きそうな目立つ外観にしてある。


 「両手に剣!なるほどこれで蔓をズタズタにするのか……でもコイツ、そんなに剣振るの早いんスか?」


 「説明するより、実際に見せた方が早いな」


 俺は魔操杖を『ディケルフ』に向け、ボタンを押した。『ディケルフ』の胸が少し前にせり出し大きな歯車が露出する。


 「おおっ!」


 続けて両腕が前を向く。上腕に仕込まれた歯車が胸の歯車とがっしり噛み合った。それから両手首が少し内側を向き、持っていた剣の腹が正面を向く形となる。


 「さぁ、見て驚けよ」


 ギュゥゥィィィィィィイイイイイン!!


 胸の歯車が高速回転を始めた。連動し両腕のものすごい速さで回転する。そしてそれは両手の剣も扇風機の様に回転する事に繋がった。剣が起こす風圧で地面から砂埃が舞いあがる。


 「おおおおおお!スゲェ!スゲェよジュンヤさん!」


 「そうだろうそうだろう」


 ケインの素直な称賛に満足した俺はボタンを解除して『ディケルフ』を通常状態に戻した。


 「剣の回転速度は、悪いがケインの2倍!それが二本で4倍だ!これでそのなんとかプラントも手も足も出なくなるだろう。一応普通の戦闘も出来るから安心して使ってくれ」


 「確かに、この速さなら行けそうだ……ありがとな!ほら、代金。一応50持ってきてる。残りは帰って来てからでいいかな。ちょっと現金の手持ちが無くてさ」


 「仕方ないな、バッチリ稼いで帰って来てくれよ」


 「おう、任せといて!」

 

 意気揚々と帰って行くケインを見送ってから、二階のバルコニーを見上げる。そこには冷めた目で一部始終を見ていたリティッタがいた。


 「イケメンだったろ?」


 「……確かにイケメンでしたけど、チャラすぎてどうにも……あんまり好みのタイプじゃないですね」


 はっきりとわかるくらいの半眼でケインの背中を見るリティッタ。


 「そんな若いうちからハードル上げてると、嫁の貰い手がいなくなるぞ」


 「ご主人さまには関係無いですー!」


 べーっ、と舌を出して部屋に入って行くリティを見て俺も工房に戻る事にした。


 後日の話になるが、ケインのパーティは無事ウィッププラントを討伐しその先にあったお宝を回収できたそうだ。他の冒険者もそのあたりで手詰まりになっていたので、ケイン達が帰ってきた時はちょっとした祝勝会ムードだったらしい。お陰で俺も追加で銀貨30枚をもらう事が出来た。しかし彼に対するリティッタの評価は全く変わらないとの事だった。

 



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