第八十三話 戦いの果てに訪れるのは
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※聖哉視点
外海の繋がる沖で大海竜と巨大イカがお互いに絡み合っている。大海竜は吸い上げた海水を水圧レーザーのように圧縮して撃ち出し、巨大イカが締め付けようとしていた足を斬り飛ばしていたが、直ぐに新しい足が生えて首元を締め付けていた。
二頭のSランク害獣が決戦を始めて早一ヶ月が過ぎ去ろうとしていると聞いているが、お互いに決定打を放てない距離での戦いとなり、決着をつける手段に手詰まりを感じている様子も感じられている。
「ワズリンの人達のためにも、そしてイシュリーナのためにも、二体とも僕が討伐させてもらう」
僕は柊主任のバフ系魔術で能力値を底上げしてもらい、Sランク勇者としてもLVを上げてきたことで、目の前で絡みあうSランク害獣二体を見ても恐れを感じることはなくなっていた。増強された能力は柊主任には遠く及ばないものの、柊主任が鑑定した情報から得たステータスでは目の前の害獣達を凌駕しており、グエイグさんに頼み込んで新調したオリハルコン製の槍を持ってすれば勝てない相手ではなかった。
現に、二体の害獣の動きは緩慢であり、あの程度の動きであれば、攻撃を一度も喰らうことなく、害獣討伐を達成できる気もしている。おまけに、今回の戦いは涼香さんの使い魔である大鷲を通じてビーチでイベント放映されており、イシュリーナもお忍びで見に来ているので、下手な戦いはできないことになっていた。
自分から志願したこととはいえ、まさか海パン一丁で戦うハメになるとは思ってなかったが、柊主任のサポートがあったとはいえ、一人でSランク二体を討伐すれば、親父も少しは僕の言葉に耳を傾けてくれるはずだ。そう思ったことで、今回の討伐に志願しているのだが、思ったよりも余裕で勝てそうであった。
「さて! ショーの開始とさせてもらいますか」
僕は槍を構えると、手前にいた巨大イカに向けて駆け出していく。すでに水上歩行の魔術をかけてもらっていたので、海上は普通の地面と同じように踏みしめることができ、戦闘でのハンデはかなり軽減されている。
近づいてきた僕を感知した巨大イカが足を数本、海中から出し迎撃のために鋭く突き出してきたが、能力を向上させてもらった僕には止まって見えるのだ。攻撃をかわすまでもなく、近寄ると槍で足を斬り落としていく。そして、傷口を指定して豪火炎を発動させた。ジュウジュウとイカの焦げる匂いがすると醤油を垂らして食べたくなるが、今は戦闘中のため自重しておくことにする。
足を焼かれた巨大イカは大海竜の首元を絞めていた足も動員して、痛みを与えてくる僕に戦いを挑んでくる。イカの口元がモゴモゴしたかと思うと真っ黒な粘液が僕に向って飛び出してくる。だが、そんなものは当たるわけもなく。颯爽と躱すと足を駆け登り、巨大イカの巨大な目を槍で刺し貫いてやった。目を貫かれた巨大イカは痛みのあまり、辺り構わずに足を振りましてめちゃくちゃに攻撃するが、生憎と僕には当たらず、近くにいた大海竜の頭を叩いていた。不意に攻撃された大海竜は激高したようで、再度、海水を吸い込むと水のブレスで巨大イカの耳の部分を斬り飛ばしていく。
「Sランク害獣って言ってもこの程度か……でも、これも柊主任の魔術のおかげなんだよな。もっと、強くならないと独り立ちはさせてもらえないか」
柊主任の能力向上系バフ魔術はエルクラスト最高クラスの魔術であり、その恩恵を受けて戦いを有利に進められているだけであることは自覚しているつもりだ。その事も含めてまだ自分の未熟さを知ることができるには、柊主任の存在が大きかった。柊主任はこのエルクラストで他の追随を許さない圧倒的な力を持っていながらも日本での鍛錬を欠かさないと聞いている。
あの暴力的ともいえる力を持っている柊主任ですら、鍛錬を欠かさないのであるなら、僕如きが猶更鍛錬を怠っているわけにはいかなかった。
「僕は柊主任の背中を追ってエルクラスト一の派遣勇者になってみせるんだ!」
近寄ってきた巨大イカの足を斬り飛ばすと、槍先に渾身の気合を込めていく。害獣退治で修行していた最中に使えるようになったスキルであるが、意外と魔力を消費するため、僕のとっておきの切り札にしてある。その切り札を巨大イカに向けて放つため、精神を集中していた。
「喰らえ! 回転槍!!」
身体から何かが抜け出す感覚とともに槍先に空気の刃がまとわりつき、らせん状に回転し始めていく。その回転刃の付いた槍を巨大イカに向けて思いっきり投擲した。投げた槍は巨大イカの胴体に命中すると、その巨体を空気の刃が切り裂くように貫いていき、大きな穴を空けていた。ビクビクとしばらく足が脈動していたが、やがて動かなくなると、どす黒い液体を垂れ流して海中に沈んでいく。しかし、ここは水深の浅い場所であったため、身体の半分が沈んだところで動きが止まっていた。
一ヶ月に渡り争っていた巨大イカが無残の姿を晒して倒されたため、大海竜は僕に対して敵愾心を燃やし始めたようであった。せっかく、ライバルを倒してあげたのに恩を仇で返されたような気もするが、大海竜から見ればどちらも倒すべき敵であったようだ。
吸い上げた海水による水圧レーザーがかすめていくが、スロー再生と同じくらいのスピードで迫るため、当たりたいと思わない限り避けるのは楽勝なのである。ヒョイと水圧レーザーを避けると、その発生源である大海竜の口元を手元に戻ってきた槍の石突で叩きあげるとベキッという音がして下あごがプラプラと垂れ下がった。痛みに悶える大海竜が尻尾を振り乱して暴れ回るが、そんな見え見えの攻撃には当たらない。尻尾をサラリと避けて、身体に飛び乗ると手元に戻っていた槍に再び気合を込め直して本日二度目の回転槍を発動させていった。
「悪いけど、害獣には消えてもらうからね」
最後の言葉を大海竜にかけると顎が外れて垂れ下がっている頭部に向けて槍を力いっぱい投げ付けた。







