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第八十二話 海パン勇者現るとか言われたくない

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 『海獣大決戦』という無茶振りは本当に無茶振りのイベントであった。シュラーに案内されてリゾート地区に移動するとビーチに作られた特設会場で水着姿の老若男女が、トルーデさんが投影している巨大ディスプレイに視線を釘付けにしていた。


 すでに聖哉がオレのバフ系魔術の援護を受けて沖で荒ぶっている大海竜(サーペント)巨大イカ(テンタクルス)の間に割って入り、槍を片手に戦いを始めていた。海上での戦闘であるため水の上を歩ける水上歩行ウォーターウォーキングも併用して魔術をかけてあり、普通の地面で戦っているのと遜色ない動きができていた。ただ一つだけ問題点がある。かなり修行してLVアップしている聖哉であり、オレの能力向上系魔術の援護を受けているとはいえ、戦っている姿が海パン一丁なのである。ちなみに、会場警備を請け負っているオレもブーメランパンツばりのビキニパンツ一丁で防波堤の上で戦闘の様子を眺めているのだ。


 隣には同じく会場警備役を担っているエスカイアさんと涼香さんが、どちらもビキニタイプの刺激の強い水着を着用して警備にあたっている。抜群のプロポーションを誇る二人が両隣でビキニ姿を晒していると思うと、気が散ってしょうがないが、トルーデさんと涼香さんが仕組んだ『海獣大決戦』のイベントに華を添える演出だと言われ、シュラーが泣き落してきたので、渋々許可していた。


「それにしても、ヴィヨネットさんは完全にアシスタント的な扱いですね。こんなのがクロード社長にバレたらなんて弄られることか……」


 背後のビーチでは聖哉の戦いを映し出したディスプレイを元に、街の代表者であるシュラーとともに面白おかしく解説を行い、観客達を害獣との戦闘へ狂喜させていた。ヴィヨネットさんはトルーデさんのアシスタントとしてメイド風ビキニを着せられて、色々と扱き使われているのである。そして、あの映像を撮っているのは、涼香さんが近頃使えるようになった召喚魔術で使役している元害獣である大鷲の目線で撮られている。召喚魔術は害獣の精神を支配して自分の思う通りに使役する魔術であり、使用中は使役害獣と一体化するため、本体がかなり無防備になる。なので、今涼香さんは大鷲と一体化しており、上空から映像を撮ることに専念していた。


「ヴィヨネットさんはアレで喜んでいますから特に問題もないですわ。わたくし達は事故が起こらぬようにしっかりとここで害獣を食い止めることをすればよろしいかと。涼香さんも今はとても無防備な状態なので」


 自ら呼び出した大鷲に一体化している涼香さんは、地面に腰を下ろし体育座りをしているが、その目は虚ろで意識はこちら側に残っていない。そんな涼香さんも護衛しながら、二〇〇メートルほど先の場所で戦っている聖哉の戦いを自分のディスプレイに呼び出して映し出した。


 海パン一丁でオリハルコン製の槍を持つ聖哉は細マッチョな身体付きであるが、脱いでも均整の取れた身体で顔立ちも少し童顔ではあるもののイケメンと言って差し支えない顔なので、イベント会場からは若い女性やおばさん軍団からの黄色い声援が上っている。その熱狂的な声援を鑑みると、きっと、この討伐が終えた後には『海パン勇者の赤沢聖哉』として肖像画か立像ができると思われた。すまん、聖哉。これもお前の恋人であるイシュリーナが待ち望んでいる街道整備のためだ。甘んじて『海パン勇者』の称号を受けてくれたまえ。

 

 オレはこのイベント後に行われるであろうヒーローインタビューで聖哉に付けられる称号を思うと、同情を禁じ得なくなる。だが、エルクラストの嫁をもらうと公言している以上は甘んじてその称号を受け入れねばならないのである。


「聖哉も頑張っているなぁ。早い所独り立ちさせてやってイシュリーナと結婚させてやりたいところだが……」

「Sランクを害獣独力で狩るのは結構大変ですからね。聖哉君もそのことを理解してますわよ。『僕は柊主任に助けられているだけだ』って常々言っているし、オフの日は狩猟許可貰ってイシュリーナの領内の害獣を駆逐してますしね。真面目な子ですわ」

「オレも負けてられないね」

「翔魔様もオフの日は東雲さんから剣術の指導を受けているではありませんか。それにわたくしに弓の手ほどきをして欲しいと言われた時には、心底驚きましたわ。それも、派遣勇者の力が発揮されない日本で修練を重ねるなんて二重の驚きでしたわ」


 エスカイアさんが言った通り、仕事が休みの日は日本で東雲さんに剣術修業をしてもらったり、エスカイアさんに洋弓の手ほどきを受けて、自らの基本となる腕前を鍛えることに多くの時間を費やすことにしている。もちろん、ゲームをしたり、ショッピングをしたりして息抜きもしているが、基礎的な戦闘技術を向上させればエルクラストにおける自分の戦いが変化することに気付いたため、その基礎戦闘力を向上させることに面白さも見出していたのだ。


 オレはエルクラストにいる間は、勇者適性SSSという破格の能力を手にできるが、何でもできてしまうため、技術の向上を怠ってしまう傾向にあり、魔術や力任せの戦闘で勝ててしまう。そういった戦闘を続けていたため、色々と周りに影響を与える戦い方しかできないようになり、派遣勇者としては聖哉よりも使い勝手の悪い勇者でしかなくなってしまっている現状を少しでも打破しようと、魔術や能力に頼らないで戦えるように自らを改変する途中であった。剣や弓で戦えるようになれば、周囲に与える影響も最小限に抑えられるはずなのだ。そうすれば、より敵の難度に応じた柔軟な戦闘が行えるようになる。そうすれば、もっとエルクラストで害獣に苦しめられている人達の助けになれると思い自己鍛錬に励んでいるのだ。


 とりあえず、現状の成果は硬い害獣で鉄の剣を曲げることだけは無くなった。強度的にそこまで硬くない鉄の剣を愛用することで、剣筋が立つように意識するようにしており、何本も曲げてきたが、最近は曲げずに両断できるまで腕が伴ってきている。


「オレもパワー頼りの戦闘から技巧派と言われたいんで努力してる。戦う度に山一つが消し飛ぶとか言われないようにしないと」

「翔魔様のお力は伝説クラスの害獣との戦闘には頼もしいですが、通常の害獣にはオーバースペックですからね。わたくしとしても翔魔様の鍛錬にはご賛同いたしますわ」


 エスカイアさんもオレがパワーを持て余していることを知っているので、快く日本での鍛錬を手伝ってくれている。二人でスポーツセンターのアーチェリー場に行って鍛錬しているのだが、指導してくれる時に身体を密着されるとドキドキしてしまうのは致し方ないと思う。オレは綺麗なお姉さんに弱いのだ。


「少しでも役に立つ派遣勇者になりたいからね。そのために少しばかりの鍛錬をするのは苦じゃないさ」

「でも、翔魔様が来られただけで、この街の住民がアレだけ安心して騒げるようになったのですわよ。そう言った意味で言えば翔魔様は害獣に怯えるエルクラストの住民にとって救いの神に等しい御力を持っておられることも自覚してくださいませ」

「神とはちょっと言い過ぎじゃない? オレはただの人だよ。でも、安心を与えられる勇者にはなりたいかな」

「フフ、我が勇者様はエルクラスト一の護り手ですわ」


 エスカイアさんがクスリと笑う。ビキニ姿とあいまって魅力的な笑顔がオレの心を撃ち抜いていく。か、かわいいなぁ。本当にオレの嫁にしていいのであろうか……。というか、していたな。


 オレはドギマギしながら、目線を聖哉の方へ向けた。


海パン一丁で戦うとは思わなかったなぁ。こんな姿をイシュリーナに見られたら生きていけないかも (赤沢聖哉)

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