第七十七話 お屋敷の後始末を終えたが、疑問が残る
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領内で見つかった屋敷の件は会社と機構預かりとなり、オレ達のチームの手を離れていった。オレが見た日本は入念な調査の結果、あの屋敷に設置されていた幻覚の罠によるものだと断定され、それらしき罠の形跡も発見されたそうだった。それにしてもリアルな幻覚であったが、日本とエルクラストの往来が簡単にできる扉がポコポコと生成される事態は悪夢でしかないのでほっと胸を撫で下ろしていた。
「例の件は翔魔が罠にかかっただけというお間抜けな結果であったようじゃな」
ヒイラギ領の孤児院にあるオフィスで、ヴィヨネットさんに数着の新作のメイド服を押し当てて選んでいるトルーデさんがこちらを見ずにしゃべっていた。
「全然、そんな気配はしなかったんですけどね。一応、危機感知も発動させたんですけどね。まったく感知できなかったですよ。幻覚系の罠は感知できないんですかね?」
「ん? それはおかしいのう。確か危機感知は幻覚系にも対応している魔術だと思ったがのう?」
「トルーデ様の言う通りですが、隠蔽と一緒に設置されていたら感知はより難易度が上がりますね」
話を聞いていたエスカイアさんが魔術について補足してくれていた。危機感知は罠を感知するだけの魔術であり、今回の罠は隠蔽されていたため、あそこで隠蔽暴露を使い罠を暴露させないと発見が不可能であったと教えてくれていた。隠蔽魔術を罠にまで掛けて厳重に護られていた物置には確かに重要な資料や書類がしまい込まれていた。
生物兵器である合成魔獣に死病をまき散らさせるという恐ろしい計画が準備され、何体か完成した物があるとの記載はエルクラスト世界の上層部を震撼させるのには十分な資料となっていた。
「見つけられた資料はトップシークレット扱いになったんで、あたしを含め、皆さんも口外するとお叱り程度では済まないと記憶しておいてください。最悪は派遣勇者の資格を剥奪されるかもしれません」
脚立に乗ったトルーデさんに、新作メイド服を押し当てられたままのヴィヨネットさんが放った言葉に、トルーデさん以外が一斉に息を呑む。確かにこんな話が世界に広まればパニックに陥る可能性があり、下手に口外していい話ではないと思われた。
「こ、この話はここまでにしておきましょうか。あ、そうだ。柊君、銀水晶龍の素材売却代金は聖哉君の分は本人口座に振り込んでおけばいいのよね?」
話の内容に危ない気配を感じた涼香さんがすかさず話題を変えてくれていた。オレとしても会社と機構に後処理を丸投げした以上、この件に関しては会社の指示に従うつもりであった。会社がその生物兵器の所在を確認しろとの指示を出せばすぐにでも対応するつもりであるが、これ以上は個人プレーで勝手に話を進められる段階を越えてしまっていると感じているからだ。
偉い人達の判断が不味い方に流れそうなら、派遣勇者としてのプライドをかけてこの世界の住民達を助ける方向に力を尽くさせてもらうつもりだ。けれど、うちのクロード社長とエルクラスト害獣処理機構のブラス老翁は共に老獪な人物であるが、エルクラストのためになる選択を選べる男達だと信じているため、二人の決断に任せることにしていた。
「あ、ああ。そうだ。二体分は聖哉の口座に振り込んでおいて」
「え、あ? 待って下さい。僕だけが倒したわけじゃないんで受け取れないですよ。翔魔さんのバフ系魔術やエスカイアさん、トルーデさん、涼香さん、グエイグさんの援護があってようやく倒せた二体ですから受け取れませんって」
窓辺に立って話を聞いていた聖哉が慌てたように話に割り込んできた。サポートはしたが、実際に倒したのは聖哉であるため、受取に問題がないことはすでにメンバー達に確認済みであった。
「みんなの確認は取ってあるから、聖哉が受け取るようにしてくれ」
「そ、そんな。僕が貰うのは筋違いな気がしますよ。あぁ! そうだ! 僕も寄付しますよ。翔魔さんは今回のお金をヒイラギ領に寄付するって言ってたじゃないですか、僕も同じように寄付させてもらいますよ。僕も銀水晶龍を二体討伐したことで来月の給料からはAランク社員となると聞いてますんで、お金はそこまで必要じゃないんですよ。実際、親父がかなり稼いでくれているんで不自由をしたことないし、特に欲しい物もないんで使い道が無くて貰っても困るんですよね。だから、僕も翔魔さんと同じように寄付させてくださいよ。お願いします」
聖哉がオレと同じように素材売却代金をヒイラギ領に寄付したいと申し出てきており、涼香さんが困ったような顔でこちらを見ていた。お金は幾らあっても困らないと思うのだが、オレも寄付をしているので、頭のいい聖哉に対して受け取りを強制させる言葉が見つからなかった。
「仕方ないな……涼香さん、オレと同じように聖哉の分も寄付で処理できるかい?」
「ええ、それはすぐに可能よ。エスカイアさんを通せば仕事の遅いお役所も二つ返事で処理を決裁してくれるからね。これって日本じゃとってもすごい事なのよ」
「まぁ、蛇の道は蛇とも申しますし、わたくしもクロード社長のお供を何年か務めさせてもらいまして、お役所に顔見知りの方が幾人かおりますので」
ニッコリとほほ笑んでいるエスカイアさんであるが、その微笑みの意味するものが、何なのかは知らない方が身のためなのかもしれなかった。うーん、さすがエスカイアさん。
「聖哉君も寄付してくれるなら、橋の新築もできそうね。柊君の資金だけだと街道の石畳化だけで予算がなくなっちゃったからフェフェ川に渡すための石橋の建設ができなかったよね。おかげでやり繰りすれば立派な橋が掛けられるわ。寄付してくれた二人の名前はその道を使う人に覚えてもらえるように、新街道名を『ショウマ街道』、新しい橋を『セイヤ橋』と名付ける予定でいるからね。これは、ヒイラギ領における公共事業に資金を提供すれば、名を売れると商人達に知らせる意味合いもあるので恥ずかしがったらダメよ」
涼香さんに任せておいた寄付金による街道整備計画はすでに仕上がっており、ドワーフ地底王国の王都エヴァルストからヒイラギ領を通り、ドラガノ王国の王都ギブソンまでを繋ぐ街道の一部が『ショウマ街道』と呼ばれるようになり、その間にある二国間の国境のとなるフェフェ川にかかる石橋が『セイヤ橋』と命名されることは決定されているようだ。だが、自分の名前が街道名に使われると思うと、恥ずかしい気持ちが強くなってくる。
「街道の名前は何とかならないかな……。なんか、自己顕示欲のために付けたみたいで領主としてはそれでいいのかと思ったりしてるんだけど」
「そ、そうですよね。僕も自分の名前が国境の橋に付くとか結構恥ずかしいんですけど」
聖哉もオレと同じように恥ずかしがって照れていた。
良いではないか、良いではないか。ヴィヨネットのメイド服の写真が取りたいのぅ。 (トルーデ)
トルーデさんが完全に暴走しているなぁ。アレクセイさんに報告しておくか。お小遣い削減の打診がくればヴィヨネットさんで遊ぶことも控えるだろうし (柊翔魔)







