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第六十七話 地道な特訓は趣味じゃないが、現状は如何ともしがたい

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「で、柊君は仕事が無くて暇だからといって、剣の修行を含めた武道を学びたいから私に面を貸せというのかね?」


 オレはグエイグの作った例の剣をすら上手く扱えなかったことに、勇者としての危機感を覚えたことで、すべての基礎能力となる武道の経験を積むことで力任せ、能力頼りとトルーデさんに言われないような勇者に脱却したいと思ったのだ。


 そのことをエスカイアさんに相談したら、クロード社長が一番の最適者だとの返答を得ていた。ビックリしたことにクロード社長はエルクラストでも特に秀でた者に与えられる称号である『大陸騎士』という名誉称号を贈られた者であり、日本との接触が起きる前はエルクラストの最精鋭と言われ、害獣処理機構の前身団体『特殊害獣処理軍』の指揮官であったと聞かされた。


 その事を知らなかったオレと涼香さんは非常に驚いていたが、あの容貌を思い浮かべればすぐに納得できた。


「い、いえそのような。ことは……クロード社長がお暇な時間があればでよろしいんですが……なんなら、業務外の時間でも全然大丈夫です」


 サングラス越しにでもギロリと視線が動いた気がして、オレの身体がビクリと恐怖を感じる。未だにクロード社長からの視線を浴びると身が竦む思いをするのだ。沈黙が支配した室内に重苦しい空気が漂っていく。


 エスカイアさん、クロード社長が暇でしょうがないって言ってたじゃんか……。こんなことなら、天木料理長かちょっと危ないけど静流さんにしておけば良かった。


 オレは重苦しい空気に嫌気して武道の師匠候補だった別の二人を思い浮かべていた。剣というか包丁捌きならプロの天木料理長に習うのが一番だと思ったが、前回の銀水晶龍シルバークリスタルドラゴンの討伐祝勝会で借りを作っているので、これ以上の借りを天木料理長に作ると厨房の雑用を押し付けられそうな気もしている。あと一人の候補である静流さんは、害獣討伐時以外は基本戦闘訓練をしているらしく、近づくと修行という名の力比べを強要されかねないので、最後の候補にしてあるのだ。


「……仕方ない。いいだろう。私が手ほどきをしてやろう。ただし、エルクラストでは柊君の力が強すぎるので、日本にある私の行きつけのジムで行おうじゃないか。それなら、キチンと柊君に武道の基本を教えられると思うぞ。この条件を飲めるかい?」


 クロード社長が切り出してきた条件は、派遣勇者としての能力が発揮できない日本での修行の提案だった。エルクラストにいるとなまじ派遣勇者の力で何とでもなってしまうので、クロード社長も修行の性質を考えての提案であると思えた。


「は、はい。それでいいです。派遣勇者として最低限の武道の心得を教えて貰えるとありがたいです」

「よかろう。では、今から行くことにしようか。ちょうど、ジムでひと汗流そうと考えていた所でね。この際だから、柊君も私の通っているジムの会員にならないか? 今なら私が紹介者になれるよ。有名人御用達の高級会員制ジムでね。正規会員の紹介者がいないと入れないのさ。ちょっと値段は張るけどいい筋肉を作ってくれるところだよ」

 

 筋肉自体はさして興味がないが、日本に居る時のトレーニング拠点として利用が出来るのであれば、クロード社長から紹介してもらい会員になっておくのも悪くないと思えた。


「わかりました。ご紹介していただけるなら、会員になりたいと思います。トレーニング拠点は必要だと思いますので」

「そうか。良かった、良かった。ちなみに、自己研鑽費用の半分は会社持ちだからね。このジムの会員費も半額になると思ってくれればいいさ。入会金一〇〇万円で保証金が二〇〇万、年会費が五〇万程度だから安いよね。三五〇万の半額で一七五万だから柊君の給料なら余裕で払えるよね? 会社立替もできるから安心してくれたまえ」


 クロード社長の口から飛び出した金額に思わず気が遠くなりそうになった。オレがイメージしていた金額の優に一〇倍を超える金額だったからだ。というか、そんな高級会員制ジムがあるとはチラリと聞いたことがあったが、さすがはぼろ儲け会社の社長ともなると通っているジムも半端なくセレブ感が漂う場所であった。その後、社長と共に都内の外資系超高級ホテルの一角にあるセレブ御用達の超高級会員制ジムに向けてハイヤーで移動することになった。



 東京湾が一望できる場所に立つ超高級外資系ホテルのロビーに到着すると、ホテルのボーイがドアを開けてくれる。相変わらず、この手のサービスを受けると恐縮してしまうのは、オレに染みついた小市民の感覚が違和感を覚えるからであろう。ボーイに礼を言ってハイヤーを降りると、スタスタと歩くクロード社長の後についていく。出発前にクロード社長は誰かとジムで待ち合わせをする電話をしていたので、また何か良からぬことを考えているようにも思えるが、武道の手ほどきをしてもらわなければならないので、色々と突っ込むことは避けておいた。


 ホテルの地下にあるジムの受付に行くと、入会用の書類を書かされたが、代金の支払いは会社引き落としにして貰うことにしていた。この金額を見ると涼香さんがとてもビックリすると思うだろうけど、オレが会員になっておけば、チームのメンバーにも紹介ができるので、必要な出費だと思われる。


 受付を終えると、貸し出してもらえたジムウェアに着替えて、クロード社長が貸し切った鏡張りの多目的スタジオへ足を踏み入れた。


柊君が自ら私に武道の教えを学びに来るとはね。これは喜んでいいことだろうか。それとも、これを出汁にしてそろそろ彼を六本木デビューさせるべきか(クロード)



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