第六十五話 試し斬りのつもりがお祭り騒ぎに
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据え物として置かれた全身鎧は降り注ぐ日の光を綺麗に反射して光り輝いている。一方、領主であるオレが名工グエイグに作らせた剣の試し斬りを見ようと広場の周りには多くの領民達が出店で買い込んだ食事や、家から持ち出したであろう自家製の酒壺を持って、こちらの様子をうかがっていた。
なんだ、この注目感は……めちゃめちゃみんながオレの事に注目しているのだが。そんなに見られると照れてしまうぞ。畜生め。
個人的な試し斬りの予定だったはずだが、気が付けば、領民達への娯楽提供者という形にされており、お祭りのメインイベントを任されるハメになっていた。
「皆の者、今よりご領主柊翔魔殿が先頃討伐した銀水晶龍の素材を使い、ワシが持てる技術のすべてを注ぎ込んで完成させた『絶対に折れない剣』の試し斬りを行ってもらう所だ。この剣はご領主様たっての希望で折れないことを重視した剣に仕上げてあるが、その切れ味もまた並みの剣よりは数段も上になるように作った自信作だ」
グエイグが司会者のように広場に集まった民衆達に向けて、武器に対しての口上を述べていく。グエイグの口上を聞いた領民達のボルテージが一段と上がり、酒も入っている輩も多数いたので、観客の中から『翔魔』コールが沸き起こってきた。
コールによって乗り気でなかったオレの気持ちも盛り上げられてしまい、何だか気持ち良くなってきてしまったので、思わず剣を突き上げてコールに応えてしまった。
「うぉおおお」
剣を突き上げて応えたオレに観客たちからは地鳴りのような声援が飛び、工房の壁が震えていた。
「みんな、乗り気だね。そこまで期待されたら楽しんで貰わないと領主失格だな」
オレはグエイグの製作した四角錘の長大な剣を構えると広場に置かれている鎧に向けて、剣先を力いっぱいに突き出していった。ブォンという風切り音と共に鎧の胸当てを突いた剣先が豆腐を貫くような容易な感覚で、鎧の胸当てを貫通していた。割とマジでもっと衝撃がくるかと思ってたけど拍子抜けするほどの衝撃しか伝わってこなかったのだ。さすが、名工の作った剣と言うべきかは判断に迷う所だが。
「うぉおおおおおっ! 鎧が簡単に貫かれたぞっ! すげえ!」
領民達は鎧を貫いた四角錘の剣を見て、やんやの喝さいをオレに贈っていた。そこまで、喜んでもらえると自尊心をくすぐられて、ちょっとだけ得意気になる。
「うむ、さすが名工グエイグさんの作った剣だね。鋼鉄の鎧も易々と貫くよ」
「想定以上の力じゃな。剣先はかなり薄くしてあるが、なんとか翔魔殿の力を吸収しきれたようだ。これも銀水晶の粉を日本から取り寄せたチタン金属に混ぜ込んだおかげで靭性と強度が増しておるからの。ミスリルもいい金属だが、チタンよりは重くて靭性が低い。最初期こそ日本から加工品を輸入し日本の鉄鋼会社にぼったくられる所だったが、最新のドワーフ地底王国製の製錬炉の完成後は、幸いにしてエルクラストにもチタン鉄鉱の産出する鉱山が出来ていて助かったぞ。ちなみに酸化させた皮膜の色は青くしておいたからな。カッコいいだろう」
グエイグが作ったこの四角錘の剣は綺麗な青色の刀身をしていて、さすが異世界の剣は不思議な色をしているのだなと思っていたが、刀身を構成する金属が日本から取り寄せたチタンだと聞かされて急に工業製品のような気がしてきてしまった。でも、刀身の青い皮膜は嫌いな色じゃないので厨二心が刺激されていた。
「突きに対する強度は大丈夫そうだ。それにしても、チタンで剣を作るとか普通考えないでしょう。エルクラストにはミスリルもあるし、オリハルコンもあるって聞いていますけど」
鎧から引き抜いたチタン製の剣の状態を確認するグエイグにオレは話しかけていく。
「そりゃあ、ミスリルもオリハルコンもあるが、あれは切れ味を求めるための金属であって、翔魔殿が求める『絶対に折れない』という注文に応える製品を作るのに即した金属がチタンであっただけだぞ」
確かにオレが『折れない剣』を作ってくれと言ったけどさ。異世界だから、もっとこうファンタジーな製造方法で作られ魔法的な加護を受けた聖剣っぽいのを作れとは言わなかったが。
オレは手にしている鉄塊ともいえる四角錘の形をした剣に視線を走らせていた。一見すると鈍器とも取れる剣である。優美さの欠片も無い、ただ一点『折れない』にだけ特化した剣なのだ。そういった意味で言えばグエイグはいい仕事をしたと思われる。
ただ、デザインが非常に納得いかない一点だけを除けば素晴らしい剣とあると言える。
チタン製かぁ……刀身も綺麗な色が出てて丈夫だし、確かに折れなさそうだけど……形がな(柊翔魔)
タングステンを混ぜた方がよかったかもしれんな。そうすれば、もう少しは刀身の根元を薄くできそうだ。涼香君とエスカイア君に探してもらうか。確かタングステンを産出する鉱山も開発されていると聞いたが(グエイグ)







