第六十話 謎の覆面作家が妖しすぎる
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「君達が私を護衛してくれる(株)総合勇者派遣サービスの派遣勇者とかいう人達かい?」
日本側のオンボロ本社でクロード社長と共にお出迎えした羽部総理が肝入りで選んだという作家先生は、小太りな体型でベロがだらしなく飛び出した犬の被り物をしている、かなり変わった格好をした人物であった。どう見ても、街を歩いていたら警察官が声をかける部類の怪しさを醸し出している。
『翔魔、日本の作家という職業の奴はみんなあんな変な恰好をしておるのか?』
後ろからトルーデさんが服の裾を引っ張り、オレに目の前の作家の恰好が正しいものか小声で確認してきた。
『そ、そんなことをオレに聞かれても……そうだ、涼香さんはどう思う?』
急に話を振られた涼香さんが明らかに動揺していた。
『わ、私に分かるわけないでしょう。作家って変わった人が多いっていうから、アレくらいが普通なんじゃないのかしら。そう思うわよね聖哉君?』
『な、なんで僕に振るんですか。僕も知らないですよ』
聖哉も涼香さんから目の前の作家についての感想を振られたことで狼狽えている。つまり、それほどまでに目の前の作家先生は異様な姿をしているのだ。コスプレしているというには、覆面の下の服が日常着すぎて
クロード社長とエスカイアさんが、謎の覆面作家とビジネストークを繰り広げている間にオレ達四人は後ろでヒソヒソ話をしていた。
「んんっ! 柊主任、こちらが今回の護衛対象のシンギョウガク先生だ。失礼の無いようにしてくれたまえよ。君等が気にしている覆面だが、エルクラストに対する保守派の勢力が妨害工作しないように身バレを防ぐために着用しておられるのだ。けして、ご本人の趣味ではないぞ」
クロード社長はオレの方を向いて喋っているが、作家先生から顔が見えないことをいいことに、半笑いを浮かべている。クロード社長もやはりあの恰好は笑いを堪えるのに必死なようだ。
「柊君だね。クロード社長から話は聞かせてもらっているよ。今回はエルクラストのことを色々と見学させてもらって、それを元にファンタジー風のライトノベルを一本仕上げるようにと言われているのでね。できるだけ、創作意欲の湧く場所を見せてくれるとありがたい」
シンギョウ先生は律儀にオレに握手を求めてきたが、どうにもベロが飛び出した犬の被り物が笑いの神経を刺激してきて、我慢をするのが大変なのであった。絶対にあの被り物を選んだ担当者は馘首されるべきである。
「んんっ! 柊翔魔です。この度はシンギョウ先生の護衛をできること、大変光栄に思っております。先生の創作意欲をエルクラストの世界を色々とご案内させてもらいますね」
笑いを噛み堪えて握手を交わすと、早速エルクラストへ向けて転移するために転移部屋へ移動することにした。転移部屋の魔法陣を見たシンギョウ先生は手にした手帳に色々と書き込んでいる様子であったが、転移することを告げると手帳をポケットにしまった。
「では、これより転移を開始します」
クロード社長以下、護衛対象のシンギョウ先生とオレ達のチームメンバーが一気に光の粒子に包まれていった。
「……それにしても、転移とはあんなにシンドイものなのかね……」
エルクラストの初転移を終えたシンギョウ先生は見事に失神をして大聖堂に開設されているエルクラスト害獣処理機構の医務室に担ぎこまれていた。担ぎ込む途中で顔の覆面を外そうとしたが、クロード社長から『覆面を外したら依頼失敗だと念を押されていてね。外しちゃダメだよ』と言われ、診察対応した機構側も困惑したが、とりあえず本人の意識が回復したので事なきを得ていた。初転移はやはり重大な事態が起きかねないので、余り大量の日本人が転移してくることは望まれないことだと思った。
「シンギョウ先生……お体は大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫そうだ。この転移場面はしっかりと注意喚起しておかないとな……気楽に観光気分で転移したらえらい目に合うと」
自分で経験した転移の様子を手帳に書き込んでいく。体力のない子供や高齢者があの転移を行うようになったら、事故が起きる可能性があるので、そこら辺はしっかりと書き込んでおいて欲しいことだ。
「そうですね。オレも初めての時は気を失ったんで、あの転移は慣れるまでは用心した方がいいですね」
「そうか……。確かに強烈だった。それにしてもここがもうエルクラストという異世界だとは信じられないな。日本の病院のようにも思えるが」
転移の時の様子を手帳に書き終えたシンギョウ先生は、機構の医務室の中をキョロキョロと好奇心に任せて見回していた。すると、エスカイアさんとトルーデさんが例の黒縁眼鏡を外していく。そして、尖り耳をもった色白エルフと褐色肌のダークエルフが目の前に現れた。二人の姿を見たシンギョウ先生の視線が二度見をしていた。やっぱ、そうなるよね。二回見ちゃうよね。オレも二度見しましたから。
「……えーと、着ている服装からすると金髪の色白エルフはエスカイア君で、褐色肌で銀髪幼女はトルーデ君だろうか?」
「正解ですわ。わたくしはエルフと呼ばれる種族で日本にいる間はあの眼鏡で耳と髪色と目の色を変えています」
「妾もおなじ眼鏡で変えておる」
シンギョウ先生は茫然自失といったようにピクリとも動かずに二人に視線を向けていた。
「他にも変わった種族の方がいますが、まずはその前にこの大聖堂を管轄するエルクラスト害獣処理機構のトップの方にご挨拶をさせてもらっておこうじゃないないか。ブラス老翁は礼儀にうるさい人だからね。日本側が勝手に動くことに不快感を示しておられるから、きちんとご挨拶してお話を通しておかないといけなくてね」
「おっと、女性の顔をじろじろと見るのは失礼でしたな。クロード殿が言われたように、こちらの世界の重鎮の方にきちんとご挨拶をしておかないといけませんなぁ」
「すでに、アポは取ってありますので、このままブラス老翁のいる機構の所長室へ行きましょうか。柊君、先生をご案内して差し上げなさい。私は少し日本側との会合が入っていてね。ここでご無礼させてもらうよ。段取りについてはエスカイアに全部伝えてあるから後は頼むよ」
クロード社長が手を上げて、そそくさと医務室から出ていこうとしていた。なんだか、きな臭い感じがするが、ここは出来る男であるクロード社長を信用するしか選択肢は残されていなかった。
「あ、あ、はい。では、シンギョウ先生。こちらへどうぞ」
「おお、案内を頼むよ」
オレはブラス老翁の待つ大聖堂にあるエルクラスト害獣処理機構の所長室に向けてシンギョウ先生とメンバーを引き連れて歩き出していった。
何の因果でこんなことになったのか……異世界ねぇ……(シンギョウガク)
※実在のシンギョウガクと作中のシンギョウガクに関係はありませんので、あしからずご了承下さい。







