第五十六話 武道経験ゼロだと能力だよりだよね
誤字・脱字あればご指摘お願いします。
Sランク害獣がまとまって発見された魔境地区は、大きな山の中の麓にある湖を含んだ地域であった。マップ上に映る赤い輝点は目の前の湖の中に集中していたが、ふと視線を湖に向けるとほとりに黒い外套をまとった人影が見えた。すでにこの魔境地区に隣接する農村には避難指示を通達しており、住民は街に避難しているはずだ。だが、ほとりには人影があった。けれど、念のためにかけておいた生命探知による生体反応はない。もう一度視線を戻すと、人影はこちらに気付くと景色に溶け込むように姿を消していた。
「なんだ……今の人影は」
「翔魔さん、どうかしました?」
聖哉は湖のほとりにいたと思われる人影を見ていなかったようで、不思議そうにオレの顔を見ていた。
「いや、湖のほとりに人影が見えたんだが、フッと消えてしまった」
「や、やめてくださいよ。そういう話は嫌いなんですって。人が消えるとかだと魔術で転移したんじゃないですか? 翔魔さんもできるでしょう」
「生体反応なかったけどね」
聖哉は怪談系の話が嫌いなようで、顔色を蒼ざめさせていた。多分、隠蔽魔術とかそのへんを使用していて、聖哉の言う通り転移で飛んだのかもしれないなぁ。そんなことを思っていると、討伐目標の銀水晶龍が湖の底から飛び出してきた。一体かと思ったが、後から残り四体の銀水晶龍も出てくる。銀水晶龍はその名のとおり、薄く銀でコーティングされたような半透明の水晶の結晶体が寄り集まり、東洋の竜のように細長い胴体と短い手足というスタイルで湖面を這うように移動している。
やっぱり銀水晶龍が五体もまとまっていたか……。魔物鑑定しないと。
――――
銀水晶龍改
魔物LV55
害獣系統:鉱物系
HP:13450
MP:11340
攻撃:2340
防御:4320
素早さ:2450
魔力:1280
魔防:4340
スキル:反射 強固 水晶化ブレス 吸収
弱点:打撃攻撃
無効化 魔術
――――
鑑定を終えると、銀水晶龍はそこまで強くないけど、聖哉だと苦戦しそうな防御力を持っていた。
「翔魔様!? この銀水晶龍はおかしいです。会社のデータベースにある銀水晶龍と明らかにスキル構成が違っていますわっ!」
オレのディスプレイを覗き込んでいたエスカイアさんが、Sランク害獣である銀水晶龍がおかしいと指摘していた。
「ん? どういうこと。害獣には個体差はないの?」
「いえ、LVによってステータスに差が出ることはあるんですが、固有スキルが違う個体なんて見たことも聞いたこともないんですよ」
「そうじゃのぅ。妾も害獣の固有スキルが違っておるものなど聞いたことが無いのじゃ」
トルーデさんも一生懸命に背伸びしてオレのディスプレイを覗き込むようにしていた。エルクラストの事情に通じた二人からの指摘によると、目の前の害獣は銀水晶龍でも突然変異した別種の害獣である可能性が疑われるようだ。ステータスを表示しているディスプレイを見ていくと、銀水晶龍の名前の後ろに『改』の文字が見て取れた。
「名前の後ろに『改』と書かれているが……。変異種なんだろうか?」
「えっ!? そんな表示なんて初めて見ますよっ! Sランク害獣に変異種が発生しただなんて大事ですよ」
「ちょっと、みんな。議論は後にして! こっちに来るわよ」
涼香さんの発した警告で、みんなの注意が銀水晶龍に向けられた。言われた通り、今は目の前の害獣を討伐することに集中しないと。変異種かどうかの判断は機構の専門家に判断を委ねるしかないな。
「聖哉、五体の動きを止めるぞ。魔術は効かないようだから、物理でいく。みんなは援護よろしく」
オレは会社から支給された剣を引き抜くと、聖哉を引き連れて湖から上がろうとする銀水晶龍を迎撃しに向かった。
銀水晶龍が湖面を這うように進み、ほとりに着くと迎撃にきたオレ達に対して鎌首をもたげる。その姿は蛇が威嚇する姿に似ているような気がする。
魔術は通用しないことが判明しているので、バフ系魔術で底上げした能力を使い、物理で圧倒することにした。すでに聖哉も自分の武器である槍を構えていた。
一応、聖哉の実戦訓練を兼ねているので、オレは援護する方に回る。
「いきますっ!!」
聖哉が手にした槍をしごくと一体に狙いを付け、飛び出していった。バフ系魔術で底上げされたステータスにより、LV以上の能力を発揮した聖哉は銀水晶龍の身体の結節部に槍を突き込んで破砕しようとするが、やはり攻撃力が足りずに一撃では破砕できなかった。
その間にも別の四体が聖哉を襲おうとする気配を見せたので、眼前に転移移動して横っ面をグーパンチで殴り飛ばす。ビシッと顔面にひび割れが走るとともに湖まで吹き飛ばされて盛大な水しぶきをあげた。続けて、聖哉に襲いかかろうとした別の銀水晶龍の前へ転移すると手にした剣を薙ぐ。しかし、支給された剣はバキンと中ほどで折れ砕けてしまった。
「あちゃー。備品折っちゃったよ。これ意外と高級な武具だって言ってたのになぁ」
オレの力のステータスが高すぎるのと、剣術の不心得による剣筋の立て方が悪いのとが相まって、支給された剣に限度超える力がかかり、砕け散ってしまったものと思われた。
柄だけになった剣を投げ捨てると、先程と同じく握り拳を作り、オレに向って水晶化ブレスを吐こうとした銀水晶龍をぶん殴る。同時にスキルもコピーしてやった。
――――
>反射をコピーしますか? Y/N
>強固をコピーしますか? Y/N
>水晶化ブレスをコピーしますか? Y/N
>吸収をコピーしますか? Y/N
――――
ぶん殴ったと同時に表示されたスキルをコピーしていく。吹き飛ばされた銀水晶龍が先に飛ばされていた個体とぶつかり甲高い音を周辺に響かせていた。
「翔魔さんっ! 僕だってやれますから!」
銀水晶龍とタイマンを張っていた聖哉も、エスカイアさんの弓や涼香さんの銃の援護を受けて一体目を瀕死にまで追い込むことができていた。ステータスを底上げしているとはいえ、聖哉は槍での刺突ではダメージを与えられないと割り切り、戦術を変え、石突きによる打撃主体の攻撃に変え、銀水晶龍の弱点を突き、確実に弱らせていた。
頭いいな。というか、あれが派遣勇者としての基本の戦い方なんだろうけど。オレも剣術の師匠がいるかな……。クロード社長や他のチームの主任に硬いもので剣を折ったとか言ったら、メチャメチャ笑われるんだろうなぁ。
能力任せの戦いをするオレは武具を生かし切れない派遣勇者であるので、基本となる武道の指南役を招いて勉強した方がいいかもしれないと思い始めた。
「聖哉、後ろだっ!」
背後から襲いかかろうとした別の銀水晶龍が、キラキラと光る息を辺りにまき散らしていく。キラキラとした物に触れた草木が一瞬で水晶化していった。瀕死の銀水晶龍と対峙していた聖哉がオレの警告に反応することが遅れて、水晶化ブレスの餌食になった。
翔魔さん、ワンパンで敵を沈黙させているぞ。すげえ、やっぱあの人はすげえ人だ。僕ももっと強くならないと。チームセプテムのメンバーとして笑われないためにも、もっと強く(赤沢聖哉)
むぅ、翔魔は圧倒的に戦闘センスがないな。なまじ戦闘力が高いせいで、戦う工夫をしようとせぬのぉ。まぁ、あれだけの力を持てば、工夫すら要らぬか(トルーデ)







