第五十三話 人材のスカウトって結構な労力を使うかも
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事前に社員証のトーク機能を使ってクラウディアさん達に客人を連れていくと連絡を入れておいたので、チームのみんなも居残ってグエイグの歓待をしてくれることになった。
そして、グエイグを連れて、元ブッへバルト子爵の館で現、ヒイラギ孤児院となった屋敷に到着すると、屋敷の入り口で出迎えてくれたのはエスカイアさんだった。
「お帰りなさいませ、翔魔様。お客人のグエイグ様は、失礼ですが、もしかして【流浪の鍛冶士】の二つ名を持つグエイグ様でしょうか?」
エスカイアさんの視線がオレの後ろにいたグエイグに向けられていく。【神の眼】で鑑定した能力的にそういった二つ名を持っていてもおかしくはない人物であった。
「ん? エルフのお嬢さんはワシを知っておるのか?」
「稀有な鍛冶士として、業物と呼ばれる武具を作られた方と聞いておりますわ。お会いできて光栄です。わたくし、エスカイア・クロツウェルと申します」
にこやかに握手する二人の様子から、ファンタジー作品にありがちなエルフとドワーフの反目はこのエルクラストの地にはない様子だった。
「おぉ、ムライ殿のご息女であられたか。そうか、(株)総合勇者派遣サービスに入られたと風の便りで聞いておったが、翔魔殿のチームに付いておられるとはな」
グエイグはエスカイアさんの父親であるムライ主席を知っているようであった。ムライ主席と言えばドワーフのような筋肉ムキムキのエルフであったが、グエイグもガチムキさで言えば負けていなかった。
二人が並んだ時の絵面を思い浮かべると、途端に筋肉密度が増して画面がテカってきそうな気配がしたので想像するのを打ち切った。あぶない、ここから先は行ってはいけない世界だ。
「父がお世話になっております。以前、作って頂いた【祈雨の杖】は各エルフ氏族が雨不足で森林が枯れそうになった際に重宝していると、父が申しておりました」
「アレは本来ならもっと広範囲に雨を降らせるはずであったが、素材が足りなかったのでなぁ。不出来さに歯噛みをしている物だ」
話の流れからすると、エスカイアの国がグエイグに雨を降らせる品の製作依頼をしていたようだ。へぇ、色々な物を作り出せるひとだなぁ。結構、不器用だからスキルで補正されても微妙な出来栄えな気がするかも……。やっぱ、物作りは師匠というか先生がいるよね。
「エスカイアさん、色々とオレも武器製作の話を聞きたいし、お客人であるグエイグさんに立ち話をさせるのも悪いから、食事をしながらにしよう」
「ああ、これは失礼をしました。翔魔様の言う通りでしたね。さぁ、グエイグ様、こちらへどうぞ」
オレ達はエスカイアさんの先導で、孤児院の食堂になっている晩餐室へ向かって歩き出していった。
晩餐室では、孤児達がトルーデさんの厳しくも温かい帝王(?)教育の賜物か、整然と並んで客人であるグエイグを出迎えていた。
「おぉ、これはすごいではないか。翔魔殿は謙遜されて孤児院と申されたが、このように教育の行き届いた孤児院など聞いたことがないぞ」
「当り前じゃ、妾が教育を担当しておるからな」
孤児達の中からトルーデさんが進み出ると、彼女の姿を見たグエイグさんが膝を突いて拝礼する。
「ああっ! これはトルーデ陛下! このような場所におられるとは……」
「翔魔のチームにスカウトされてな。(株)総合勇者派遣サービスの社員として力を貸しておるのじゃ。グエイグとは小僧っ子時代に親父殿に連れてこられた時以来だが、父の跡を継いだようだのぅ」
「は、はい。父の跡を継ぎ鍛冶士として技を磨いております」
トルーデさんはグエイグと顔見知りだったようであった。さすがに齢九〇〇歳を超えるロリバ……おっと、これ以上はトルーデさんの視線が怖いので、やめておくことにしよう。
「お父上は腕の良い名工であったからな。妾もお父上の武具で幾千もの害獣を狩っておったからのぅ。その子であるグエイグも名をあげた鍛冶士になったことは嬉しく思うぞ。今日ここで会えたのも何かの縁が働いたと思えば喜んで歓待させてもらうことにしよう」
「ははっ! ありがたきお言葉! トルーデ陛下の御厚情に感謝いたします」
いや、招いたのはオレなんですけどね。というのは野暮だと理解したので、そのまま歓迎会を始めることにした。子供達は自らの役目であるお出迎えを終えると、エスカイアさんやクラウディアさんの作った食事を食べ始めていた。やはり、彼らも教育を受けたとはいえ、まだ子供であるため食事となるとガヤガヤとし始めたが、グエイグもかしこまった会食は不得手だといい。子供達の発する喧騒を忌避することはなかった。
自然と砕けた会食となり、オレが会社の許可を得て日本から持ち込んでいたメンバー間の親睦会用の日本酒を出してきての利き酒大会になっていた。うちのチームでは就業時間後であれば、オフィスでの飲食、飲酒を解放しており、誰でも飲める酒や飲料を常備してあった。最近では定時後、クラウディアさんとエスカイアさんが作る夕食を孤児達と一緒に食べて、その後にクラウディアを含めたメンバーとちょい飲みして社員寮に帰宅することが多くなっていた。
そのため、常備しているお酒は大吟醸から始まり、ウォッカ、ウイスキー、ビールと多種多用な物が常備されている。
「いやあ、美味い。飯も美味いが、それにも増して酒が美味い。この透明な日本酒は特に美味いですなぁ。こんな酒が毎日飲めればここに腰を据えてもいいな」
ドワーフの酒好きはこの世界でも有名で、グエイグも放浪している理由の一部はエルクラストの美味い酒を飲みたいからだと言っていた。それならばと、日本の美味い酒を出汁にしてグエイグをこの地に逗留させるための打診をしてみることにした。
「グエイグさん、良かったらこのヒイラギ領に腰を落ち着けて工房でも持ってみませんか? そうすれば、美味い酒がいっぱい飲めますよ。日本にはまだまだ美味い酒がいっぱいありますからね。うちのチームのメンバーになると、もれなく日本の銘酒が手元に取り寄せできるようになりますけど」
「げふぅ、日本の酒が飲み放題か……魅力的な案だが、ワシは世界一の剣を作らねばならぬのだ。一か所に腰を落ち着けておっては良い素材が集められぬではないか」
グエイグの放浪する理由は、武具の素材を探してエルクラスト各地を周り、新たな素材を探し求めてのことだった。
「素材集めですか。Sランク害獣の素材とかって需要ありますかね? オレが退治した多頭火竜と合成魔獣のオレの取り分の素材をエルクラスト害獣処理機構に預けてあるんですけどね。使い道がなくって、預けたままなんですよ」
多頭火竜と合成魔獣の素材があると聞いたグエイグの顔色がサッと変わった。
「それはまことか? 翔魔殿は(株)総合勇者派遣サービスの主任だということだが、その若さでSランク害獣を狩れる強さだというのか?」
日本人の派遣勇者が素質が高いことは知られているが、それでもオレの能力は規格外であるようで、グエイグはオレのチームがSランクの害獣を狩れるチームだとは想像もしていない様子だった。
「グエイグ様、翔魔様はとても素晴らしい能力を持った派遣勇者様でSランクの害獣をソロで討伐できるお人なのですよ」
「なっ!? Sランク害獣をソロでだと」
グエイグが信じられない物を見たような眼をしている。確かに、自分でもそこまで能力があるように見える容姿をしていないのは自覚していた。
「まぁ、エスカイアさんの言う通りでして、Sランクなら狩れちゃいますよ。グエイグさん、うちのチームはSランク害獣専属の駆除チームなんでレアな素材は結構集まるんですけど、メンバーに入ってみませんか? うちのチームの取り分の素材は勝手に使用していいですし、給料も多いですよ」
Sランク害獣の素材提供に心を動かされたグエイグが、首を縦に振ろうとするのを必死でこらえていた。
「ワシは銀水晶龍が、この地にいると聞いて探しておるのだ。そのSランク害獣を狩ってくれるのであれば、翔魔殿のチームに加わることもやぶさかではないぞ。どうであろうか?」
グエイグはヒイラギ領にいると聞いた銀水晶龍の素材を欲しているようで、それさえ手に入れば、うちに腰を落ち着けても良いと言ってくれた。なので、オレはすぐさま承諾の返答をする。
「わかりました。銀水晶龍の討伐をすればいいんですね。ヒイラギ領内にいるのであれば、オレの権限で自由に害獣討伐をできるから任せておいてくださいよ」
「なぬぅ。Sランクだぞ。そんな気軽に受ける依頼でもなかろう」
「翔魔は特別製の派遣勇者でな。放っておいても、Sランク害獣程度なら狩って帰ってくるのじゃ」
トルーデさんも散々な言い様だが、間違ってはいないので、訂正はしないことにしておいた。
「ようし、どうせ機構からの仕事は無いし、明日からは領内で銀水晶龍探しだ」
明日からの予定が決まった祝いとして、グエイグと更にしこたま酒を飲むはめになった。
この小僧がSランク害獣をソロで狩るだなんて、日本人の派遣勇者はスゴイと聞いていたが、本当だろうか(グレイグ)
むむ、グレイグさんを仲間に引き込んでおけば、結構すごい武器が作れたりするんだろうか。オレは多分いらないけど、メンバー達の能力の底上げになるだろうし、頑張って獲得しよう(柊翔魔)







