閑話 クロードと静流の墓参り
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※クロード視点
私は有給休暇を使い、東京の外れにある八王子の西園寺邸に来ており、敷地の片隅にある墓地を訪ねていた。
「光琉、お前が死んでもう一〇年が過ぎたな。静流もさすがに落ち着いてきた。時の流れは彼女に安息をもたらしたようだ。それにな……今年はビックリする事が起きたぞ」
手を合わせている墓石には、元部下で私が興した(株)総合勇者派遣サービスで唯一の死亡者となった西園寺光琉の名が刻まれていた。
彼は西園寺静流の腹違いの弟で、『SSS』ランクの派遣勇者であった。ただ、私と静流と話し合った結果、彼の出自も鑑み『Sランク』という偽装を行い、会社の最初期の派遣勇者として戦ってもらっていたのだ。
エルクラストでは、姉の静流とともに、類まれな能力を発揮して害獣を討伐していたが、彼の力が日本側でも発揮されると発覚すると、日本政府から危険人物認定を受け、日本では終始、身柄を監視される生活になった。
そのことを光琉はいたく嫌っており、次第にエルクラストに籠ることになり、静流も次第に快活さを失っていった光琉のことを心配していたが、私がエルクラストに籠っていた光琉を、気晴らしに日本に連れていった際に、交差点で起きた交通事故に巻き込まれて、その命を永遠に失うことになったのだ。
病院で医師から死亡宣告を受けた時は、人前を憚らずに床に崩れ落ちて泣いた。彼は赤子の時から、生活を共にしてきた子であり、自分の子であると言っても過言ではないほどの愛情を注いで育て上げた子だったのだ。
その大事な子を自らの不注意で亡くし、私は悲嘆にくれて、会社の業務も全て投げ出していた。だが、静流の放ったキツイ一言で立ち直り、今の規模まで会社を発展させることができていたのだ。
私にとって、(株)総合勇者派遣サービスは光琉と同じように息子みたいな存在になってきていた。
「今年は……とんでもないことが起きたぞ。さすがの私も驚いた。光琉、お前が成長したのかと見間違える男の子が、我が社に入社してきたのだ。世の中には三人似た人がいるというが、柊君はとってもお前に似てたのだ。それに、『SSS』適性というのも同じとなると、お前の生まれ変わりかとも疑りたくなる。彼も年齢はお前と同じだからな。静流も柊君のことが気になっているみたいだし、彼はとても優秀な派遣勇者として我が社の業務をこなしてくれているよ」
柊君が面接希望者として、我が社の面接に来た際、私は目を疑った。そこには光琉が大人になったとも錯覚させるような、瓜二つの顔をした学生が座っており、その子が自分の会社に入りたいと言っていたからだ。
思わず、私は即時入社の決裁を行っていた。普段なら、日本政府に身元確認を厳重に行ってもらってから採用していたが、迷うことはなかった。
光琉にそっくりな柊君には、お気に入りの秘書であったエスカイアも教育係として付け、入社してすぐに主任まで引き上げて、チームを任せることにしたのは、光琉への贖罪の気持ちも多かったかもしれない。
「クロード。来てたのね」
光琉の墓に祈りを捧げていた私に背後から声が掛けられた。声の主はこの西園寺家の現当主である静流の声であった。
西園寺家は古の昔より、東雲家とともに怪異と呼ばれた異世界の生物を狩る陰陽師の家系であった。私とは静流と光琉の母である穂乃花の時からの付き合いであった。
「ああ、今日は光琉の命日だからな。年に一回くらいはお参りに来ないと、光琉に怒られそうだし」
「そうね。たまには思い出してあげないと。あの子も上で寂しがっているかもね」
静流も光琉が亡くなるまでは、いい姉であり、真面目な派遣勇者であったが、光琉が亡くなると、自らの派遣勇者としての力を持て余し、精神も不安定さをみせていたが、柊君が入社して以来、かなりの落ち着きを取り戻して業務に励んでくれていた。
私を業務に引き戻してくれたのは静流であったが、彼女もまた大事にしていた弟の光琉を失い、心にかなりのダメージを受けていたと思われる。
「そうだな……」
「まぁ、まだ逝くのは早いけどね。あの子の願いである、エルクラストの平和を確立しないと、行ってもあの子に顔向けできないからね。そのためには柊翔魔にはもっと仕事をこなしてもらわないと」
「あんまり、柊君を扱き使わないでくれたまえ。あの子もまた、光琉と同じように強すぎる力が災いをもたらさないように、しっかりと私たちでサポートしてあげるべきだと思うぞ」
「光琉の二の舞は御免というわけね。あいつも日本での力の発露が起きたら、また日本政府の監視下に置くの?」
「いや、今度は私が全社を挙げて彼の身柄を守るよ。それに彼の父親はエルクラストの専門家とも言える外務省の役人だしね。それに東雲君も手に入れたことだし、政府の犬どもに柊君は自由にさせんよ」
私は光琉の過ちを二度と侵さないように、万が一、柊君が日本で力の発露を見せた時に、彼の身柄を守れるだけの態勢も構築した。
東雲君に頼んで作らせた警護隊は、対日本政府の防諜組織向けの実効組織で、最悪の事態を想定して柊君のエルクラストへの退避を援護をさせるつもりでもいた。
表向き日本政府とは協力関係を結んでいるが、それはエルクラストでの派遣勇者の力が、日本で発揮されないことが前提であり、その禁を破った者に対する拒絶反応は光琉の件を勘案してもかなりのものになると思われた。
そのために(株)総合勇者派遣サービスを日本有数の巨大グループ企業に育ててきたのでもある。日本とエルクラストの二つの世界が繋がったこの現代では、両方の世界で力を発揮する可能性のある派遣勇者という忌み子というべき存在が産み出される可能性があった。
「うちの会社は社員を全力で守ると決めているんだ。そのための会社組織だろ。今のところは柊君が日本で力を発揮する兆候もないし、日本政府も柊君の活躍には喜んでいるみたいだしね」
「油断だけはしてはダメよ。この国は異物を排除することに関しては変質的なほどに潔癖さを発揮するからね」
陰陽師として活躍した母親は、突発的に繋がる異世界と日本に潜んでいた怪異という名の異世界生物を狩る仕事をしており、古の昔から日本の権力者によって排除するように依頼を受けていたのだ。
「わかっているさ」
私は、持ってきていた花を墓石に手向けると、もう一度だけ手を合わせて、西園寺家の墓地を立ち去ることにした。
久しぶりの更新となりましたが、週一で更新していこうと思いますので、またよろしくお願いします。
 







