ファンタルシアとは
街に向かうと決めた瞬間から、オリッサさんの行動は早かった。
何も無いよりはマシだと言って、小振りのナイフを渡された。
ナイフなんて握った事が無いと伝えると、万が一の御守りみたいなもんさと言って笑っていた。
受け取ったナイフはベルトとズボンの間に挟み、落ちないように紐で固定した。有難い事に鞘付きだった事もあり、常に手で持つ必要が無かったからだ。
「全くそんなにおどおどしちまって。私がいるんだから万事問題無いよ!ここいらの魔物が何匹来ようがコイツを一振りすれば瞬殺さ。」
そう言うとオリッサさんは、おもむろに背中に背負った大剣を振りかぶった。
成人男性並の大剣を片手で振るうと、凄まじい風圧が起きた。
確かにこんな物を見せられると、安心するほか無い。オリッサさんが魔物に遅れを取る姿が全くもって浮かばないからだ。
「ははは……本当に凄まじいですね。」
ありきたりな返事しか出来ない程に、大剣を振るうオリッサさんの姿は凄まじかった。
そんなやり取りの後、扉を開けて小屋を出た。どうやら小屋は森の端に建てられているようで、直ぐに街道の様な整地された道が見えてきた。
街道を歩いていると、何度か魔物が襲い掛かってきたが、オリッサさんが宣言通りに大剣を振るうと直ぐに肉塊へと変わった。
とは言えそんな場面や行動に慣れていない俺は、腰を抜かしたり悲鳴を上げたり非常に情けない姿を見せ続けた。
「全くヒビオは男の癖に情けないね。そろそろ慣れたらどうだい?」
何て皮肉を言われても無理なものは無理だ。魔物ってのは何でこう恐ろしいフォルムをしてるんだろうか……
「徐々にと言う事で許して貰いたいです。」
情けないのは分かってるが、一応慣れる努力をする旨だけは伝えておいた。出来るとは言ってないが。
街道を進んでいる間に、オリッサさんはこの世界の事を色々と教えてくれた。
この世界の名前はファンタルシア。サイザル・クランタ・モーリス・ヴァナータ・イヴァランテと呼ばれる五つの大陸からなる世界だ。
それぞれの大陸には様々な国があり、様々な種族が暮らしている。
オリッサさん達の様な、人間と全く同じ見た目のヒュマノスに、エルフやドワーフに獣人ってのもいるらしい。後は魔族ってのもいるらしいけど、コイツらはやばいから近付くなとしか言われなかった。
話しを聞けば聞くほど、ファンタルシアってのは物語りの様な世界だと思わされた。
魔物を大剣で切り裂く女性がいるのも凄いが、魔法も存在するらしい。
俺には全く分からないが、オリッサさんも魔法の力を使って大剣を振り回していると言っていた。
早く日本に帰りたい気持ちはあるが、魔法だけは若干使ってみたいと思うのは仕方ない事だと思うんだ。うん、誰だって一度は患うあの病気を俺も患っていたからね。
因みにだが、今俺がいるのはモーリス大陸だ。
そして向かっている街と言うのが、迷宮都市タトラス。何でも街の中心部に迷宮があり、それを目当てに集まる冒険者によって非常に栄えているらしい。
迷宮ってのは、話しに聞く限りだとゲームとかのダンジョンの様な感じだった。
何層も階層があり、一定の階層を降るとガーディアンと言うボスみたいな魔物が現れるとの事だ。
ダンジョンの中の魔物はダンジョンの中でしか生きられないらしく、外に出てくる事も無い。
そして、倒すと肉体は消え去り魔石と呼ばれる宝石の様な物を残して消えるらしい。
一体どう言う構造なのか問いただしたいが、此処は異世界。何から何までファンタジーだと自分に言い聞かせた。
そう言ったやり取りを繰り返しながら街道を進んでいると、遂に街らしい物が見えてきた。
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