約束だよ
「助ける方法は具体的には2つじゃな。不老不死という荒唐無稽な方法も入れるとすれば3つじゃが」
「それで方法は?」
急かすように先を促すドロに化物は呆れた笑みを浮かべる。
「急かさんでも良い。まず1つ目じゃが、まあこれは2つ目よりは簡単じゃな。自己治癒に任せるのではなく外部からの治癒をする。メリンにとっては通常の傷を癒やす薬はあまり効き目もなし、逆に傷を増やすかもしれんが癒血族の血であれば癒やすこと可能であろう。そしてもう1つはちと噂程度で嘘か誠か定かではないのじゃが聞くか?」
化物はじっとドロを見つめどうするか問う。ドロは可能性があるのならばということで頷いた。
「ふむ、妾にとっても古い記憶じゃが歯車の国に歯車で作られた摩訶不思議なヒトがいるという話じゃった。なんでも歯車の王と言われていてその国では神にも等しいと。そして刻を司っていると言っていた。もしかしたら時間を巻き戻すことが出来るかもしれん。」
「分かった。探してみる」
「うむ、その方が可能性が増えるからよかろう。さてそろそろ交代する。妾に出来ることはこれまでじゃ。娘が眠りについても安心するがよい。長い眠りの中で話し相手くらいにはなろう」
「そうか……ありがとう」
「気にするでない」
ホッとしたように笑うドロの傍ら得意げに化物は笑う。
「最後に1つ妾にとっては別に眠りが長かろうが短かろうがどうでもよい。眠りの長短はお主にかかっておる。娘を助ける覚悟はあるか?」
ドロは真剣な表情で頷く。
「当たり前だ」
「ふふ、愚問であったな。それでは代わろう」
そう言うと化物は目を閉じると俺に寄りかかる。するとすぐゆっくりと目を開けた。
「あれ?私は……」
「少し気を失っていたんだ。目が覚めてよかった」
「そっかごめんね」
メリンは申し訳無さそうに目を伏せる。俺は元のメリンに戻っていることを内心で安堵した。
「ドロ……ドロの部屋に連れてって?お願い」
「ああ、分かった少し揺れるけど大丈夫か?」
「うん、大丈夫」
そう言うとメリンは目を閉じ寄りかかる。俺はそっと抱き上げ自分の部屋までなるべく急いで揺れないよう努めて歩いた。体はまだ重いがこれくらいはどうとういうことはない。それにメリンの体は今までにないくらい軽かった。
「着いたぞ。メリン」
扉を肩で押し開け中に入る。目を閉じていたメリンは目を開け薄っすらと微笑む。
「ありがとう。ドロ……。私をベッドにおろして頂戴」
「ああ分かった」
俺はメリンをベッドにおろし頬に手を置く。
「ドロの手あったかい。ねえドロ私があげた人形は?」
「ん?それなら棚に」
「持ってきてちょうだい」
俺は棚の上に飾られたつぎはぎだらけのちぐはぐな人形を持ってメリンの側に持ってくる。
「持ってきたけどこの人形がどうしたんだ?」
「いいから私の隣に置いてドロは少し部屋から出てて。終わったらドロを呼ぶから」
「あんまり長かったら入るからな」
「うん」
俺は部屋を出て扉の前に座り込む。体に力が入らない。メリンにはバレないよう無理をしたがこうして座ってしまうと自分の疲労が分かる。体中に痛みが走り神経がガリガリと削られるような言いようのない焦燥感が襲う。俺は落ち着くために深く息を吸い吐いた。
気分を落ち着かせるために何度か深呼吸をして落ち着いた頃「入っていいわ」という声が聞こえたので立ち上がり扉を開けた。
さっきと変わらず人形もメリンも寝転がったままだ。別に何も変わっていないがメリンの表情は幾分穏やかになっていた。
「何してたんだ?」
「内緒よ」
チラッと人形を見てまたメリンは笑う。
「気になるな」
「直に分かるわ」
「そうか」
触れている頬から段々と温かみが失せているのが時間の無さを告げている。俺は俯き泣きそうになるのを必死にこらえる。
すると柔らかい声音でメリンが言う。
「ドロ手を握って」
ゆっくりとメリンは右手を上げる。メリンの左の手足は無くなっていた。足はスカートに隠れて見えない。左手のあった部分には血の代わりに灰のような灰色の粉がついていた。まるでメリンが灰になって消えてしまうようで俺はメリンの傷から目を逸らした。メリンは頬に触れた俺の手を握る。
「大丈夫。ドロ痛くないよ」
表情で分かったのかメリンは優しく微笑む。俺はその笑顔に涙が止まらなかった。
「そんな訳ないだろ!」
俺は微笑むメリンに叫ぶ。でもメリンはそんな俺を見ても尚微笑み続けた。
「私はドロを守りたかった。だから悔いはないわ。それに私は吸血鬼よ。これくらい治せるわ」
「それでも痛いだろ!本当は俺は……泣くつもりじゃ…なかったのに」
今までメリンに見せまいとしてきた感情が堰を切って溢れだし俺は崩れ落ちた。
「俺がメリンを守らなきゃいけないのに。俺が守られてどうするんだよ!」
「ドロはいっぱい守ってくれたよ。だから泣かないで」
メリンはポンポンと頭を撫でる。
「メリンどこにも行かないでくれよ……俺と一緒にいてくれ」
「私はどこにも行かないよ。ただ眠ってしまうけど。私はずっとここにいるから。ここで待ってるから。私をいつか起こしてね。ドロ」
「メリン!」
「ドロまたいつかあなたといっぱい話したいわ。今度こそ約束してくれる?」
最初に出会った時のようにメリンは笑い言う。俺は涙を拭い自信ありげに笑う。
「当たり前だろ?俺が絶対に起こしてやるからな。安心して休んでろ。」
「ドロ、約束だよ?」
「ああ、約束だ」
「良かった……。お休み……ドロ……」
「お休み………メリン………」
メリンは目を閉じる。きっともう揺すっても目を覚まさないだろう。寒くないようにしっかりと毛布をかける。こうしていればただ眠っているのと何も変わらない。
俺は立ち上がるとそっと扉を閉め旅をする準備を始めた。だがこれといって準備はもうメリンと旅をする用に準備していたので大して準備をすることもない。俺の持ち物とメリンの持ち物が置かれている所にドロの持ち物とメリンの筆跡で書かれていた時は正直涙を堪えるのが辛かった。
あらかた準備を終えると俺はメリンの眠る部屋に入る。
「大体準備してたからもう終わったよ。メリン。もうすぐに出発したいと思う。いつまでも泣いてたってしょうがないし……約束したからな。絶対に俺が起こしてやるからそれまで……ゆっくりお休み」
俺は頬に手を当てその後メリンの頭をポンポンと撫でる。踵を返して扉を開けようと手をかけると衣擦れの音が聞こえ振り返る。
そこには先程までメリンと一緒に毛布をかけていた人形が毛布から這い出し、這い出したことで乱れた毛布を直している。俺はその光景をポカンと見ることしか出来ない。だがすぐに納得がいった。メリンがすぐに分かると言ったのはこのことだったのか。
人形は毛布の乱れを直すとベッドからえっちらおっちら降り俺の前に来るとお辞儀をした。
「どうも奥様からご主人様を任された魔ペットにございマス。どうぞお見知りおきヲ」
「魔ペット?」
「はい、正式には魔術魂入パペットでございマス。略して魔ペットと奥様が名付けられマシタ」
「奥様ってメリンのことか?」
「ハイ、当然でございマス。ちなみにご主人様が他の女性に着いて行ったりしないようにや無理をさせるな等々奥様に言われておりマス」
「それはお目付け役ってところか?」
「ハイ。それと自分は一緒に行けないけれど私の代わりに連れてってとのことデス。それと自分が見れない景色を代わりに見せてあげてほしいトモ」
結局俺は心配されっぱなしでメリンは自身が眠ってしまった後も考えてたってことか。嗚咽をグッと堪えて手を差し出す。
「分かった。よろしくな魔ペット」
「ハイ、誠心誠意お仕えしたいと思いマス」
ちぐはぐな大きさの手を握り俺と魔ペットは一緒に旅をすることになった。
「ご主人様、申し訳ありませんが出発は少しお待ちクダサイ」
「なんでだ?」
「この城の侵入者対策の起動と奥様のお召し物をあのままでお休みさせるわけには参りマセン。」
「そっか、そうだな。よろしく頼む」
「それではお部屋から退出シテクダサイ」
「え?」
きょとんとすると表情の読めない顔の筈なのに呆れているのを感じる。
「奥様のお召し物を変えると私言いませんデシタカ?」
はあ、とため息の聞こえてきそうな身振りした。
「悪い。じゃあよろしくな」
俺は慌てて扉に駆ける。
「ハイ、お任せクダサイ」
俺が部屋から出て数十分後魔ペットは部屋から出てきた。
「無事終わりマシタ。余程の事がない限りご主人様以外は入ることがデキマセン。ご主人様にはコレヲ」
そう言って手渡されたのはなんのへんてつもない白い鍵だ。なんとなく城の外壁に似ている。
「その鍵はこの城に入るための鍵デス。必ず肌身離さず持っていてクダサイ。万が一無くしても城に強行突入は出来ますが奥様の元へ辿り着くまで延々と罠を潜り抜けないと行けなくなりマス。鍵自体を消滅させることで盗難にあった場合の対処になりますが再び作成は不可能デス。ですからなんとしてでも鍵は大切にシテクダサイ」
「分かった」
俺は渡された鍵を見つめ首に掛けることにした。紐を探そうと荷物に目を向けると荷物のあった場所は何も無くなっていた。
「ここにあった荷物を知らないか魔ペット」
「私が保管シマシタ」
保管した?いったいどこに?俺が訝しげな表情をしているのを見て魔ペットは首を傾げる。
「私の機能について奥様から聞いてオリマセンカ?」
「聞いてない」
「そうデスカ。私は体の中に魔術で拡張された荷物入れ、いわば倉庫がアリマス。なので荷物は私が管理することになってオリマス。他にもご主人様をサポートできるよう機能はありますが追々話してイキマス」
「なんか言われてない機能が怖いな」
「大丈夫デス。それから荷物から何をお探しデスカ?」
「鍵を首に掛ける紐を探そうと思ってな」
「紐ならこれでヨロシイデスカ?」
魔ペットはいつの間にか手に持っていた太い紐を手渡す。
「ああ、ありがとう」
俺は渡された紐に鍵を通し首に掛けた。
「この鍵は大事に持っとかないとな」
「ハイ、カナラズ」
「最後にメリンに会ってもいいか?」
「ハイ」
俺は扉を開けて中に入る。眠り続けるメリンはまるでいつかの話に出てくる眠り姫のようだ。
「メリン、魔ペットをありがとな。魔ペットと一緒に旅をして起こす方法を探すよ。それじゃあ行ってくる」
俺はメリンに背を向ける。これ以上ここにいてはいけない気がした。
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「暫くここには戻らない。忘れているものとか無いか?」
「大丈夫デス。全て収納シマシタ」
「よし!じゃあ行くか!これからよろしくな魔ペット」
「ハイ、よろしくお願いシマス」
いつか起こすその日を夢見てドロと魔ペットは旅をする。
化物の方法の内の一つ。ウツワに出会うのはここから1年経ってからだった。
これで過去編は終わりになります。過去編完結です。突然ながら完結して申し訳ありません。
新しく国巡り編として作成したのでよろしくお願いします。




