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ドロボウは夢叶える為世界を旅する(過去編)  作者: フロッグ
ドロ過去幕:苔むした町と夢望む白城
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ごきげんよう

どんよりとした曇り空の中、日に当たって輝くように光る白城の中は慌ただしい雰囲気に包まれていた。


「その本は第一書庫にその本は第五書庫に移して!私が書いた物は全て研究用の部屋に持って行ってちょうだい」


人形の指揮をとり声を張る少女は城の中の大掃除を開始した。かれこれこの作業は4時間ほど経過している。

それほどに城の中は今まで荷物の整理をしていないせいで本やら資料やらが様々な部屋に散乱していた。それもこれも彼女は考え事をすると周りが見えなくなりどこからともなく取り出した羊皮紙に書いては放ったままにしていたからだ。あまりにも汚いので少年に掃除をしろと2年間ずっと言われ続けてやっと重い腰をあげたのである。


「こんなにテキパキ出来るならもっと早くにやっとけばよかったんじゃないか?」


ドロはメリンの後ろで頬杖をつきながら言う。


「う、だって面倒くさいし、それに時間が勿体無いから……」


「思いついたことを紙に書いたならちゃんとしまっておけよ。なんで書いたらいた部屋に放置なんだ」


人形たちの動きを目で追うドロにメリンは口を尖らせる。


「だって1回書けば覚えるんだもの」


「なら放置していることも覚えていてくれ」


呆れたようにドロに言われメリンは目に見えて落ち込む。


「ごめんなさい」


「別に怒ってるわけじゃない。でもパーティーを開きますって言って扉を開けたら汚くて人に見せられないじゃ目も当てられないだろう?」


「その前に掃除をすればいいんじゃない?」


「この大掃除にどれだけかかってると思う?」


「あう」


返す言葉もなくメリンはしょんぼりと項垂れる。


「2日後には出発なんだから一応身辺整理は必要だろう?」


「うん」


「やっぱりやめとくか?」


「ううん行きたい」


「じゃあ頑張ろう」


「頑張る!」


メリンは話が終わるとまた指示を人形達に出し始める。

2日後俺とメリンは旅をする。2年間ずっと相談してきてやっと2人で旅が出来る。今まで渋っていたメリンもやっと外に出ることを決めた。


「ドロはいいの?」


「ん?何がだ?」


「明日吸血鬼になるんだよ?心の準備は?」


振り返らずメリンは俺の心を読んだように聞いてくる。そう俺は明日……吸血鬼になる。


「もう2年も前に覚悟はできてるよ。」


「うん、分かった」


吸血鬼になるには一旦死にかけていなければならないらしい。それも考えての2日後の旅だ。出来ることなら無事に旅まで漕ぎ着ければいいと思う。


「ドロ……ずっと一緒だよね?」


「?ああ当たり前だろ」


「ありがとうドロ」


メリンは振り返らないけど声は涙声になっていた。



**************************


そして吸血鬼になる日になった。

心の準備はできてる。いつでもなれる。怖くはない。メリンがいる。それに約束も夢もある。2人の夢。だったら別に怖気づくこともない。


「ドロ、準備はいい?」


「ああ」


時刻は深夜。空には青白い満月が雲の切れ間から顔を覗かせる。城の中は明かりを消しているので窓から差し込む月の光が唯一の光源だった。


「少し痛いけど我慢してね?」


メリンは強張った顔を無理やり笑顔の形に変えようとして失敗する。


「別に俺はどこにも行かない。メリンの側にいる。だから吸血鬼になるんだ。そうだろ?」


俺の問いかけに少し間を置いてゆっくりとメリンが頷く。


「じゃあよろしく頼む」


俺は部屋の真ん中で大の字になって寝転がる。メリンはその隣に座り俺の胸へ手を置いた。


「今からドロの血を少しずつ抜いていくわ。段々先の方から冷たくなっていく感覚がするかもしれないけど安心してね。」


「メリンに任せておけば心配ないと思ってるから大丈夫だ。」


俺がニッと笑うとメリンも少し微笑む。


「それじゃあ始めるわ」


「おう」


俺は目を瞑りじっと待つ。だがいつまでたってもメリンの言っていたような先から冷たくなる感覚は襲ってこない。俺は目を開けると部屋の中は真っ暗でよく見えない。月が雲に隠れたようだ。胸の上にはメリンの手があるのでそこにメリンがいるのは分かるがメリンの顔はよく見えない。暗闇の中でも光る赤い目は俺ではない遠くを見つめている。


「メリン?」


「……んで、ここに……」


掠れた声でメリンが何かを言う。だけど俺にはなんと言ったのかよく聞こえない。メリンの赤い目が見つめる先は窓で真っ暗な闇が広がっているだけだ。だが月が雲の切れ間から覗くとその窓の外には人が立っていた。


「んはーなんでと言われても久しぶりにここに来たかったからと言う他ないぞ?」


人影は窓の外からいつの間にか中に入って来ていた。月に照らされているのにまるでその人影は影を纏っているかの如く黒い。


「……ぜ、私の父も……一族の皆も……殺した……あんたが!!ここに来た!?」


感情を爆発させるかのようにメリンは叫ぶと人影に飛びかかる。人影は軽々とメリンを避ける。


「だから先程から言っているではないか。なんとなくと。それ以上も以下もない。それにしても娘よ。生きていたのか?お前は私が」


「殺した。いえ正確には殺しそこねたのよ」


メリンは感情のままに吐き捨てると人影に吸血鬼の膂力を使った蹴りを見舞う。人影はそのメリンの攻撃も軽い動作で避ける。


「ふむ、そこまでして激怒されても私のせいではない。なぜならお主の父も一族も命に反したから殺さねばならなかった。仕方ないであろう?」


「どの口が言う!お父様も一族の皆も殺す時笑っていた癖に!」


「ふふっ。血を見たら興奮するのは我々の種族の性であろう?何を言っているのだ?」


人影は嘲笑うかのような笑い声を上げる。そして人影もメリンと同じように顔と思われる場所には赤い双眸が光っていた。


「んはー一応自己紹介しておこう。私はシャル・バラト・ロゼ。今宵この城を襲いに参った。どうぞお見知りおきを」


月明かりが部屋を照らし人影の姿も鮮明に照らしだされた。人影は黒いスーツにマントを羽織り青白い肌は月の光で照らされて青白く光っている。容貌は吸血鬼特有の美しい顔をし口には大きな犬歯が光っている。

シャル・バラト・ロゼと名乗った男は金色の髪を片手で撫で付けるように触ると気障ったらしく笑う。


「ふざけるな!」


メリンはシャル・バラト・ロゼに思い切り拳を振るが片手で止められるとそのまま手を掴まれ投げ飛ばされた。


「きゃっ!」


「メリン!」


俺はメリンが投げ飛ばされた方向に飛び出しメリンを抱える。


「大丈夫か?メリン」


「大丈夫よ。ありがとうドロ」


「んん?そこにいるのは人間か?なぜここにいる?」


「お前には関係ない」


メリンの家族を殺した吸血鬼。いなくなったとは聞いていた。でも吸血鬼に殺されたのか。メリンの家族は。だがそれに関係なく目の前にいるシャル・バラト・ロゼには嫌悪感が溢れる。どっちにしろ仲良くなれる奴ではない。


「ほう?この私に人間風情が口答えするか。んはー舐められたものだ!」


「うるせえよ!」


耳障りな声にイライラする。相手は吸血鬼油断したらあっという間に殺される。2年間で戦闘についてはメリンに叩きこまれたが実戦は初めてだ。俺は気を引き締め臨戦態勢に入る。


「やるきか?小僧。身の程をわきまえよ。なぜそう生き急ぐ?今なら見逃してやらんでもないぞ?どうだ?」


「上から目線でうっせえんだよ!」


俺はシャルに走りいつも身に着けているようにしていたメリンが作った針を投げる。


「うん?そんなもの避けるのは造作もない」


顔面目掛けて投げた針は軽く首を動かしただけで避けられる。すぐさま針を投げると片手で弾かれた。


「顔の周りを飛ぶ小虫のような攻撃だな」


「ふっっ!」


俺が攻撃したのを見越して跳躍したメリンの蹴りをシャルは片手で受け止める。


「欠伸がでるな。」


シャルは鼻で笑うと片手を思い切り振りメリンを振り飛ばす。俺は続けざまに針を数回投げるがあっさりと弾かれる。手が届く範囲に近づいたシャルを殴り飛ばそうと思い切り殴るが簡単に受け止められ軽く振られた腕の衝撃で吹き飛ばされた。


「この程度ならもう問題ない。少し小腹が空いたな。お前を頂くとしよう。人間」


シャルはそう言うと俺を見る。その目はメリンが見せた狩猟者の目よりもずっと鋭く粘り気のある目だ。舌なめずりの音すら聞こえてきそうな気配に恐怖で竦む体を叱咤し構える。


「いいぞ抗え人間。抗いは良い香辛料だ!んはー素晴らしい!」


「私のドロには絶対に指一本触れさせない!」


メリンは今までに聞いたことのない大声を張り俺をシャルの目から隠すように前に立つ。


「ご執心だな。そんなにも美味なのかその者は?私にも味見させよ」


メリンはその言葉を聞いた瞬間激怒した。


「味見ですって?ふざけるのもいい加減にしなさい。これ以上あなたに私の大切なものは奪わせない」


シャルは目を細めると嫌な笑みを浮かべる。


「そうか奪わせないと。」


そう言うと俺を見た。


「っ!!逃げて!!ドロ!!」


メリンが叫ぶ。すると体の中心に激痛を伴う異物感が体を襲う。自分の体に視線を移すと赤いヌラヌラと光る赤い腕が俺の体からはえていた。


「ドロっっ!!」


悲鳴のような声を上げメリンがこちらに駆けるのが見える。メリンと呼ぼうとして口を開こうとすると喉の奥からせり上がるものがあって吐き出す。吐き出したのは大量の血で自分の血とは思えない。


「人間はやはりとろい。だからこそ我々にとって食料でしかないのだ」


後ろから男の声が聞こえる。体からはえていたのはシャルの腕のようだ。激痛とともに異物感がなくなるのが分かる。薄れていく意識の中で俺は俺自身の垂れ流した血の海に沈んだ。その時見えたのは泣き出しそうな顔をしたメリンと満足そうに笑う男の声だった。






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