幸せな日々
今回はドロとメリンの生活風景を短めに2つくらい書きました。時間も2年後に飛んでます。
メリンに吸血鬼にしてくれと言ってから2年の月日が流れた。時には喧嘩して、時には殺されかけ、時には説教され、逆に説教をし、笑い合い幸せな時間だった。
「ドロ、何してるの?」
「ん?絵を見てた。」
俺は廊下に並ぶ絵画の中でも一際大きい絵画の前に立っていた。
「お父様とお母様の肖像画ね。懐かしいわ」
メリンは懐かしむように絵画の入っている額縁を撫でる。
「そういえばメリンの両親の話を聞いたことなかったな。教えてくれないか?」
「ドロになら……いいわ。じゃあ少し座って話しましょう」
いつの間にか椅子が2人分絵画がよく見える場所に置かれているがもうそんなことは2年間で慣れた。
「私のお父様はシュトラバ、お母様はメーシャ。お母様は私を産んだ時に死んでしまったの」
「そうか…」
「でも寂しくはなかったわ。お父様も一族の皆も優しくしてくれた。」
「………」
なんと声をかけていいのか分からず俺は黙ってしまう。
「大丈夫よ。ドロがいて今が一番幸せだから。そんな顔しないで」
メリンは微笑むと俺の頬に手を当てる。
「お母様は人間だったの。吸血鬼は吸血鬼同士で結ばれるのが暗黙のルール。でもお父様はお母様を選んだわ。一族の皆がなんと言っても聞かなかったそうよ。」
「なんでそうまでして?」
「一目惚れだそうよ」
絵画を見上げると幸せそうな顔をした夫婦が並んでいる。
「私、優しくはされていたけど本当にお父様に愛してもらっているのか不安だった。お母様を奪ってしまったのは私だもの。いつか聞こうとは思っていたけれど怖くて聞けなかった。それに聞く前に遠くに行ってしまった。お父様も一族の皆も……」
遠い記憶を懐かしむように絵画を見上げるメリンは複雑な表情で笑う。
「俺に家族はいないから分からないけどさ、きっとメリンはメリンのお父さんにとってとても大切だったと思う。そうじゃなきゃメリンを育てたりしなかったさ」
「そうかな……」
「ああ、きっとそうだ」
「ドロ、ありがとう」
「別にいいさ。似てるな」
「?」
「メリンのお母さんと目元がそっくりだ」
メリンは少し瞬きするとクスッと笑う。
「初めて言われたわ。そう……似ているのね。良かった」
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「ドロは髪を梳くのが上手ね」
「ん?そうか?」
椅子に座るメリンの髪を櫛で梳く。この2年間で恒例になっていることだ。
「ええ、それに眠くなってくるわ」
「寝たら寝癖つくから寝ないでほしいな。また髪とかさなきゃいけなくなるぞ」
「それならそれでいいかもしれないわ」
メリンは悪戯っぽく笑う。俺がため息を吐くとメリンはますます笑みを深める。
「勘弁してくれ、メリンの髪はただでさえ長いんだ。梳くこっちの身にもなってくれ」
「ごめんなさい。」
大して悪びれもせずメリンは言う。
「なんでそんなに髪を梳くのが上手なの?」
「いや2年もやれば流石に上手くなるだろ」
「違うわ、2年前から上手だったわ」
正直髪を梳くのに上手いも下手もあるのか?そう思っていると話を聞かせろとメリンが体を揺する。
「おわっ!櫛に髪引っかかってもしらねえぞ」
「大丈夫よ。ドロなら上手く避けてくれるでしょ?」
「あーはいはい。髪を梳くのが上手いってのがピンとこないからなんとも言えないな。強いて言うなら村の皆といた時にもよくやっていたからかな」
メリンは振り向くと詳しくと目線で訴えかける。
「はあ、本当の妹ってわけじゃないけど村で年の少し離れた奴がいたんだ。よく髪を梳いてくれってせがまれて梳いてた。今はもうどこにいるのか分からないけどな」
「会いたい?」
「どうだろうな?でも生きててほしいとは思ってる。旅をしている間にたまたま会えたら嬉しいってくらいだな」
「ごめんね、ドロ。嫌なことを聞いて」
「ん?別にいいさ。よし終わったぞ」
俺はメリンの髪をポンポンと撫で櫛を元の場所に戻す。名残惜しそうにメリンは頭に手を当て髪に触れる。
「ドロの妹には感謝しなければいけないわね」
「なんでだ?」
「こうやって髪を梳いてくれるのだもの」
「これくらいいくらでもやってやるさ」
「ふふ、ありがとう」
メリンは照れたように笑った。
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夜中の町に影が1つ。コツコツと靴音を鳴らして町を歩く。町の者は気づかない。
「んはー素晴らしい!なんと平和ぼけな町だ!久しぶりに来てみれば吸血鬼の名声も地に落ちたな」
真っ黒な服を身にまとった男は遠くに見える白い城を見てニンマリと笑う。その口には大きな犬歯が覗き人外であることを物語っている。
「ふふふ!面白い変化を遂げている場所もあるではないか!さあゆこう!」
コツコツと靴音を鳴らして男は歩く。男の目には白い城。その一点を目指して。




