夢を果たすために
俺の手の中にはスースーと規則正しい寝息をたてる少女が眠っている。ずっと泣いていたせいで目尻が赤い。
「寝ちゃったな」
少しでも寝やすいように横抱きに抱える。
「…………」
「熊か」
「…………」
俺の隣に来て座り込む熊はゆっくりと頷く。
「どうすればいいんだろうな?あんなこと言われて……泣かせて」
今でも耳に残ってる。あなたはいないでしょ?悔しいけどその通りで何も答えられなくて。
「なあ、熊、メリンはこうやって胸のうちを吐き出すことはあったか?」
熊はフルフルと首を振る。
「俺でも少しは役にたったのかな。でも、でもさ…………悔しいんだ。俺がいつまでも一緒にいられないのが。夢を見させておいて寿命が尽きたらさよならなんて、自分に腹が立つ!」
メリンの手をそっと握ると、冷たくて。いつかは俺のしわくちゃになって冷たくなった手を握るメリンを思い浮かべたら、涙が止まらなくなっていて。
「くそぉ、ごめんっごめんなぁメリン」
俺がボロボロ泣き出すとスックと熊が立ち上がる。
「…………」
「泣くなってか?」
熊は頷く。そうだこのまま泣いていたって始まらない。今俺には何が出来る?俺に出来ること。
「熊、俺は………」
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「あれ?私は?」
パチッと目を覚ますと何故寝ていたかを思い出す。そうだ泣き疲れて眠っちゃったんだ。傍らにはドロの姿も人形の姿もない。不安になって急いで部屋から飛び出す。吸血鬼特有の身体能力を駆使しドロの部屋の扉を開く。でもドロはいない。これだけでもう泣きそうなのだから私はとても弱くなったと思う。永遠の時を今までは恨んだりしなかった。でも今では永遠の時が狂おしいほど憎らしい。
ドロの匂いを辿って全速力で城内を駆ける。3割の人間の状態で走るとすぐに息が切れてしまうが吸血鬼の力を使えば丸1日走ったとしても疲れはしない。ものの数十秒でドロの匂いが1つの部屋に留まっているのを感じ勢い良く扉を開けて飛び込む。ドロは本を片手に難しい顔をしていたかと思えば私に気づいた。
「メリン、起きたのか。おはよう」
「ドロ!」
「ちょっと待て。その勢いで抱きつかれたら吹っ飛ぶ」
「あう、ごめんなさい」
速度を落としドロの目の前で止まる。落ち着いてみると部屋にいなかったからって全速力で走ってきたことが恥ずかしくなってきた。顔が赤くなる前にドロが手に持っている本に目を向ける。
「これか?いや熊に案内してもらって本を漁ってたんだ」
ドロは背表紙をポンポンと叩くと元あった棚にそっと戻した。
「それでメリン走ってきたみたいだけどどうした?」
バレていた。顔が火照るのを感じながら言い訳を口にする。
「た、ただ寝ぼけていただけよ」
「そうか、何かあったんじゃなくて良かった」
ドロはホッとしたように笑うと頭を掻く。
「泣き疲れて眠ってたから悪い夢でも見たのかと思った」
「ううん、大丈夫」
私も少し笑って返す。
「なあ、メリン聞きたいことがあるんだけどいいか?」
ドロは表情を引き締めて言う。
「聞きたいことって?」
そう聞くとドロは深呼吸をして意を決したように口を開いた。
「俺を吸血鬼にしてくれ」
その言葉を聞いた途端私は固まってしまった。吸血鬼になる?ドロが?
「メリンが寝ている間に考えてたんだ。どうすればいいか……。どうすればメリンと一緒にいられるか。それで出た結論だ」
駄目だ。ドロを吸血鬼にしてはいけない。
「ドロ、分かってるの?化物になるのよ?怖くないの?それに吸血鬼を専門で殺す人もいるのよ?」
「分かってる」
「分かってるならなんでそんな冷静でいられるの!?」
「一緒に旅をしようって言っただろ?約束したのに果たさないでさようならなんてしてたまるか」
「それだけ?それだけのことで?」
「悪いか?俺にとっては重要なことなんだよ。それともメリンにとってはちっぽけなことだったか?」
「違う、違うの!ただ……ただ」
胸の内にある感情を表現できない。一緒にドロがいつまでもいてくれるのは嬉しい。今まで生きてきた中で一番と言ってもいい。でもドロを吸血鬼にしてしまってもいいの?どうしても私の中ではそれが重くのしかかる。
「メリン」
「何?」
俯いていた顔を上げるとドロは少し照れて笑う。
「俺はメリンが好きだ」
「え?」
「大人びた雰囲気なのに子供っぽいところとか、寝ている寝顔とか、一緒にいて落ち着くところとか、ほっとけないところとか……と、とにかく!俺はメリンが好きなんだ」
「……えっ、えっと」
私は顔がものすごく熱くなるのを感じる。ドロも顔が真っ赤で照れているのが伺える。
「俺はメリンと一緒にいたい。だから……メリン、俺を吸血鬼にしてくれ」
まだ顔の赤いドロはそれでも私の目を見つめて言う。
「わ私、吸血鬼だよ?」
「だから俺がなるんだろ?」
「でも私そんな食べないよ?」
「別にいいさ、他の楽しみを探そう。」
「でも……でも……」
「俺はいつでもなる覚悟はできてる。だから後はメリンが決めてくれ。まあメリンが嫌だって言ったらどんな手を使っても不老不死になるけどな」
ドロは不敵に笑う。
「私は」
「すぐじゃなくていい。ゆっくり決めてくれ。あ、でも俺がおっさんになる前な」
「そんなに長く考えないよ」
「そっか、ならいいや」
2人して笑う。この時間がとても愛おしい。私はこの150年間の生きてる意味が無いと思っていた。殆ど惰性で生きてきた。
「ドロ、私…幸せだよ。ありがとう」
「別にいいさ。これからも不老不死になれるか探すとして時間は有効に使わなきゃな。何したい?」
「お昼寝はどう?」
「昼寝か。まあいっか。分かったよ」
「やった。じゃあ寝物語に旅の話を聞かせて」
「ああ、いいよ。」
ドロは私と一緒に歩き出す。
「ふふ」
「どうした?」
「なんでもない」
私は……幸せだよ。お父様、一族の皆。




