答え合わせ
熊に掴まれ起き上がった後何故かメリンの前に人形たちと一緒に正座させられた。正直顔を真っ赤にして何を言っているか分からなかったが俺を向いて
「ドロはああやって女の子を誑かすの?」
と静かに問いかけられた。どう反応すればいいのか分からないのでとりあえず頷いたら
「最っ低!!」
と火を吹きそうな勢いで怒られた。その後も小言が続き説教された。どうやら最初は人形たちへの専用の言葉だったらしく俺に聞かれないようにあえて変えてるらしい。人形たちは俺より説教は短くすぐに開放された。俺は人形たちの話が終わった後延々と女の子がどれほど繊細か等の説教をされた。
「なあ、メリン分かったよ。でもあれは俺のせいじゃない。熊が俺の背中を押したんだ。」
俺の少し後ろに座っている熊を指さす。熊がものすごい勢いでこちらを凝視し始める。
「知ってるわ。」
「じゃあなんで俺だけ説教長いんだよ。」
「う、そ、それは」
熊がまたやれやれと首を振っているのが視界の隅に映るがメリンに鬼のような顔をされやめた。
「それは?」
「それは……」
「うん」
「な、なんだっていいいじゃない!」
「ええぇ」
理不尽だ。メリンはそこまで言うとコホンと咳払いをして
「それでドロ、聞きたいことはある?」
と真剣な表情になる。
「はあ、はぐらかされたけどまあいいや。いっぱいある。まずメリンは吸血鬼なのか?この人形たちはなんだ?この城は外装の大きさと内装の大きさが合ってない気がするけどどうなってるんだ?すぐ思いつくのはこれくらいだ」
「そう、分かったわ。それじゃあ城から話していきましょうか。この城は私が魔術で改造した城よ。外装は魔術や弓、耐火性に優れた防護壁をはってあるわ。内装は魔術で拡張して大きくしているの。多分外装の倍は拡張してるわ。それ以上に拡張できるけど私だけだと手に余るし使い道もそんなにないからしてない。城についてはこんなものかしら。質問は?」
「魔術ってなんだ?」
「魔術は魔法を作る過程よ。魔法は色々なもの、例えば火だとか水だとか物質を作ったりだとか形あるものを生み出すものよ。魔術を過程といったのは魔法の基礎になるからよ。それと魔術は形ないものを生み出すもの、この城のように拡張、大きさを変えたり、形を変えたり、うーん形ないものを生み出すと言うよりはあるものを変化させるといえば分かりやすいかしら。」
「なるほど、ようするに魔術は魔法の前段階。魔法は物体等を生み出すけど魔術は物を変化させられる。こんな認識でいいか?」
「うんバッチリ。他に聞きたいことは?」
「ないな」
「それじゃあこの人形たちについてだったわね。この人形たちは私の眷属よ。今は人形の形をしているけどこれも魔術で大きさを変えて眷属達に着せているの。中にいるのは蝙蝠や子狼よ。脱ぐのは簡単だけど着せるのが難しいの」
「なんで脱ぐのは簡単なのに着せるのは難しいんだ?脱いだのまた着るだけだろ?」
「蝙蝠や子狼って人間の形をしていないじゃない。だから人形の中に入れた後に感覚の調整を魔術でしなきゃならないの。勿論入るものに直結するように繋げているから脱ぐともう一度繋ぎなおさないといけないからよ」
「ああそういうことか」
「ドロって案外飲み込みが早いわね」
「そんな難しい話してないだろ」
「まあそうだけど……まあいいわ。今の話で聞きたいことは?」
「うーんなぜ蝙蝠と子狼?」
「私が呼び出せる限界だから」
「ふーんじゃあ呼び出せるやつだったらどうなるんだ?」
「見たことはないから分からないけど多分1匹1匹の個体が強力で蝙蝠は変わらないと思うけど狼は子狼じゃなくて巨大な狼になるはずよ。私はそこまでの力はないから無理だけど」
「そうか、メリンはなんで出せないんだ?何となく本当にメリンは吸血鬼なのか俺は少し疑問に思った」
「と言うと?」
「まず瞳の色、メリンの瞳は暗い暗赤色で光に当てるか間近で見ないと黒に見える。昔読んだ本では吸血鬼の場合真紅だったはずだ。3日前のメリンがおかしくなった時も色は真紅と言うより赤色だった。メリンは夜すぐ寝る。1人の場合あんなに早く寝るのかは見ていないから断言はできないけど、元々寝つきが早いと思う。朝は弱いけど夜行性ではなさそう。
肌の青白さは合致するし冷たいのも合致するけど顔が赤くなっている時は確かに手はあったかくなってた。死者である吸血鬼だったら万が一羞恥で赤くなったとしても死者だからきっと体温は変わらないだろう。
後犬歯はそんなにメリンは大きくない。多分普通の少女と大して変わらない。目が赤色の時は少し長くなってたけど本来の吸血鬼と比べたらそんなに長くはない。
本来なら俺の腕くらい骨と一緒にあっさり貫通するくらい長いはずだ。メリンの場合骨には届いてたけど後は噛む力で無理やり食い込ませてた感じだ。と大体思ったことを話したんだがどうだろう?」
「え、えっとその」
「メリン?」
「いや、そのそこまで見られていたんだというかなんというか………恥ずかしい」
「あーあと目が赤い時は口調が偉そうになるけど暗赤色の場合、口調はただの少女と変わらない」
「うう恥ずかしい、こんなにドロに見られてたの」
「その言い方やめてくれないか?卑猥なことしてるみたいだ。それであってるのかあっていないのか聞いてもいいか?」
「概ねあってるわ。私は7割が吸血鬼で3割が人間よ。3割人間が入っているお陰か通常の吸血鬼のように血の飢えはあまり無いわ。でも定期的に摂取しないと……その……ドロを襲った時のように血が暴走して血を吸いたいって欲望だけの化物と同じようになる。鏡を見ても7割吸血鬼のせいか体が半透明にしか映らなくて怖くて見ないの。だから目の色がどうなってるかは良く自分では分からないけど多分暗赤色の時は人間なんだと思う。」
「そっかじゃあ3日前に飲んでた液体は……」
「血液よ。あの時はそこまで口にせずに部屋を飛び出したせいであんなことになってしまった。ドロごめんなさい。怖かったでしょう?」
怯えた目でこちらを見ると目を伏せる。
「ああ怖かったな。あの時は追い出されるかと思った」
「え?」
「あの時はごめんな。謝ろうとして探してた時にあんなことがあったからさ言いそびれてた」
「そうじゃなくて怖くないの?」
おずおずと目を上げて視線を交わす。暗赤色の瞳は揺れ逸らしたくなるのを必死に堪えているようだ。
「ああ、怖くない。追い出される方が怖い。メリンには言ってなかったけど俺ドロボウなんだ。追われてはいないけど帰る場所もない。そんな矢先に泊めてくれたのがここだったんだ。もっとメリンのことが知りたい。だからここにいさせてくれないか?メリン」
メリンは瞳を潤ませそれでも目を逸らさずに笑う。
「うん!ここにずっといて。私ももっとドロのこと知りたい、外の世界を知りたい!」
「ああ、俺の短い旅の話ならいくらでも話してやるよ」
「やった!」
ぴょんぴょんと飛び跳ね喜んでいる様は見た目と変わらない年頃の少女だ。ずっとおとなしい振る舞いを心がけていたのが伺える。
「あ、そうだ聞きたいことまだあった。」
「え?何?なんでも聞いて!」
「俺の血飲んで大丈夫だったのか?」
「うん、体が焼けるように痛かったけど今は大丈夫だよ。」
「そうか、良かった。」
今の今まで聞かなかったのがおかしいが今の状態で大丈夫じゃなかったらどうする気だったんだ?俺。
「ドロの血って少し普通の血とは違ってピリ辛で、癖になりそう。」
メリンの目が怪しく光って身の危険を感じる。
「そ、そうか、メリンはいつ頃目を覚ましたんだ?」
これ以上聞いたら恐ろしいことになりそうなので話題を逸らす。
「ドロが扉開けて入って来る頃にはもう完全に回復してたよ」
「………。もう1つ聞いてもいいか?」
「なあに?」
「なんで寝たふりしてたんだ?」
「…………」
「メリン?」
「そ、そ、それは」
さっきまでのにこにこと笑ってたのはどうした。
「それは?」
「熊が男の子を看病している女の子もキュンキュンするけど、男の子が伏せっている女の子に今まで恥ずかしくて言えなかった本音を漏らすほうがキュンキュンするって」
「おい熊。結局お前じゃねえか。それよりも人形たち全員グルかよ。お前ら眷属とか言われてなかったか?主人に悪戯して何してんだ」
「それに熊早かったんじゃない?もう少ししたら何か言いそうだったのに」
メリンはもったいなかったと表情で表す。
「はあ、心配して損した。」
「あ、ドロ腕出して!」
「は?」
「いいから腕」
俺は言われた通り腕を出すが「こっちじゃなくてそっち」と左腕を持ち上げられる。
「結構吸っちゃったんだね。カラッカラになってる。ごめんなさい」
思っていたよりひどかったとうなだれる。
「別にいいよ。それで元に戻るのか?」
「うん、はあー」
カプッ
「へ?」
カラッカラの腕にメリンが噛みつく。するとみるみる腕が元に戻っていく。
「どう?動く?」
「あ、ああ」
「少しだけ血を分けたの、吸血鬼は傷の治りが早いから」
「そういうことか、ありがとな。ずっとこのままかと思ってたから」
「ううん、元々私のせいだからごめんなさい」
「別に元に戻ったから構わないさ」
戻るとは思っていなかったので元通りになった手をしげしげと見つめる。
「ドロ、さっき目覚ましたんでしょ?熊と兎が言ってた」
「ん?そうだな起きてすぐこっち来たからそんな時間も経ってないと思う」
「じゃあ長話で疲れたろうしまた寝たほうがいいわ。熊、ドロを抱えて行って」
「いや待て歩ける。歩けるからジリジリと寄ってくるな!」
メリンは熊から後ずさる俺を見てクスクスと笑っている。その唇の隙間からチラチラと犬歯が覗いていた。




