狸寝入り
吸血鬼。最古の歴史にも度々現れる人型の鬼。目は血を写したかのように真紅に染まり異様に伸びた2本の犬歯で傷をつけ血を啜る。吸血鬼は皆顔の整った者が多く顔色は青白い。人と決定的に違うのは心の臓が活動を停止し死者でありなお活動を続け、そして暗い場所を好み夜に活発に行動する。
昔読んだ古い文献に書かれた吸血鬼を思い出す。
「なあ、でもメリンは本当に吸血鬼なのか?」
「……」
人形たちは首を縦に振る。それ以上の答えはメリンに直接聞くしかない。実際吸血鬼ではなかったらメリンは本当に……。
「メリン」
俺は枯れていない手でメリンの手をぎゅっと握る。相変わらずメリンの手は冷たい。他の方法があったんじゃないか?メリンはこのまま目を覚まさないのでは?頭の中で暗い考えがよぎる。
「なあ俺に何か出来ることはないか?」
「……」
手に目を落としているので分からないが音だけでないということが分かる。だが1人の人形がこちらに近づいてきた。顔を上げると熊だ。
「なにかあるのか?」
「……」
熊は俺の手を指さしメリンを指さす。
「?メリンがどうかしたのか……ってあれ?」
メリンの頬は若干赤くなっている。
「熊、これは。」
「……」
こくこくと俺の手を指さし拳をぎゅっとするジェスチャーを送る。俺は納得しもう一度メリンの顔を見ながら手をぎゅっと握る。すると頬の赤みが増すではないか。これは………
「メリン起きてるのか?」
「…………」
ピクッと眉が動くがそれ以外動く気配はなく狸寝入りを決め込むようだ。
「なあちょっと悪戯してもお前ら怒らないか?」
人形たちは万歳をしてそこら中を駆けまわる。これは良いってことだろうか?メリンの顔をチラッと見ると頬と眉がピクピク反応している。
「じゃあ遠慮なく」
片腕が全く使えないので体を支えるのが難しいが手を握っていた手を離しメリンの頬を突っつく。
「おーいメリン起きてるんだろ?」
ツンツンしても全然起きるつもりはないようだ。
「にしてもメリンの頬は柔らかいな。こう、ずっと触っていたくなる。」
むにむにと頬を引っ張り離しては引っ張りを繰り返す。
「メリン皆見てるぞ。この城の主なんだろ?」
未だ万歳をして駆けまわる人形たちの視線はこちらにずっと向いている。メリンは羞恥からか顔を真っ赤にするがそれでも狸寝入りをやめようとはしない。
「強情だな。今度は変顔させるぞ。いいのか?」
あっ小さく首振った。
「じゃあ起きろよ。話を聞かせてくれ」
「………」
だんだんイライラしてきたぞ。
「ん?どうした熊?」
いつの間にか背後には熊が立っている。見かねて注意しに来たか。
「……」
やれやれといった風に首を振るがなんのことかさっぱり分からない。
「やりすぎたか?でも起きないメリンが悪い」
「……」
熊は首を振る。
「そういう意味じゃない?じゃあどうしたんだ。いい方法があるのか?」
「……」
なぜガッツポーズをする。
「おい、なんでガッツポーズしてるんだ?そしてなぜジリジリと寄ってくる。表情変わらないからものすごい迫力あるからやめてくれ。」
メリンのベッドに腰掛けた状態だとどうしても人形たちの顔に影ができて子供だったら泣き出しそうだ。実際俺自身もそう子供と言われる年齢なので結構怖い。
「なんだ前に手出してどうしたんだよ。ってうわ!」
熊に軽く押され片腕の動かない俺はバランスを崩しメリンの上にダイブする。斜めに覆いかぶさるようになりメリンの髪に顔が埋もれる。
「熊ぁ後で覚悟しなさいよ!」
どうやらメリンは狸寝入りをやめたようだ。
「……」
熊は斜め上を向き口笛を吹く真似をする。
「ううぶはあ。窒息する!」
俺は髪から顔を上げ息を吐く。
「ド、ドロ!重いわ」
「悪い今どける。わぷっ」
「な、なにをするの熊!」
また背中を押されたと思ったらまた熊か。さっきはバタバタしたせいで分からなかったがメリンいい匂いするな。
「ド、ドロ?大丈夫?」
「ふう、ああ大丈夫だ。メリンいい匂いするな。なんだかこのまま眠りたく……メリン?」
脇を掴まれ起き上がった俺の目には顔を真っ赤にしおろおろとするメリンが映った。




