正体
食い込んだ犬歯と噛む力で左腕がミシミシいっているのが分かる。鋭く尖った犬歯はやすやすと肉を裂き血液を余さず口へ運ぶ。
「どうだよ。旨いか?」
メリンは何も言わず夢中で腕から血を吸い続けている。興奮しているのか吸う度に噛む力で腕が悲鳴をあげる。これは言わば根比べだ。効果が出る前に俺が吸われ尽くして干からびるか、それともメリンが焼けるか。俺の体に流れる『魔血』の効果にかかってる。俺の灼血が聞くかも分からないから賭けだ。実際もう体に力が入らなくなりそうだ。立っているのがやっとで効果が出るのを待つしかない。
「っっっっっっ!!ぐばあっ!うあああああああああああああああ!」
「っはぁ」
根比べは俺の勝ちのようだ。思い切り突き飛ばされ軽く地面を跳ねる。体に力が入らないので受け身も全くとれず肺から空気が漏れ出る。未だ地面を転げ悶えるメリンは喉元を抑え吠える。
「あああああああああああああああああああああああああああああああ!妾に何をしたああああああああああ人間!体の中が焼けるようだ!」
「俺は灼髪族だ。俺の一族の血は特別製でね、燃えるんだよ。適性がない場合は」
適性があるかないかなんて知ったこっちゃない。ただのはったりに近い。
「何だとおおおおおおおおおお!わざわざ吸われるのを腕にしたのは!」
「ああ、首から吸われたらきっと数秒も保たないだろうと思ってな。ただの時間稼ぎだ」
「おのれえええ!妾をこけにしおってええ!」
「そろそろメリンを返してくれないか?引っ込めば少しは痛みを和らぐんじゃないか?」
「お前覚えていろよ!必ず殺してやる。必ずだ!」
こちらを射殺すような視線で見つめそうメリンは言うと糸が切れたように崩れる。
「メリン………」
声を掛けても返事はこない。どうやら気を失ってるようだ。良かった。今のメリンは体の中を焼いているような痛みが走っているはず。気絶していて何も感じないなら良かった。
「悪いな。手荒い真似で。許してくれよ、メリン」
ずりずりと這いずりメリン気を失っているメリンの手に俺の手をのせる。そこで俺の意識は飛んだ。
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遠くで金属の擦れる音と何か柔らかい物が腕に触れている気がする。メリンか?ゆっくり目を開けるとそこはベッドの上だった。そして手に触れていたのは
「人形?」
2体の人形が俺の介抱をしていてくれたようだ。兎と熊とおぼしき人形で腕に触れていたのは兎の人形だった。俺が目を覚ましたのに気づいたのかペコリと2体の人形は頭を下げ部屋を出た。
「何なんだ?あの人形?」
まず人形が動いていることに更なる疑問を感じたがまずメリンは無事なのだろうか?ベッドに俺を運んだのは間違いなくあの人形達だろう。起き上がろうとして手をベッドにかけるがそのままベッドに顔からダイブした。訳が分からず左手を見ると
「わお。干からびるとは思ってたがこんなになってんのかよ。戻んのかなこれ」
俺の左手は包帯が巻かれていたが隙間から見える腕は茶色く変色しミイラのようだ。
「右手は動くな。若干まだ体はだるい。というか力が入らないな」
体の末端まで力がいかない。まるで体から操作する自分がはみ出てしまって届かないようなそんな感じ。他に干からびていないか着せられていた白い服を捲り確認し立てることも地面に足をついて確認する。
自分の部屋だから扉を開けて右の廊下へ歩く。扉を開けるのも一苦労だったが全体重を乗せて押し開けた。
ひたすらに歩き薄暗い廊下も歩きメリンの部屋の前へたどり着く。少し躊躇ったがまた体を使って扉を押し開けた。
「メリン?」
返事はなかった。部屋の中には何十体もの人形がベッドを囲みさっきの兎と熊もいる。他にも猫やら犬やら狼、狐、馬、ネズミ等など様々な人形がメリンが寝ているであろうベッドを囲んでいる。兎がこちらに気づきくと手招きをする。俺がベッドまで来ると人形たちは波のように避けベッドまでの道を開けてくれた。そこでは未だ眠るメリンの姿。手は胸の上に置かれまるでこのまま棺に入れられてしまいそうだ。手に触れても冷たく呼吸もない。まさか、まさか。
「メ、メリンは死んだのか?」
その問いに人形は返事をすることはなく沈黙している。
「なんとか言ってくれ」
怖い、怖い、怖い、怖い。聞きたくない。俺の問いにまた答える人形はおらず沈黙が部屋を満たす。ここまで静かだと本当にメリンが死んでしまったみたいで耐え切れず口を開く。
「メリンは、俺はどれくらい寝てた?その前に俺の言っていることが分かるか?」
「……」
人形達は相変わらず沈黙していたが全員が首を縦に振った。どうやら言葉は通じるらしい。
「じゃあ首の振りでも指で教えるのでもいいから何日寝ていたか教えてくれ。」
そう言うと数体にの人形が俺の前に並び立つ。なるほど自分達の人数で数えろと。
「3日か。結構寝ていたんだな」
「……」
コクコクと首を人形たちは縦に振る。
「じゃあメリンの容体は良いのか悪いのか教えてくれ。良かったら縦、悪かったら横に振ってくれ。」
「……」
反応無し。なんだ?何か答えられないのか?それとも生きてもいるし死んでもいるってことか?
「どっちか分からないってことか?」
「……」
人形たちは首を縦に振る。どうやら判断がつかない場合は沈黙が返ってくるようだ。段々と人形達がどう言えば答えてくれるか分かってきた。
「メリンはてことは死んでるかも知れないし生きているかもしれないのか?」
「……」
これにはなんと一斉に人形たちが首を傾げた。どういうことだ?
「ま、待てどういうことだ?なんで首傾げるんだよ?」
「……」
またも沈黙。死んでるか生きてるかも分からない?そんなことってあるか?信じたくはないが普通だったらもう死んでしまってると見て間違いない。
だけどメリンのあの獲物を見るようなギラギラとした狩猟者の目、血への渇望、町で言っていた城に住んでいる吸血鬼。俺は確信を持って人形達に聞く。
「メリンは吸血鬼か?」
「……」
人形達はゆっくりと首を縦に振った。




