表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドロボウは夢叶える為世界を旅する(過去編)  作者: フロッグ
ドロ過去幕:苔むした町と夢望む白城
74/83

少女の秘密

「メリーン何処だ〜?さっきは悪かったよ。いたら返事してくれ。別に何処にも行かないから。頼むよ。」


歩きながらそう大声で言うが、大きな窓から差し込む日光と鳥のさえずりが聞こえるだけで後は何もない。

この食堂もメリンが言うには1階らしいが俺がメリンと会ったのは階段を降りずメリンと俺の部屋がある階だった。それ程に階ごとの広さが尋常じゃない。食堂は1階下がった場所にあった。最初に会った時は何階も上がってついた部屋なのに1つ下ったら1階に辿り着く、これはどういうことか。ひとまずそんな疑問を頭の隅に押し込んで1階登ることにした。その先にメリンの部屋があるはず。


「うん、さっきと同じだ。じゃあここを右に行って真っ直ぐ歩いて左に曲がって、って迷路だな。なんで1つの階でこんな右に左に曲がるんだ?」


何度も来た道を戻ると自分の部屋にたどり着いた。一応扉を開き確認してみる。自分があてがわれた部屋だ。

使われたまま畳まれれず置かれた毛布に昨日散々見た他の客室には無かった小さな金色の置き時計。


「よし。自分の部屋だな。さてじゃあここを真っ直ぐか。」


俺は来た道の逆の方向へ進む。少し行くと薄暗い廊下が出迎えた。今日の朝とは打って変わって薄気味悪い雰囲気が漂う。歩いても歩いても同じ景色が続いた頃ようやく暗がりでも分かる大きな扉が目の前に現れた。近づくと少し扉は開いている。扉の目の前まで来て扉に手をかける。だが何故だろう?開いてはいけない気がする。体中から汗が流れる。薄ら寒いのに体は運動したかのように動悸が早い。深呼吸をして自分を奮い立たせると一息に扉を開く。すると部屋の真ん中に黒い物体がうずくまっていた。よくよく見ると暗い赤色の髪が黒いドレスにかかっている。メリンだ。口を開いてメリンと呼ぼうとしても上手く口が動かない。呼吸ができなくて喘ぐ魚のように俺は口をパクパクするだけで一向に言葉が出ない。メリンは振り向かずうずくまったまま微動だにしない。何とか言葉を吐き出す為に口を湿らせる。


「メリン。」


そう名前を呼ぶだけで精一杯だ。体の震えが止まらない。まるで昔森で熊に遭遇した時に似ている。命の危険の迫る感覚。動こうにも動けない生き餌のような気分。


「来ないで!」


俺はいきなりの大声で肩を跳ね上がらせる。


「お、俺が悪かったよ、メリン。ごめん。機嫌直してくれ。」


自分の言う言葉が長く感じる。まるで時間が遅延しているようだ。


「どうして、どうして来てしまったの?ドロ?」


大声とは打って変わってか細い声でメリンは言う。小さい声なのにまるで耳元で囁かれている錯覚を覚える。


「メ、メリン?どうした?」


何とか怖気づいた心を叱咤して言葉を紡ぐ。


「嫌、ドロ。」


「な、なにが嫌なんだ?ここにはもういない方がいいのか?」


「ち、違うのドロ!私はう、ううううううう。」


メリンはうずくまったまま苦しみだす。


「メリン?」


すぐに駆け寄りたいのに体が震え動けない。


「嫌、嫌、嫌、ドロを傷つけたくない。ドロを殺したくない。初めてこの城で私に話しかけてくれた人なのに。嫌、イヤ。ドロ…………お願い。逃ゲテ。」


メリンの声が最後割れたかのように声の調子が変わった。


「逃げるって?なんでだよメリン。」


ゆらりとメリンは立ち上がる。腕はだらんと下げたまま振り返る。雰囲気はさっきよりも更に色濃い死の匂いが部屋を覆い尽くす。


「フフフフフフ。あハハハハハ。」


メリンは笑う。でも今までのメリンとは全く違う。割れたような声でメリンは笑い続けその声は俺を縮み上がらせるには充分だった。


「久しぶりの人間の血。大事にダイジに吸わないと。」


顔を上げたメリンの目は爛々と輝き赤い宝石を思わせる。そして獲物を前に興奮を隠せない捕食者の目でもある。


「メリンどうしたんだよ?」


「あら?人間風情が気安く話しかけるとは身の程を知れ。」


メリンの姿がふっと掻き消えたと思った途端強烈な痛みが側頭部に響く。気づくと目の前はメリンの姿ではなく地面を見ていた。何が何だか分からない。


「ふふ。愚図だなあ人間は。どれ少し味見をしてやろう。うう!」


呻くメリンの異変にゆっくりと首を動かし彼女を見る。


「い……や。ドロ………。」


ポロポロとメリンは片目から涙をこぼす。


「メ…リン。」


「美味であることを願うばかりだ。」


片方の目からは涙を流したままメリンは言う。女の子が泣いてる。俺をドロボウにならないかと誘った青年は言っていた。『目の前で泣いている女の子がいたら盗んだものを放り出して、追われていることも忘れて助けてやれ。きっと助けた女の子の笑顔の方がそこら辺に転がる宝より宝になる。』生きることで精一杯だった俺にはあの時の言葉は意味が分からなかった。でも今なら分かる。俺は自分を奮い立たせ立ち上がる。


「メリン。今助けてやる。」


「何を言うか?人間。」


「元のメリンを返してもらう。」


俺は立ち上がり拳を握って構える。


「威勢の良い獲物はさぞ血も活きが良いだろう。食前の運動くらいにはなってくれよ?」


「さてどうだか、な!」


メリンを殴ることに自分への嫌悪感がせり上がってくる。だけど今のメリンはメリンじゃない。俺は奥歯を噛み締め全力で殴りかかる。勢い良く地面を蹴り顔を狙わず肩目掛けて右拳を振る。


「うむ、食前の運動にもならん。」


メリンはあっさりと避けるとそのまま前進する。振りかぶった拳は空を切り体を掴まれる。


「っ!」


「ふふ、少し大人しくしろ。大丈夫だ。ゆっくりと体が冷えていくと思えばいい。遊んでやろうと思ったがやはり我慢できん。」


耳元でメリンはそう囁く。その声に全身が震え後ずさろうとするがメリンが抱くように片手で抑えているため動けない。俺より少しだけ背が高いメリンと目が合う。相変わらず片方の目からは止めどなく涙が溢れもう片方は笑みで細められているだけだ。


「それじゃあ戴くとしよう。」


やばい。やばい。やばい。やっぱり不利だ。血のこともあってスロースターターなのにこんな瞬殺では意味がない。必死にもがこうとするが体が全く動かない。畜生。このままじゃ血吸われて干からびる。そんなのまっぴらだ。それに


「メリンがその後泣くのはもっとごめんだ!」


「何をぶつぶつ言っておる。大人しく首を傾けよ。」


チャンスは一回。首から吸われれば多分死ぬ。一か八かやるしかない。


「ああ、分かったよ。」


大人しく首を傾ける。


「ふふ、聞き分けが良いな。それでは馳走になろう。」


「あっ。」


一瞬、一瞬だが俺が首を傾けた時メリンの顔が歪んだ。大丈夫だメリン。ちょっと体が焼けるような痛みは伴うかも知れないけど許してくれよ。

メリンは嬉々として口をパカッと開き首元に鋭い犬歯を突き立てようとする瞬間


「首からはまだ吸わせねえ。」


掴まれていない手をメリンの口目掛けて差し出す。


カプッ


そんな音がした気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ