おかしな少女
過去幕2話めです。
俺は呆れることしかできない。いきなり約束しようと言ってきたと思ったら、魔法陣が効かないだとか、人のことを召使いと言い追い払うように手を振ったと思ったら、今度は召使いを雇っていないからいきなり部外者だと気づいたり。一体なんなんだ。
「それであなたは誰?」
そしてこの高飛車な発言ときた。頭を抱えるしかない。
「俺はドロ。」
呆れて名前を名乗る。何回も口を挟まれ名乗れなかったのに名乗れたことに少し驚く。
「ふーん。ドロ、ドロね。私はメリン・シュトラバ・ゼイル!シュトラバは貴族称、ゼイルは父称よ!メリンでいいわ!」
メリンと名乗った少女はこれでもかと言うくらいにふんぞり返って胸を張る。貴族称とか言ってるのに名前を呼ばせて良いのか?と若干疑問が首をもたげたが気にしないことにしよう。
「シュトラバと呼ばれると呼ばれている気がしないしゼイルだとお父様を思い出すからメリンでいいのよ。」
ふふんと心の内を見透かしたようにメリンは言う。実際それには驚きを隠せなかった。
「まあただ度々そう思う人がいるからよ。それに言っておいた方があなたもスッキリするでしょう?」
と先ほどの驚きが表情に出たせいでばれている。メリンは意地悪く笑う。
「さてそれでこの私に何か用かしら?」
「いや、この城って他に人はいないのか?」
気になったことを真っ先に口にする。
「ええいないわ。信用できないのなら全ての部屋を見てもらっても構わないわよ。」
「いやそれだけ聞ければいいよ。」
メリンはきょとんとした表情で固まる。この城の部屋全部なんて見ていたら日が暮れるどころか何日かければ見きれるのか分かったもんじゃない。
「それじゃあお邪魔したね。」
先程と同じように窓に足を掛ける。
「ま、待ちなさい!」
「?」
振り返ると眼鏡で隠れていない口だけあわあわしたメリンが何を言おうか悩んでいるようだ。待てとは言ったけど何を言おうか考えていなかったのだろう。
「出て行くのならちゃんと出口があるから出口から出て行って。」
「あ、ああ。わかった。」
メリンはそこまで言うとホッと一息ついている。
「それで次はいつ来るの?」
「ん?もうこないけど?」
実際はメリンが起きていない時間帯にはという意味だ。顔が半分隠れている眼鏡のせいで表情が良くわからないが口元だけで充分わかるのが面白い。メリンは何故か慌てているようだ。
「や、宿はあるの?」
「ああ、この城にほど近い町に借りてる。」
「しょ、食事は?」
「したよ。それにまだ夕ご飯には早いしな。」
太陽が天頂から少し傾いたくらいなのでまだ余裕がある。
「そ、そう。」
メリンはがっくりとしょぼくれる。なんだか悪いことをした気分だ。何も盗んでないのに。
「いきなりどうしたんだ?」
「え、い、いやなんでもない。た、ただ気になっただけよ。」
とプイッとそっぽを向く。若干体がプルプルと震えているが一体なんなんだ?
「そっか、じゃ。」
それよりも早く帰って決行の準備をしようと歩き出す。が手をはっしと掴まれた。その手は青白く艷やかで
思わず見入ってしまった。
「そ、そのお願いが、あるんだけど。」
「お願い?」
「は、話相手になってもらえない?」
「はあ。」
ガクガクと緊張を隠せないように掴んでいる手は震えている。俺は少し溜息を吐く。
「わかったよ。」
「え?ほんとに!ほんとにいいの!」
「あ、ああ。」
「やったあ!やったやった!」
そんなに喜ぶかと呆気にとられたがあまりにも嬉しそうなのでこっちも少し笑ってしまう。そしてメリンは掴んでいた手を握手するようにすると少し揺らして
「ありがとう!ドロ!」
と口だけニッコリと笑ったのだった。
「それじゃあその前に少し宿に戻らないといけない。いいか?」
「うん、うん。いいわよなんならこの城に泊まって!」
「いいのか?」
「うん、1人じゃあまりにも広すぎて。」
寂しげにメリンは笑う。その雰囲気があまりにも寂しげで了承せざるをえないし丁度苔むした町からいち早く出たいと思っていたわけだしいいだろう。と若干心の内で言い訳めいたことを口にする。
「わかった。お言葉にあまえるよ。」
そして出入り口に案内してもらいちゃんと出入り口から外に出て宿に向かった。一括で1週間の滞在費を払っていたのでその内5日分の金額を返金してもらい城に向かう。
盗みをする場所に泊まるだなんて何を考えているんだか。城に向かう山道で自嘲気味に笑う。今まで騙して騙して生きてきた今回もその延長だ。そう自分に言い聞かせる。しばらく歩くと真っ白い城の大きな扉を開けた。
すると広い玄関の中心ににポツンと門を前にして座っているメリンがいた。そして扉が開いたのに気づくと顔を上げる。すると口元だけが笑みの形に変わり走り寄ってくる。
「それじゃあしばらくお邪魔する。」
「う、うん。ありがとう。わがまま聞いてくれて。」
「まあいいさ、急ぐ旅でもないし待っている人もいないしな。」
軽く言うとメリンはぐっと何かを堪えるかのように口を引き結ぶ。
「どうした?」
「な、なんでもないわ。」
と無理矢理に口を歪めている。きっと笑顔のつもりなのだろう。まるで長い間誰とも会わず喋らなかったことで表情の作り方を忘れてしまったかのようなそんな雰囲気を感じさせる。
「さ、行きましょう!まずは部屋に案内するわね!」
と俺の手を引き走り出す。
「おわっ、ちょっと待ってくれよ。」
手を引っ張るメリンの横顔は本当に嬉しそうで、でも悲しそうで。何となく予定してた日よりも長くここにいてもいいかなと思った。




