目覚めない友
ドロ、またいつかあなたといっぱい話したいわ。今度こそ約束してくれる?
当たり前だろ?俺が絶対に起こしてやるからな。安心して休んでろ。
ドロ、約束だよ?
ああ、約束だ。
良かった……。お休み……ドロ……。
お休み………メリン………。
「ご主人様。ご主人様。起きてクダサイ。ご主人様。」
抑揚の無いような感情の無いような声がする。何だか久しぶりに聞いた気分だ。目を開けると一気に光が目に入り眩しくて何度も目を瞬かせる。
「魔ペットか?」
「ハイ、そうでゴザイマス。ご主人様。」
懐かしい夢を見ていた気がする。気づけば俺はベッドの上に寝転がっていた。身体の至る所に鋭い痛みが走る。そうだ。ラビドーとマッシャーと戦って、ナナシが足止めをして………。
「ナナシは!!ナナシはどうなった!キャリルも無事なのか!?」
大声を出したせいでまた体中に鋭い痛みが走る。
「落ち着いてクダサイ、ご主人様。キャリルさんは気を失っているだけでした。今はもう目が覚め元気デスヨ。」
「ナナシは?」
魔ペットは残念そうに首を振る。
「ナナシさんはまだ……寝てオリマス。」
「そんなに重傷なのか!?」
「いいえ無傷です。」
「じゃあどうして。」
「力を使いすぎた……と仰ってイマシタ。」
「ナナシは今何処にいる。」
「正面にイマスよ。」
どうやらここは病室らしい。魔ペットの指差す方向にはカーテンが引かれナナシの姿が見えない。なんだろう?この胸騒ぎは。
「あ、ドロ!起きたんだね!良かった。本当に良かった。」
丁度よくキャリルとカルフェが部屋に入って来た。キャリルは入って来るなり抱きつきわんわんと泣き出す。
「痛い。キャリルまだ痛いから。」
「ご、ごめん。」
俺は身体の半分にギリギリいかないくらいの血液を流したらしい。出血を抑えていなかったら今頃目覚めてはいないとのことだ。それよりもまずは
「4つ刃者はどうなった?マッシャーとラビドーは?」
「撤退したみたい。」
「撤退?」
ナナシが一人で4つ刃者を?一体何があったんだ?
「ここからは私から話そう。それともうひとつ。私の大切な人を守ってくれてありがとう。」
カルフェは深々と頭を下げた。
「いやいや、俺は殆ど気絶しててキャリルを全く守れなかったよ。礼を言うならナナシに言ってくれ。」
そう言った途端キャリルが顔を苦痛に耐えるような顔をしたのは気のせいだろうか?
「分かった。だがドロさん、本当にありがとう。」
そこまで言うとカルフェは今までのあらましを話してくれた。
避難させた人達を町に置いて一安心した頃気づけばキャリルがいないことに気づき戻ったのではと大慌てで戻ろうとしたらしい。キャッローツ王国の国王も行くと言い出す始末で城の者達に止められたそうだ。それでも行くと言う王様とカルフェで戻ろうとしたところ、透明な液体がカルフェ達に向かって来た。そして少し前でピタリと止まると形を変え共用語であるジャキャ語で
『キャリルは無事、戦闘が終わり次第追って連絡する。』
と透明な液体はそう記した。そして得体の知れない液体はそのまま動かなくなった。それでも行こうと透明な液体の脇を通ろうとすると液体は大きな壁となり道を塞いだ。遠回りをしても2手に分かれても透明な液体は通すことはしなかった。苛立って近くの兵に槍で壁を刺したところ槍がへし曲がり愕然としたという。諦めて待つことにして数分後……
『4つ刃者は撤退した。キャリルと一緒に気を失っている者をどうか助けて欲しい。この液体と同じ物で作られた籠に2人はいる。開ける場合は籠に手を当て開けと念じるだけでいい。撤退したと言っても油断はできない。くれぐれも警戒を怠らないこと。』
長々とした文章を読み終えると液体は波が引くように地面に消えたそうだ。大急ぎで襲撃場所に戻るとついさっき見た透明な液体と同様の質感で出来た籠の中に俺とキャリルがいてその籠の前には倒れたナナシと魔ペットがいた。
透明な液体に言われた通り開けと念じると籠はゆっくりと上から溶けるように消え寝かしつけるように2人を地面に横たえた。王様は護衛の者達に担架を持ってこさせるように言い急いで治療室に運んだそうだ。
俺はかなりの重傷でその傷を止血代わりに抑えていたのも透明な液体だったらしい。即座に傷を癒やすが痛みの残るキャッローツ王国伝来の秘人参で作った薬を塗ったことで大事には至らなかった。それにしても血が足りないせいかフラフラする。
「傷はないけど痛いな。」
服を捲って見ても傷は見当たらない。大分ズタズタになっていたと思うんだが。秘人参で作った薬凄いな。
「どれくらい経ってる?今。」
「3日デス。」
「そうか、それでナナシの容体は?」
「ご主人様……。」
「ドロあのね、ナナシはその……。」
キャリルはそこまで言うと顔を覆う。カルフェはキャリルを慰めるように抱きしめる。おいなんだよ。
「ドロさん言いづらいのですが……ナナシさんは………息をしていないのです。」
「はっ?」
俺は言われた意味が理解できなかった。イキヲシテイナイ?なんだそれ。
「何言ってんだ?」
「ご主人様、ナナシさんは……」
「傷は見当たらないのに息をしていないのです。ドロさん。どうしようもないんです。」
カルフェは唇を噛みしめる。部屋は静かになりキャリルの泣いている嗚咽だけが響く。
どういうことだよ………ナナシ。まだ2つの国しか見てねえだろ。俺は書けられた布団を握りしめ目から溢れようとする涙を必死に抑えた。




