聞こえる声と僕の名前
タイトルどおりです。お楽しみに。後ちょっとグロテスクかも、しれないです。
腕から零れた歯車が鈍い音を響かせ地面に落ちる。マッシャーの振った鈍器は右腕に当たり肘から下がちぎれ飛んだ。痛みで目の前が真っ赤になり点滅する。赤い液体も流れ出るが安っぽい赤だ、と静かな思考がそう思う。
「案外脆いですねぇ。」
鈍器を僕の腹目掛けてマッシャーは振るが僕は後ろに跳ぶことでなんとか避ける。相変わらず右腕からは赤い液体と歯車がこぼれ落ち嫌な音が鼓膜を震わせる。視界には倒れたドロと未だ首を掴まれたままのキャリルがうつる。
「待って……て……今、助ける。」
「どうやってですかぁ。片腕は無くなってしまったのにぃ。」
マッシャーはゆっくりとこっちに向かって歩いてくる。肩に担いだ鈍器はまるで死神が鎌を持っているようだ。僕は点滅する視界でマッシャーを捉える。片手には運良く取り落とさずに持った突槍が握られている。
落ちる歯車の音が遠い。まるで自分の身体から落ちているのでは無いかのように遠い。
思い出して……。
頭に響く声、どこか懐かしい声だ。この短時間の間で思い出した事と言えば突槍の出し方と槍に透明な刃を纏わせる方法くらいだ。それ以外に一体何を思い出せば良いって言うんだ。そこまでで思考が途切れる。
「突進とはこうやるんですよぉ。」
マッシャーの突撃によって僕は吹き飛ぶ。棘のような突起は容赦なく僕の腹部に無数に穴を開けた。開いた穴から沢山の大小様々な歯車がこぼれ落ちる。僕はそれを痛みがあるのに人事のように見つめ吹き飛ぶ力のままに地面に身体を打ち付けた。動けないや……。どうやら腕からこぼれた歯車は身体を動かす歯車も混ざっていたらしい、マッシャーが目の前に来たのに動こうとしても動くことが出来なかった。そして腹部に開いた穴からは全ての身体の動作を担う歯車がこぼれたらしい。身体がいうことを聞かず指先すら動かせない。天井を向いて倒れているからこれ以上の歯車がこぼれ落ちることは無い。だけど身体の中で歯車が今も落ちている音がする。
思い出して……。
また懐かしい声が頭に響く。どうやって?それに思い出してもこれじゃあどうしようも出来ないじゃないか。身体は動かない。動けば動くほど身体の機能がこぼれていく。そんな僕に何が出来る?
大丈夫、あなたなら……だから……思い出して……。
頭に響く声に力の限り叫びそうになる。無いものの思い出し方なんて知らないよ。
「もう終わりですかねぇ。呆気無いですねぇ。」
少し残念そうに嬉しそうに声が僕に向かって届く。
「2人を諦めてあなたも楽になるんですねぇ。それもいいでしょぉう。口だけの者なんていくらでもいますからねぇ。」
2人……。ドロ…キャリル…。
いいの?
良くない。
どうするの?
分からない。
死んじゃうよ?
知ってる。
助けないの?
どうやって?
思い出して。
またそれだ。
助ける方法はそれしかない。
じゃあ教えてよ。
教えられない。
それじゃあ2人が死んじゃうよ。
私には教えることができない。
何故?
あなたのことだから。あなたにしかできない。
思い出し方のヒントを頂戴よ。
ヒント……。
あなたの本当の名前。
本当の名前?でも覚えてないんだ。
違う聞こえていないだけ。思い出して……あなたの中にある。
僕の中。
「ねえーそろそろ腕疲れたから今度こそ殴っていいー?」
「いいんじゃねえか?どうせもう起き上がれねえだろ。」
「ふふ、それはどうですかねぇ。」
ナカミ……。
ーーー。
最後のナカミを思い浮かべる。頭に響く声はヒントをくれた。聞こえていないってヒントを。
ナカミが最後に口だけ動かした僕の名前を必死に何度も思い浮かべる。
ナカミ、教えて。
ーーー。
聞かせてよ、君の声で。
ーーー。
ーーー。
ずっと一緒だといいのにね。ナカミ。
そうだね。ーーー。
ああ………聞こえた。僕の名前。それに思い出した。僕とナカミの事。
今まで忘れていたことがフラッシュバックし頭の中に詰まってゆく。いや元々あったものが元の場所に戻ったと言うのが正しいかも知れない。
身体がガチャガチャ、カラカラと音を立てる。それでもさっきまでピクリとも動かなかった身体は動く。
当たり前だ。今修復しているんだから。ちぎれ飛んだ腕が僕の無くなった部位に歯車と一緒に飛んでくる。
歯車が組み直され正常に動くと腕の歯車と噛み合い傷跡は嘘のように消えた。手を振り回し握ったり開いたりして動きを確かめる。腹部の穴も腕が飛んできた時と同時に修復され服が破れただけに収まった。
「ふふふふふふふふふぅ、あははははははぁ、いいですよぉナナシさぁん!素晴らしいぃ!」
歓喜の声を上げマッシャーは今までで一番の深い笑みを浮かべる。
「そう?ありがと、2人は返してもらうね。」
僕を中心に円を描くように透明な刃が地面を這う。
「危ねえな!」
「あー手え離しちゃったー。」
マッシャーは後方に大ジャンプして避けたが2人は不意の事で慌てて避ける。
透明な刃は水のようになりキャリルとドロを包みそっと僕の方へと連れ戻った。やがて僕が手を軽く振ると2つの透明な刃は合わさり強固な刃の籠に変形する。ドロとキャリルはその中で気を失ったままだ。
ドロは溶液上にした透明な刃を傷口に当てて固め止血しているが早く処置をしないと危険な状態にある。キャリルは特に外傷は見られず応急処置をする必要は無さそうだ。少しでも身体の負担を軽くするため籠の中に溶液上の透明な刃を作りその中にドロとキャリルを入れる。これで2人は安全だ。
「便利ですねぇその水?でしょうかぁ?」
円状に這った透明な刃は消したためマッシャーはいつの間にか声の届く範囲まで近づいていた。
「水では無いね。前もこれについてナカミとどう呼ぶか決めようって言って決められなかったっけ。
そうだなあ透刃、透金、とでも呼ぼうかな。」
武器には透刃、その他の用途は透金と呼ぶことにしよう。心の中で一応定義付けしておく。
「それにしてもぉ今ならぁ私がぁ本気で戦ってもぉ大丈夫そうですねぇ。」
口の端が耳まで届くのではというほどにマッシャーは笑みを深める。
「やったね。これ以上この国も僕とドロの前にも立ってほしくないからここで決めさせてね。」
「出来るといいですねぇ。」
「出来ることならしたいなあ。」
僕はもう一度突槍を出す。そして透金を纏わせ突剣に仕上げる。
マッシャーは肩に掛けて持っていた鈍器を腰だめに構える。
「名乗りとかあると格好がつきますかねぇ?ナナシさん。」
「そうだね。それに僕の名前はナナシじゃないし。」
「なるほどぉ、ではぁ4つ刃者が1人『圧搾』マッシャー。」
「歯車の王、『ギアボット』ウツワ。」
名乗りを合図に2人は刃をぶつけ合う。
キャッローツ王国最終戦開幕。
自分としては今回はナナシの名前思い出し回なので重要だと思っているんですが楽しんで読んでいただけたでしょうか?次の更新はまた遅くなりそうです。すいません。




