足止めと3人目
複数の風を切る音とそれに混じり歪んだ鉄の打ち合う音が響く。
「良くもまあ片手でそこまで防げるもんだ!やっぱドロ、お前面白え!」
興奮気味にラビドーは喋る。
「うっせえな。これくらい出来る。」
ドロの持つハサミはいつもより少し小ぶりで片手でも扱えるようになっている。ラビドーはどこからともなくナイフを取り出し次々に投げる。だがドロの防ぎは完璧ではなく少しまた少しとかすり傷が増えていく。対してラビドーは無傷。片手の使えないドロは圧倒的に不利だ。
「どうした!ドロ!防戦一方だな。」
絶え間なく飛んでくるナイフにドロは防ぐので精一杯だ。攻撃に転じる隙がドロには全く無い。
「やべえ。このままじゃジリ貧だ。どうすりゃ……あれ。」
ガクッ
ドロが片膝をつき顔には困惑の表情を浮かべている。
「中々頑張ったなドロ。でもお前の負けだ。」
ニッカリとラビドーは笑いドロが片膝をついた時点でナイフは投げていない。
「何でだ?身体が…動かねえ。」
「お前なあ。身体を見てみろよ。」
呆れ声でラビドーは言う。
「何言って……。」
ドサッ
ドロは手をつく事も出来ず地面に倒れこむ。すると身体から滲み出るように夥しい量の血が流れ出る。
「な!なんだこれ。」
「お前、かすり傷だと思って気にしてなかったろうがこれが俺の戦い方だ。俺は4つ刃者が1人、『裂き傷』ラビドー。かすり傷を致命傷に変える刃だ。」
「4つ刃者がなんでここを襲う?」
倒れても尚顔を上げ続けラビドーをドロは睨む。
「快楽さ。ただのな。俺達は楽しみたいから襲うのさ。人も国も。別に楽しくねえ事をする気は無えからな。」
「それだけで殺すのか?」
「ああ、どうでもいい正義を振りかざして殺すのと楽しんで殺すのの何が違う?殺しているのには変わらねえだろ?だったら俺は楽しんで殺す。」
「イカれてるな。」
「そうか?これでもまだ俺はマシだぜ?」
皮肉めいた笑みを浮かべラビドーは片手に持つナイフを器用に回す。
「う、ううぐっ。」
ドロは血塗れの身体を地面から離し立ち上がる。
「ドロ、立つのでやっとなのにどうすんだ?」
「う…るせえ。」
ドロの息は荒く少し押しただけで倒れそうな程フラフラだ。
「余計苦しいだけだぜ?もう目を瞑って地面に倒れてろよ。」
「まだ…終わって……ねえ。」
「勝負はついてる。諦めろ。」
「そういうわけにもいかねえんだよ。」
腕を動かす力も残っていないのかドロは両腕をだらんとたらしかろうじて武器であるハサミを持っている。
満身創痍のドロと余裕の笑みを浮かべるラビドーにゆったりとした声が呼びかける。
「そっちに飛んでいきましたぁ。気をつけてくださぁい。」
「はあぁ?何言ってんだ?ってうお!」
「……よりにもよってこっちかよ。」
フラフラのドロは溜息にもつかない息を吐いた。
「うわああああ!」
「がふっ。」
叫び声の後に鈍い声が続く。
「ごめんなさぁい。飛ばしすぎましたぁ。」
「お前!折角なにかしそうだったのに!なんで吹き飛ばすんだよ!」
「いやぁ、ちょっと興奮してしまってぇついぃ。」
照れたようにマッシャーは笑う。
「ごめん、ドロ。大丈夫?」
「大丈夫じゃない。」
飛んだナナシと衝突したドロは数メートル吹き飛び転がっていた。すぐに立ち直ったのは軽傷のナナシでドロは完全に倒れたまま動かない。
「うわっ!ドロ血が!早く手当しないと。」
あまりの出血にナナシは慌てる。そのナナシをドロは右手を上げて制す。
「やばいけど今はそんなこと言ってられない。なんとかあいつらを退けないとこの国下手したら消えるぞ。」
「そんなに?」
「ああ、あの2人4つ刃者だ。」
「4つ刃者?」
「素性も性別も目的も不明な殺戮者の4人組だ。国に来たら最後地図から名前が消えるって言われるほどに殺戮をして去っていくって言われてる。」
「やばいじゃん。」
「やばいよ。」
「「…………。」」
2人は沈黙し固まる。意見が一致したのは良いが別段状況は変わってはいない。現状は2人が止まっているから何も起きてはいないとはいえ悪いことに変わりない。
「ドロ動けるの?」
「さっき立ち上がったので全力振り絞った。今限界越えて動いたら多分出血多量で死ぬ。俺の場合動いたら通常の人より倍速で死ぬな。」
「なにを胸張っていってるの。結局前回と一緒じゃん!」
「しょうがないだろ!俺は傷ありだとまともに動けねえんだよ!」
「中古品みたいな言い方やめてよ!なんで機械の僕よりポンコツっぽいんだよ!」
「うるせえな!俺は灼血族って言ったろ!動けば動くほど早くなるけど逆を言えば動けば動くほど通常の人より倍速で血が巡るんだよ!ここまで言えば分かるだろ!俺はまだ死ねないんだよ!」
「なんで一番戦えるドロが先に戦闘不能なの!マッシャーが手加減してるからいいけどちょっとでも本気出されたらものの数秒でスクラップにされるよ!」
ギャーギャーと言い合いをしているのが聞こえたのかマッシャーとラビドーは2人の方を向く。
「お2人は何を叫んでいるんですかぁ?」
「さあな。喧嘩じゃないか?」
マッシャー、ラビドーは面白いので事の成り行きを見守ることにした。
「ドロ!ナナシ!皆避難出来たよ!」
言い合いをしている2人に大声でキャリルが言う。それに同時に振り返りホッとした表情を2人はする。
キャリルは2人に走り寄り無事を確かめる。
「2人とも大丈夫?もう皆は逃げたよ。だから2人も。」
「キャリル、行けない。あいつらは4つ刃者だ。聞いたことあるだろ。」
「え、聞いたことある。あの4つ刃者?」
「ああ。」
本当だと分かりキャリルは顔を蒼白に染める。
「それじゃあこの国の人達を避難させないと。でも時間が……。」
ナナシは手に持った突槍を握り直しゆっくりと立ち上がる。
「キャリル、ドロ達と逃げて。僕が時間を稼ぐから。その間に国の人達ももっと遠くに避難させて。」
「ナナシ……ナナシはどうするの?」
「僕は足止めするよ。」
「ナナシ、お前さっき本気出されたら数秒でスクラップにされるって言ってただろ。」
「壊すんだったらね。でもマッシャーはその後も楽しむだろうからもっと時間は稼げるよ。」
「お前外の世界楽しみにしてただろ。まだ2つの国しか見てないだろ。だったら他の手を……。」
「無いよ。無い。ドロはこれ以上動けない、相手は2人。ドロとキャリルを逃がすには死にものぐるいで僕が2人を相手するしか方法はないよ。」
ドロは口をパクパクさせて何かを言おうとするが言葉が出てこない。
「ナナシ、一緒に逃げよう?だって勝てないんでしょ?」
「そうだね、このままじゃ勝てない。でも逃げられない。だってそしたら2人はどこまでも追ってきてしまう。」
「ナナシ、待て。俺がお前を引き入れたんだ。連れてきたんだ。なのにお前が壊れるのはおかしいだろ?」
「ドロは死ねないでしょ?理由は結局聞きそびれちゃったけど。」
「この騒動が終わったら話すからだから………。」
「もうお話は終わりましたぁ?」
ゆったりとした声が待ちきれずに3人に呼びかける。
「行って。」
「待てよナナシ。」
「魔ペット。」
「ナンデスカ、ナナシさん。」
ハサミから戻った魔ペットが聞く。
「ドロをお願い。」
魔ペットは不意に同じお願いをした少女の寂しそうに笑う笑顔がちらつく。
「2度目のお願い聞きマシタ。ナナシさん必ず無事で。」
「それは分からないかな。」
「ナナシさん、私にもご主人様にももう1つのお願いは荷が重いのデス。ですから私からのお願いデス。どうかご主人様ともう一度国を回ってホシイ。だから無事に戻って来てクダサイ。」
ナナシはクスリと笑い
「頑張ってみるよ。」
そこまで言うとナナシはマッシャーに向かって歩く。
「待て、待ってくれナナシ。行くな、行くなよ!魔ペット!戻れ、ナナシが!」
「ご主人様、今行っても足手まといでゴザイマス。」
魔ペットが背中に担ぎ糸でしっかりとドロを固定する。そしてちぐはぐな足を動かし出口へと向かう。
「キャリル様も行きマスヨ。」
「うん。絶対に死なないでね!ナナシ!絶対だよ!」
瞳を潤ませながらキャリルが叫ぶ。ナナシは笑うとピースをした。そこまで見るとキャリルと魔ペット、担がれたドロは出口に消えた。
「ラビドー追わなくてもいいんですかぁ?」
「どうせすぐ終わるだろ?だったら別に焦って追う必要は無えよ。」
「因みに手出しは無用ですよぉ。」
「出さねえよ。出したらお前に殺られそうだ。」
「ふふふぅ、よくおわかりでぇ。」
歩いてくるナナシを見てニコニコと見やる。
「一緒に逃げなくても良かったんですかぁ?」
「逃げても追ってくるでしょ。」
「そうですねぇ。追いますぅ。だってこんな搾搾しがいのある方見逃す訳無いですよぉ。」
「そう言うと思ったよ。」
苦笑交じりにナナシは笑う。そのまま不意打ちとばかりに片手に隠し持った石を投げつける。
「ちょっとアプローチを変えてきましたねぇ。でもこれなら誰でも避けられますよぉ。」
首を動かすだけでナナシの投擲をマッシャーは躱す。その間に間近に迫ったナナシは突槍で突きを放つ。
「前と同じ手ですかぁ。」
「それはどうかな。」
ガキッ
「へえぇ、見えない刃ですかぁ。危うくお腹に風穴が開くところでしたぁ。」
「これなら上手くいくと思ったのになあ。」
鈍器の付け根で突きを弾かれたナナシは咄嗟に後ろに跳び距離をとる。
「やはりいいですねぇ。ナナシさん、これでこそ搾搾しがいがあります。やはり搾僕兼新搾感提供係になりませんかぁ?」
「丁重にお断りするよ。」
「残念ですねぇ。この場で終わらせてしまうのは勿体無いくらいにぃ。」
「退散してくれると嬉しいなあ。」
「それはしませんよぉ。」
「そうだと思った。」
ナナシは肩を竦める。マッシャーは変わらず笑顔で鈍器を肩にかける。
「さあいつでもどうぞぉ。」
「じゃあいくよ。」
「おーい2人はーいつまで遊んでるのー。」
いきなりの大声にナナシは思わず前のめりに転びそうになる。
「ナーギルお前やっぱ来てたのかよ。」
「当たり前だろー。」
ナーギルと呼ばれたのは小さな少女で薄桃色の洋服に金色の短髪をしている。小さい顔に悪戯好きな表情をを張り付けボーッとしてる中に危うさを感じさせる。
「お前、引きずってるのって。」
「んー、ああーこの人達ー走って向かってきたからーなんとなく引っ掴んで連れて来たー。」
ナーギルの手にはキャリルとドロが引きずられ2人共気を失っているようだ。
「ドロ、キャリル、2人に何をした!」
「何もしてないよー、ただ気絶しているだけー。あー人形は抵抗したからちょっと殴っちゃったー。」
悪戯っぽく笑いポイッとナナシの前にナーギルが何かを投げる。それは魔ペットの手だった。
「どこにやった……。魔ペットをどこにやった!」
「どこだろー道端に転がってるかなー。それにしても重たいなー。えーい。」
魔ペットの手を投げた様な気楽さでドロを投げる。慌ててナナシは手に持った突槍を投げ捨てキャッチする。
「それでしょーラビドーのやつー。」
「ああ、そうだよ。でも別に俺が追うから良かったんだけどな。」
若干不機嫌そうにラビドーは言う。
「こっちの女の子はマッシャーのー?」
「いいえぇ、違いますけどぉ。でもその方も搾搾しがいがありそうですねぇ。」
「じゃあー貰っちゃおー。」
ナーギルは片手でキャリルの首を掴み思い切り拳を振りかぶる。
「待て!」
「ナナシさんがら空きですぅ。」
「しまっ!」
バキッ
同時に出そうと思ったら思ったよりかかりました。すいません。




