2つの刃と戦闘手ほどき
遅くなりましたあ。今回は2本立てです。
死んだ。そう思った。マッシャーが目の前でブレた様に見えた瞬間もう目前で鈍器を振り下ろしていたのだ。
そのままだったら脳天から体ごと潰れると思った。だが突然誰かに突き飛ばされそうはならなかった。
「ドロ。」
「バカ!少し見ねえ間に殺されそうになってんじゃねえよ!」
ハサミを盾代わりにマッシャーの一撃を防いだドロが叫ぶ。
「くっ!きっちいな。」
「あれぇ?ドロさんでしたっけぇ?ラビドーとのゲエムとやらはいいんですかぁ?」
重いな。咄嗟にナナシを突き飛ばして受けたはいいが身体が軋む。何回も受けるのは無理だ。まだラビドーもこの会場内にいるはずだ。なのに会場内を1周してもラビドーを見つけることは出来なかった。それに加えて目の前のマッシャーも相手にしないといけない。状況は最悪と言っていい。
「ああ、夜明けまでって話だからな。まだ大丈夫さ。」
「ふふ、そうでしたかぁ。」
魔ペットのハサミ化を解除し横っ飛びに左へ跳び隠し持っていた針を投げる。魔ペットは式の開始から最後まで隠れて見張りをお願いしていた。式の間も俺にぶら下がるわけにもいかなかった。なのでいざ何かあっても迅速に防ぐため天井に張り付いていたり、壁の隙間に隠れていたり、いつも会場の端にいくのは魔ペットが丁度俺の真上にいるようにしていたからだ。
魔ペットがいないから丸腰というではない。ちゃんと両腰に2本背中に1本針を隠していた。使用するのは手遅れになってからだったが。
「面白い武器ですねぇ。まさかそのお人形さんがぁ武器になるなんてぇ。驚きですねぇ。そちらのお人形さんも搾搾してみたいですねぇ。」
俺の投げた針はいとも容易く弾かれ地面に落ちた。マッシャーはさっきから笑っているがますます笑みが深まり一種の狂気を感じさせる。
「はぁ、早いですよぉ。別にぃ取りはしませんってぇ。」
マッシャーはいきなり残念そうに笑みを少しすぼめるが今度はケラケラと笑い出した。おかしくなったのか?
「ああ、悪いな。ドロ、マッシャーは元々おかしいが今回は違うぜ。」
とラビドーはすっとマッシャーの隣に立つ。
「ラビドー……。」
「マッシャー、お前抜け駆けするなよ。ゲームが台無しだ。」
ラビドーはマッシャーに呆れ声で言う。
「ごめんなさい。どうしても我慢できなくなってしまってぇ。」
「その癖なんとかならないのか、まあいいけどよ。お前はそっちのお楽しみで遊んでてくれ、すぐ終わらせっから。」
「えぇぇ!私も搾搾したいですぅ!」
「はあ?お前がやると後が見られない惨状になるから駄目だ。俺が綺麗にかたす。」
「何言ってんだ?お前ら。」
「お前の後ろにいる後始末だよ。」
後始末?後ろ?そこにはまだ会場の人達が出口目掛けて殺到しているところだ。
「やらせるわけねえだろ。」
「そうだろうな。でも始まってるんだぜ?自分の腕見てみろよ。」
「っ!痛え!」
俺の左腕には柄まで深く刺さったナイフが飛び出していた。痛みといつ刺さったかの混乱で頭が回らない。どくどくと血が流れ黒い服が更にどす黒い色に染まっていく。
「痛えだろ?いつ刺したかも分からねえだろ?後ろの奴らもいつ死んだか分からないくらいに楽に逝かせるからよ。安心しろ。」
ラビドーはニッカリと笑い片手には俺に突き刺さっているものと同じナイフを回している。
後ろにはまだ出口に殺到している人達で溢れかえっている。全員が出るまでには時間がかかりそうだ。
一番後ろにはなんとキャリルとカルフェがいる。お前らが一番逃げなきゃいけないんじゃないのか?
そう思ったがキャリルとカルフェは後ろにいる人達から混乱を少しでも小さくするため声をかけ落ち着かせている。2人の顔は後ろに襲撃者がいるにも関わらず落ち着いた笑顔で声をかけられた人々は落ち着きを取り戻し混乱は徐々に収まっていっていた。これなら思っていたより早く避難が完了しそうだ。
こちらを振り返り俺とナナシをキャリルは見て何かを言おうとして口を開く。それに応じるかのようにナナシがピースする。俺もそれにならいキャリルに向かってピースした。
それを見てキャリルはホッとした表情をし未だ混乱している人達に声をかけに戻った。
「ナナシさん。随分余裕ですねぇ。」
「こうでもしないと心配させちゃうからね。」
「いいですねぇ。その感じ、とても好ましく感じますぅ。」
「妬けるなあ、ドロ。お前もう左腕使いもんにならないだろ。」
「ああ、それでもやってやるさ。」
「はは、そうこなくっちゃな!」
互いに互いが睨み合う。片側は笑い片側は真剣そのものだ。
「いくぜ!」
「こいよ!」
ドロとラビドーは戦闘を開始した。
「始まりましたねぇ。さて、私達も始めますかぁ。ナナシさん、さっきのような体たらくはよしてくださいねぇ。」
「そうはならないよ。思い出したから。」
「何をですかぁ?楽しみですねぇ。」
ナナシは左腕を横に振る。するとナナシの手には銀色の突槍が握られていた。
「さっきもそれ出せばよかったんじゃあぁありませんかぁ?」
「今、思い出したんだ。」
「?へえぇ、そうですかぁ。」
「いくよ。」
ナナシはそこまで言うとマッシャーに奇襲をかける。卑怯だなんだと言える者はある程度力のある者の言い分だ。ナナシはそこまでの技術も力もない。だからこそ話している間の隙をつく奇襲を仕掛けた。
だが
「いいですねぇ、ナナシさん先程とは比べられない程成長しましたよぉ。でもぉそれは実力の拮抗した人にしかききませぇん。経験のある者ならそれくらい簡単に躱されてしまいますぅ。」
ナナシにレクチャーしつつひらりとマッシャーは躱す。
「それにぃ前傾姿勢の突進って避けられた後の隙が大きいのでやめた方が賢明ですよぉ。」
マッシャーは鈍器を肩に担いだまま軽くナナシの脇腹を蹴る。
「っはぁ。」
ナナシは少し吹き飛び地面で悶絶する。
「まだ早いですよぉ。」
マッシャーはもう一度軽くナナシを蹴る。
「っうえ。」
ナナシは飛びかけた意識を強引に引き寄せられる。
「戦闘中に気絶は死ですよぉ。その間に何が起きても後悔にしかなりませんしねぇ。戦いで死なないことは当たり前ですぅ。あなたにはぁ自分の死よりも重いものがあるんじゃないんですかぁ?後悔はしたくないでしょおぅ?」
「当たり前だよ!」
ナナシは立ち上がり様に突きを放つがそれも躱される。
「遅いですぅ。今ので私はナナシさんを殺せちゃいますよぉ。」
「まだまだぁ。」
ナナシは次々に突きを放ちからめ手で足払いや体の部位を戦闘に使う術を徐々に身に着けていく。
「いいですぅ。飲み込みが早くて賞賛に値しますねぇ。」
繰り出される突と拳蹴をヒラヒラとマッシャーは躱し軽く攻撃を加えるがナナシもギリギリのところで避けている。
「どうして戦闘の手ほどきをしてくれるの?」
「気まぐれとぉ最高に良いものを搾搾したいですからねぇ。ただそれだけですぅ。」
「そんなことしてて返り討ちにあったことは無いの?」
ナナシは戦闘中に会話が出来る程上達していた。だが相変わらずナナシの攻撃はマッシャーには掠りもしない。
「ありませんよぉ。ナナシさんのようにぃ戦闘中にこれ程までの成長をするのは異常なんですよぉ。大抵は戦闘時がその人の能力ですからねぇ。戦闘時に成長は稀ですよぉ。」
「そうなんだ。でもマッシャーは全然本気じゃないよね?」
「そんなことしたらぁすぐに終わってしまうじゃぁ無いですかぁ。そんなつまらないことはしませんよぉ。」
とクスクスとマッシャーは笑う。
「そっか。」
「ナナシさんがぁここで死ななければいつか本気が出せるかもしれませんねぇ。」
「本当に?」
「えぇ、ここで死ななければ、ですがぁ。」
「絶対死なないし、誰も死なせないよ。」
「じゃあぁやってみてくださいぃ。右が隙だらけですよぉ。」
風を切る音と何か固いものがぶつかった音が辺りに響いた。




