舞搾混乱
良い夫婦の日ですね。お話には全く関係ありませんが。
ここまで上手くいっていた式をぶち壊す内容を持ちかけてきたラビドーに苛立ちを隠せない。ついでってなんだ?他にも何かやるのか?駄目だ、何も浮かばない。まずはナナシとキャリルを探さないと。いや、ナナシには接触しない方が良いのか?考えがまとまらない。奥の手はあるがこれを使うともしもの非常事態に守る手段が無くなる。まずは自力でこのホール内を探すしかない。
「って言ってもこの量の人から1人を探せってか。随分と嫌なことをしてくれるな。」
踊りの輪からさっさと抜けたのはいいが大勢の人が輪の中に入り混じり回るので目星をつけようにもつけるまえに人が移動するのでどうすることも出来ない。
「1人で探すには難しすぎやしないか?」
早速折れそうになるがまずはとにかく探しまわるしかない。
「やってやるか。」
結局片っ端から走って探した方が良さそうだ。溜息と共に俺は早歩きで会場内を見て回ることにした。
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「あれ、どこに行ったんだろ?」
踊りに誘ってくれた少女はペア替えの大きな輪の踊りが始まると見失ってしまった。あの輪の中にいたとしても自分は踊れるわけではないので入ることは出来ない。眺めていても仕方ないのでドロのところに戻ろうと踊りの輪から離れて歩こうとしたその時、
「ナナシさん。また会いましたねぇ。」
その声を聞いて思わず飛び上がる。まさかここで?なぜ?振り返ると数日前と変わらない紫色のドレスに見を包んだ少女がにこっと笑っている。
「マッシャー……なんでここに?」
「ひどいですねぇ。私がここにいてはぁ駄目なんですかぁ?」
まったりとした口調でマッシャーは口を尖らせる。
「駄目ではないけど……なんでいるの?」
「それは秘密ですよぉ。もっとも私の目的はあなたに会うことでしたからぁ達成したも同然なんですけどねぇ。」
マッシャーは隠していても別に意味は無いというように肩を竦める。
「ここに来ればぁあなた方はいるでしょうしねぇ。」
「あなた方って……まさか!」
「えぇ。もう1人の方にはラビドーが行っていますよぉ。なんだかゲエムをやるとかなんとか言っていましたねぇ。私にはぁ関係ありませんがねぇ。」
クスクスと笑いマッシャーは目を細める。
「さて、では踊りましょうかぁ。」
「踊る?うわっ!」
マッシャーがナナシの手を引き踊りの輪に突っ込む。慌ててナナシは出ようとするが、踊りの輪は外側から見ると1つの輪に見えるが内側にもう1つ輪があり丁度ナナシはその中に入っていた。
回りを見渡している間にまた手を引かれそのまま踊りの輪の中に取り込まれた。
「そんなすぐに出ようとしなくても良いじゃないですかぁ。ナナシさん、男性は踊れる方がかっこいいですよぉ。」
「いや僕踊ったこと無いし。」
「嗜みですよぉ。こういうのはぁ。」
そう言われ返す言葉もない。結局そのまま踊ることになった。最初に踊った少女に比べるとマッシャーは僕と同じくらいの背丈で踊りやすい。少女の場合たまに動きがぎこちなくなる時があったがそんなこともなく滑らかだ。リードされているとはいえ僕が踊っているのがなんだか小気味よい。
「面白いと思ってますよねぇ?」
「えと…う、うん。」
「ふふ、良いですねぇ。そうやって新しいことに出会うのはぁ素晴らしいことですよぉ。」
と恍惚の表情をしているので僕が考えていることとは絶対に違うのは確かだ。
「ああ!ナナシさんがぁそんな顔してるからぁ私も新しい新搾感を体感したくなってきましたぁ!」
うっとりした表情で恐ろしいことを言ってくる。
「ここではやめてほしいな。今この場所は式の最中なんだ。」
僕は緊張を隠せないままに言う。マッシャーがその気になれば僕が止めるなど到底不可能だ。
「ここにいる方々を巻き込みたくないんですねぇ。別に良くありませんかぁ?だって知らない人達でしょおぅ?」
「知らなくても知ってても誰かが目の前で傷つくのは嫌だよ。」
「そうですかぁ。ナナシさんはぁお人好しですねぇ。目につくものを救っていて本当に大切なものを救えなかったらあなたはぁどうするんでしょうかぁ?楽しみですねぇ。」
小さくマッシャーは笑う。
「僕に救うなんてだいそれた力はないよ。ただ未然に防げることなら防ぎたいってだけ。」
「ご立派ですねぇ。では私がぁこうやって!いきなり襲いかかったらどうしますかぁ!」
曲の変わり目でマッシャーは僕の手を離す。するとどこからともなくジャガイモを潰していた鈍器を取り出し僕に向けて振りかぶった。咄嗟に避けた僕のいた地面は砕け飛び散った破片が踊っている人達に飛び散る。
「何してるんだ!」
「言ったじゃあありませんかぁ!襲いかかったらどうしますかぁってぇ。あなたは避けただけですけどねぇ。」
マッシャーは地面を砕いた鈍器を肩にかける。
その鈍器の見た目は、彼女の名前、マッシャーの名の通りマッシャーだった。
だが見覚えのある形状ではなく先端や潰す部分には棘のような突起があり潰しながら更に外傷を負わせる代物になっている。
破片を浴びた人達は倒れ動かない。慌てて他の破片を浴びていない人達が動けない人達を僕達から離す。
舞踏会の会場は一種のパニック状態に陥っている。ドロとキャリルは無事だろうか?目の前のマッシャーはパニックになった会場の人達を見ると一層ニッコリと笑い楽しそうだ。
「何が楽しいの?」
「楽しいですよぉ。あなたには理解できないでしょうけどねぇ。」
「うん、したくもないよ。」
「分かっていても残念ですねぇ。この素晴らしさがわからないなんてぇ。」
そう言ってマッシャーは首を横に振る。僕は武器になるものを一切身に着けていない。このままだと僕にこようがパニックの人達に行こうが何も出来ず指をくわえて見ているか潰されるかのどっちかだ。
丁度落ちている地面の破片を見つけ拾い上げる。今はこれでどうにかしないと。
「本当に面白い人ですねぇ。そんな瓦礫の破片で戦うんですかぁ?」
「これしかないからね。」
僕は皮肉混じりに笑う。
「その心意気はぁ買いますがぁ、甘く見られているようでぇ気に入りませんねぇ。」
マッシャーは鈍器を持ち直すとゆっくりと歩み寄る。
「どこからでもどうぞぉ。」
「お言葉に甘えて。」
ニコリと笑うマッシャーに向けて思い切り破片を投げつける。マッシャーは最小限の動きで避けると、もう目前で鈍器を振り下ろす体勢になっていた。
「相手から目を離してはぁいけませんよぉ。瞬きも命取りですぅ。こんなふうにねぇ。」
ガッ!




