城に侵入
ナナシは立ち上がると踵を返し教会の出口へ向かう。
「ナナシ。」
「………。」
ナナシは返事をせず歩いて行く。
「ナナシ、おいナナシ。」
「ごめんドロ、キャリル。僕は探し物があるから2人で国を見てて。後で合流するから。」
そう言い残すとスタスタと歩き去ってしまった。
残された俺達はこのまま教会にいるわけにも行かず一先ず外に出ることにした。
「さて、じゃあ見て回るか。どうする?城にでも忍び込むか?」
俺はクイッと後ろに見える城を指す。なんだかんだキャリルの目的の城が真後ろにある。
「忍び込めるの?」
「警備が少なければな。行ってみるか?」
俺はキャリルが行くと言うなら行くし行かないと言うのなら行かないと決めている。
キャリルは少し考えた後頷く。
決定だ。ーーーーーーーーーーーーーー
さて城の側面までは来た。
警備の者はナナシが言っていたジャガイモ狩りを探しているのか姿が見えない。
ジャガイモ狩りーーこの名前なんとかならないのだろうか?
この国では深刻なのは重々承知なのだがどうしても気が抜ける。
そんなことは置いといて。今は城に忍びこむことを考えなければ。
城は建物5階建てくらいで案外小さい。屋根は薄いオレンジで城を形作る敷き詰められたレンガは
土色をしており華やかさに欠ける。
城の前門から堂々と入るのは論外としてどう入るか。針に糸を通し窓のある所に引っ掛けて登るのが一番手っ取り早いのだが。
この城本当に人がいるのか疑問だ。余り気配もしないし動く音も聞こえない。
どうしたものか……。
「ねえ、ドロどうするの?」
「んあ?ああ、ちょっと考え事。」
?
微かに何か聞こえる。話し声か?丁度城の中心が吹き抜けになってるようだ。
「キャリル、城の中に誰かいるみたいだ。ちょっと見てみようぜ。」
キャリルはどうして分かるの?といった顔でポカンとしている。
城の周りを警備がいないか細心の注意を払い見て回る。
丁度城の裏側に大きな開き窓があるので折角だからそこから忍び込むことにした。
魔ペットに針を頼み窓に小さな穴を開ける。その作業を何回か繰り返し円形に割る。
後は中に手を入れて窓の鍵を開けた。
「すごい!開いた!」
キャリルは大はしゃぎしている。静かにと人差し指でジェスチャーするとキャリルは慌てて口を抑える。
さて簡単に侵入は出来た。侵入した場所はどうやら倉庫のようで大きな木箱がそこかしこに積まれている。隠れるにはうってつけの場所だ。いっそのことここで寝泊まりしてしまおうか。案外俺だけだったらバレなさそうだ。
木箱の間を歩き出口の扉に手を掛ける。音はしない。よし。俺は扉をゆっくり開く。誰もいない。
「来ていいぞ。」
俺は小声でキャリルを呼ぶ。音はしないので人がいる心配は無さそうだ。代わりにさっきより声が近くに聞こえる。案外ここから直通で行けそうだ。
倉庫を出ると目の前に扉がある。どうやら他にも倉庫があるらしい。開いてみると今侵入してきた部屋と変わらない倉庫だ。
「ドロこっちは?」
小声でキャリルが指差す。丁度倉庫の部屋は向かい合わせになっており倉庫と倉庫を繋ぐ廊下の真ん中にある扉が城の内部に入れそうだ。
キャリルが指差す扉に手を掛ける。どうやらこの先のようだ。静かに人1人通れるだけ扉を開き滑るように外に出る。
キャリルも俺の見様見真似で外に出る。俺はキャリルが出てきたのを確認するとそっと扉を閉めた。
(外側は華やかさなんて全く無かったけど中は王宮って感じだな。)
内部は廊下から吹き抜けの庭を見られる様に造られており廊下は明るい。下には赤いカーペットが敷かれ正に王宮といったところだ。
吹き抜けにやはり人がいるようだ。2人か?話してるようだ。俺は腰を屈めゆっくり声のする方へ歩く。
声が鮮明に聞き取れるところまで来ると目だけを吹き抜けに向ける。
そこには壮年の男性とまだ年若い青年が話している。
勿論ジャガイモではない。普通の男性だ。せいぜい肌が土色ってくらいか。
すごい具合が悪そうな顔色をしているが決して具合が悪い訳ではない。
種族的なものだろう。
でも一体どうなってるんだ?キャリルと言いここのジャガイモといい。なぜ人の形をとる者ととらない、
あるいはとれない者がいるのだろう?
これが終わったら絶対キャリルに聞いてみようと心に決める。
吹き抜けにバレない様に入り顔が見えるくらいまで近くに寄り木陰に隠れる。どうやら余りいい雰囲気ではない。
壮年の男はクリーム色をした短い髪に深く皺が刻まれた顔をしている。只者じゃないオーラと風格が漂いこの国の重要な人物なのだろう。
そして青年はというと、こちらも壮年の男と同じクリーム色の頭髪、ウエーブのかかったセミロングで端正な顔をしている。
「だから私は嫌なんです!!父上!!あの王国との結婚は!!」
「ならん!!これもこの国のためだ!!お前があの国の王女と結婚すればこの国も安泰になる。だからこの結婚を取りやめにすることなど出来ん。」
「私は心から好きになった人と結ばれたいのです!!父上!!どうか!どうかお願いします。私は嫌なのです。」
「息子よ。許せ、これはこの国の為なのだ。今はジャガイモ狩りと言われる輩もいる。早く国民達を安心させてやりたいのだ。だからこの結婚を取りやめることは出来ん。後3日だ。それまでに準備をするのだぞ。」
「そんな………。」
青年は項垂れ吹き抜けの噴水に座り込む。
なんとまあ、なんか聞いたことのある話がちらほら。あれ?もしかしてさっきの人とこの人って……。
「あの大丈夫ですか?」
(何やってんだ!!忍び込んできてるのに!!話しかけたら捕まるだろうが!!)
青年は少女の声で顔を上げると目の前には見たことのない少女が立っていた。髪はオレンジ、快活そうな少女だ。何処から来たのだろう?
「見かけない者だな?何処から来たのだ?」
「へっ?あーその道に迷ってしまって。」
(はあ、キャリルの奴声掛けたはいいけどその後のこと全く考えてなかったな。)
俺は小さく木陰で溜息をつく。
「そうか……。あの扉を出れば直ぐ正門がある。そこから出ると良い。」
と青年は扉を指指す。そう言うとまた青年は俯く。
「良ければお話お聞きしましょうか?」
「?まあいいだろう。どうせ誰に言っても変わらぬ事であるしな。
実は私は後3日で結婚しなくてはならなくてな。だが全くその相手を知らぬのだ。
私は生涯を共にしたいと思う者を嫁に貰いたかった。だがどうやらそれは叶う事は無さそうだ。
正直怖いのだ。知らぬ相手と結婚をし果たして上手くいくのか。
国民の前では仲良くし王宮での生活では互いに無関心。そんな事は嫌なのだ。私はあちらの国とも仲良くしたい。だがそれは結婚をしてでは無く別の方法で仲良くなりたい。」
キャリルは静かに青年の話を聞いている。その顔は慈しみに満ちている。
これは良いことだ。俺は思わずニヤリとする。これで2組めか?
青年は話をやめることなく続けて今までの事を話す。キャリルは話すのが好きな少女であるが静かに頷き青年の話を聞いている。
青年は今までの不満やこれからの不安、全てを曝け出し話している。
キャリルは思った。ああ、この人は優しいな。結婚から逃げる事も出来るのにそれをしない。
なぜ?
国民がいるから。
青年は結局この国を国民を好きなのだ。だからこの結婚も本当は嫌だがしようとしている。
一通り話したのか青年はスッキリした顔をしている。
「ありがとう、話を聞いてくれて。私の名前はカルフェ。そなたは何と言う名前だ。」
「えっえっとー。」
彼女は迷う。自分があなたの妻になる者だと言うか言うまいか。だがその迷いは青年の言葉で消える事になる。
「そなたが我が妻になってくれれば良いのだがな。」
「!!!!!!!!!。」
そんな事言われたら言えないじゃない!!キャリルは内心叫ぶ。
「それで?そなたの名前を教えてはくれないか?」
キャリルは顔の火照りを気づかれないように冷まし無邪気に笑うと
「秘密!!」
そう言って木陰に駆け出す。そこにはドロがいる。
木陰から引っ張りだしそのまま出口に駆け出す。そして城から脱出した。
吹き抜けにポーッとしている青年が1人。先刻の少女を思い出していた。慈しみに満ちた表情、無邪気に笑うとても可愛らしい少女。
青年は幸か不幸か3日後に結婚する少女に恋をした。それは間違いなく幸であり彼の頭は少女の無邪気な笑顔でいっぱいなのであった。




