焚き火を囲んで
なんとまあ便利な薬だ。激痛に数分悶えるし、なんだかどっと疲れるし動悸が早くなるが間違いなく今まで使った薬の中で一番効いた薬だ。服をめくって背中を見るが背中の傷も消えている。
俺は立ち上がると痛みはないか周辺を動き回る。痛くない。
「凄え薬だな、完全に治ったぞ。」
ぴょんぴょん跳ねてみるが異常なし。
「傷も治ったことだし早速向かうか、カルートッフェッリ王国に。」
「本当にもう痛くないの?」
キャリルは俺の傷口をじっと見る。
「大丈夫だよ。この通り動き回っても痛くない。」
「そう言って無理しないでね。また担ぐの僕なんだから。」
「大丈夫だって。」
キャリルは俺とナナシがそんなやりとりをしていると訝しげに俺とナナシを交互に見る。
「キャリルどうした?」
「その2人の服についてる赤いの何?」
「赤いの?」
俺とナナシが互いに服を見やる。やってしまった。
「服に血がついたままだ。ナナシ、何か国で言われなかったか?」
「いや別に言われなかったよ?」
何で何も言われない?
俺は全身に自分の血がつき今は乾いて黒ずんでいる。ナナシも腹部あたりからズボンにかけて黒ずんだ血がべっとりとついている。
「ねえ、そのチって何?」
「チ?血は血だよ。」
「え?」
キャリルはきょとんとする。俺とキャリルは話が通じない。
「もしかして血液の血ってのが分からないんじゃない?野菜に赤い血って聞いたこと無いし。」
ナナシが助け舟を出す。
「ああ、そういうことか。なんて説明すればいいんだ?」
「命に関わるもの?って言えばいいかなあ?」
ナナシは思案げに話す。
「こんなに命に関わるものが服についてるけど大丈夫なの?」
「まあ一応は。キャリルはニンジン族?でいいのか?」
「うん、そうだよ。私はニンジン族。私達ニンジン族は怪我をしてもそのチって言うのは出ないよ。」
まんま人の姿をしているので見分けがつかない。
振る舞いも快活な女の子といった感じでこの子をニンジン族とは誰も思わないだろう。
だが何故ジャガイモの国にはジャガイモ族の人の姿をしているジャガイモがいなかった?
ただナナシの話を聞いただけに過ぎないが、ナナシの話では人はいなさそうだ。
それなのにニンジン族は人の姿をしている。ただ単に王族の女の子だから?
それとも何か他に関係がある?
このことはまだキャリルには聞かない方がいいかも知れない。
今から向かうカルートッフェッリ王国に向かってからでも遅くはない。
俺は疑問を頭の片隅にやり3人にそろそろ向かう旨を伝えようと口を開くが、
いつの間にか近くに来ていた魔ペットが俺のズボンの裾を引く。
「どうした魔ペット?」
「ご主人様、空をご覧クダサイ。」
「空?」
俺は生い茂る木々の合間から覗く空を見る。
だが先程までの青空とは打って変わって今度は綺麗なオレンジ色に染まっている。
「そろそろ夜か。早いな。今から向かうのはやめといた方がいいか。」
「ハイ。何が起きるか分かりませんので万が一の為にもそのほうがイイカト。」
夜は危険だ。いくらナナシが付けた印があるにしたって夜の森を歩くのは疲れるし足下が見づらい。
俺は今日中に向かうのを諦め明日の朝にしようと2人に言う。ナナシは何で?という感じだがキャリルは空を見て納得したようだ。
ナナシの場合は夜という概念がそもそもギアシュタットには無いので仕方ない。
丁度いる場所は森の中でも開けた場所なのでこの場で野宿をする事になった。
「キャリルは今までどんな生活してたんだ?」
一通りの野宿の準備を終え焚き火を囲む。ここからは思い出話だ。
「私?私はお城で窮屈な暮らしかな。お父様もお母様も優しかったけれど外には中々出してもらえなくて。なんとか外に出ようと色々試しては執事やメイドさんによく怒られたなあ。
でもお父様とお母様が心配しないよう私が外に出ようとしているのを秘密にしていてくれて。
本当に私は幸せ者だって思う。
今ここにいる時点で執事やメイドさん、お父様、お母様には心配かけてるけど、
どうしても見たかったんだ。」
執事やメイドさん苦労したんだろうなあと内心思う。
だが何故このタイミングでここまで抜け出して来たんだ?
俺が何を考えている事をお見通しのようにキャリルが俺の疑問を解いた。
「私、後4日でお城離れちゃうの。お嫁にいくんだ、カルートッフェッリ王国の第一王子のカルフェって人と。」
「そういうことか。だからカルートッフェッリ王国に行きたいのか。カルフェって奴がどんな奴か気になるから。」
「それもあるけど!!実際に国を見たいのは本当だよ。それに相手も本当に望んでいるのか気になるし。」
「あー、じゃああわよくばこの結婚自体ぶち壊そうと、そんな感じ?」
とナナシ。
「そこまでは言わないけど。
でももし他に仲良くできる方法があるなら私とカルフェって人が結婚して表向きだけ仲が良いんじゃなくてちゃんと友好的になりたいの。
手と手を取り合うように。互いの国が助け合えるように、私は自分の国とカルートッフェッリ王国を仲良くしたい。」
キャリルは真っ直ぐ炎を見つめ宣言する。その目には焚き火の炎と彼女自身の意志の強さを宿していた。
「それで、私の身の上は話したよ。3人の話を聞かせてよ。」
俺とナナシ、魔ペットは顔を見合わせる。
「どうする?ナナシ、話すか?」
「僕は後ででいいよ。どちらかというとドロの話聞きたいなあ。」
ナナシは横目で俺を見て「話して」と目でうったえて来る。
「大した話は出来ないぞ。」
「身の上話なんだから大した話をしなくても別に大丈夫さ。」
さあ、とナナシが俺に話すよう急かす。
「分かったよ。じゃあ俺の話な。」
俺は渋々話すことにした。話す前に深呼吸を一つ。そして俺はゆっくりと話しだした。
次回はドロの過去話を書きたいと思います。




