自己紹介
なんかすごい。いや、すごい。視界に入るもの全部緑。眼前に広がる光景は深緑一色で一切の色は存在しない。本で見た色よりも深く鮮やかで生き生きとしている。ギアシュタットでは錆色ばかりでこんなに色鮮やかな緑は見たことが無かった。僕はほうっと感嘆の吐息を吐くと肩にかかる重みに初めて気づく。肩を貸しているドロボウは青ざめぐったりとしている。今にも吐きそうだ。
「大丈夫?」
ドロボウに声をかけるがポツリとドロボウは一言。
「座らせてくれ……。」
木に背中を預けられるようドロボウを座らせる。ドロボウは深く息を吸い吐いた。
「ここどこだろう!?」
今まで見たことの無い世界に来た興奮で鼻息荒く聞く。
「さあな。」
短く気だるげにドロボウは返す。
「…まあ地面に埋まる事が無くて良かったよ。」
はあ、とドロボウは付け足す。と同時にドロボウは何かに気づいたように目を見開く。
「どうしたの?なんか珍しい物でもあった?」
ドロボウはこっちを見たまま口をパクパクしている。
「ほんとにどうしたの?」
「お前連れて来ちゃった。完全に忘れてた!!」
「「………」」
「今更?」「今更でございマスカ?」
僕と魔ペットがハモる。
「いやおかしいだろ!?つうかお前は良かったのかよ。あの街出て。」
「別にねえ。」
「エエ。」
「おい、何そこで意気投合してんだ。お前帰れなくなるかもしれないんだぞ?いいのか?」
ドロボウは真剣な顔で問いかける。
「もう遅いよ。今から帰るって言ったってここが何処で、ギアシュタットとはどの方角で、どれくらい遠いのか全く分からないじゃん。」
「全く何を言っているのデスカ。ご主人様は。」
呆れたように魔ペットは肩をすくめる。
「僕がいなかったらどうやってさっき逃げたの?体動かせない状態で。」
「うぐっ。」
「肩貸して上げなかったら立ち上がれもしなかったけど。どうやって逃げようと思ったのかな?」
「うっ。分かったよ。感謝してる。」
ドロボウは降参といったように手を挙げた。
「色々と聞きたいけどまずはここが何処か調べないとね。」
僕は辺りを見て目ぼしい物を探しながら言う。さっきまでは感動していたが鬱蒼と茂る木々があるだけで目印となるような建物も、ここが何処か分かるような物も見当たらない。後は風に揺れる木々の音と遠くでさえずる鳥の声が聞こえるだけだ。
「まあ、これからよろしく。」
とドロボウは手をこちらに伸ばす。
「うん、よろしく。」
僕はその手を握る前にふと聞いていないことに気づいた。
「そういえばドロボウの名前聞いて無かったね。教えてよ。」
そう聞くとドロボウはそういえばといった体で名乗った。
「ああ、名乗って無かったな。俺はドロ。ドロって呼んでくれt。」
「ドロ。なんかドロボウでドロってドロドロって略せるね。」
「略すな。お前は名前?前は無かったけど、今はどうなんだ?」
「うーんまだ無いかな。だけど昔呼ばれてた名前があった気がするんだ。なんとなくだけどね。」
ぽりぽりと頬をかき話す。
「ふーん、そっか。」
「だから思い出すまでの間の名前をどうしようかな。」
「じゃあ、名前が無いからナナシでいいんじゃないか?」
「うわー安直。まあ代わりの名前だしいいかな。僕は自分の名前を思い出すまでナナシって名乗るよ。」
「おう。」
「それじゃあ今度こそよろしく!ドロ!」
「こちらこそよろしくな!ナナシ!」
こうして僕らは固く手を握った。手を握る僕らを見てニンマリと、魔ペットは笑った。




