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ドロボウは夢叶える為世界を旅する(過去編)  作者: フロッグ
1幕 歯車の街
31/83

決着と透明な粒

双方の双剣が火花を散らす。両者一歩も退かず剣撃が交わる。ドロボウは腹部の負傷を感じさせない動きでナカミと剣撃を交える。食らってしまえば致死の一撃、それを躱し、受け流し、反撃をする、一連の動作を交わす中、彼女『ナカミ』は感じていた。


さっきよりも強くなっていると。


交える剣の冴え、速度、攻撃に転じる動きの無駄の無さ、それらがこの戦闘の中でドロボウは成長している。

彼女はこの戦いの中で初めて焦りを感じていた。


「くっ。」


焦る気持ちが先立って受け流すはずの攻撃を受け止め、声が漏れる。


受け止めたハサミの片刃とは別の片刃が首へと伸びる。それを透剣で受け流し距離をとる。

距離をとった束の間、間合いを縮めようと猛然と距離を詰めるドロボウは片方のハサミをナカミへ投げる。


私もここでは終われない。愛しい人、あなたは私の大切な人。ここで負けるわけにはいかない。

たとえ、あなたと二度と会うことが叶わなくなっても。


飛んでくるハサミを躱し片手のみになったドロボウに突進する。


これで、決める!


と突進を実行した瞬間、ドロボウはニヤリと笑った。


「しまっ!」


「悪いな。」


ドロボウは空いた手で糸を引く。投げられたハサミの片刃はドロボウに向かって飛んで行き、その道中を突進している彼女を切り裂いた。


切り裂いたハサミはそのまま飛んでいきドロボウは何事もなくキャッチした。


「う……ああ…。」


透剣は消え槍剣はただの打突武器へと戻る。


「ナカミ!」


私の名前を呼んで駆け寄って来る人がいる。


「ナカミ、ナカミ!大丈夫?」


地面に顔を埋める私を抱き起こし、心配そうな顔で覗き込む少年の顔が目に映る。

ああ、愛しい人。なんて愛しいんだろう。声も瞳も表情も、全てが愛しくてたまらない。

彼の顔に手を伸ばす。彼はそっと手を掴むと私の手を頬に寄せる。


「ご…めん…ね。」


「いいよ。別にいい!もう喋っちゃ駄目だよ。」


そこで彼は気づく。彼女の体から血が出ていないことに。


「あれ…?ナカミ?傷は…?」


「私に…血は…流れてない。」


「じゃ、じゃあ、平気なんだね!」


私は首を振り


「体が…維持出来ない。だから…もう…長く…ない。」


彼は驚愕の表情を浮かべるとポロポロと泣き出す。ああその表情も愛しい。そんな事を言っては彼に怒られてしまうか。心の中で苦笑する。


「どうして?なんでドロボウと戦ったの?」


「あなたが…ここから…いなく…なってしまうから。」


「どこにも行かないよ!ナカミがいるんだったらどこにも行かない!」


「あり…が…とう。」


「生きてよ!お願い!ナカミ以外何も要らないから!」


感涙してしまいそう。こんなにも彼に思われていたなんて。


「少し…お話…しよう?」


私は呼吸を整えるとそう切り出す。


「え?う、うん、いいよ。」


きょとんと彼はするけど承諾してくれた。


「あり…がとう。夢って…あるの?」


「夢?今のところないよ。あ、でもナカミとどこか行きたい。」


「それって…夢…なの?」


私がクスッと笑うと彼は少しムッとして


「夢だよ!立派な!」


と返す。私はなんだかそれが可笑しくてつい笑ってしまう。ああ…なんて楽しいんだろう?愛しい人といるとお話するだけでも楽しい。体を貫く激痛も気にならない。

 

いつまでも、続けばいいのに。


「そ、そんなに可笑しい?笑ってくれるならいいけど。」


「ううん…とっとも…素敵。」


彼はぱあっと表情を輝かせると「ほんとに!?」と聞いてくる。


私は頷きを返し微笑む。


沈黙。彼を見つめる。彼は見つめ返してくる。


そろそろ時間…かな。


「我が身愛しき


 徒然の

 

 刻経ち愛しき者


 わするるは


 無力な我が身の


 悔しきこと



 我が身愛しき


 徒然の


 出逢い別れて


 想いいづるは


 神のいたずら


 無き心


 張り裂ける



 我がわするる


 おもひでの


 恋しきこと


 この上なし


 おもいおもいて


 思いても


 わするる記憶


 帰らず


 溢るる情涙


 とめどなく



 我が本望遂げるるは


 かの愛しき者の中


 いづること


 逢えず話せずかの顔見ること叶わぬが


 愛しき者の中


 生き続けること喜びなり



 愛しき者の中入り


 満たし満たされること


 願うばかり


 我が身 愛しき者


 創造せし者思うは何か


 我が身愛しき者の中溶けゆくが


 唯一心残創造者


「なあに?その歌?」


「昔に…教えて…貰ったの。これだけは…覚えてた。」


「良い歌だね。」


「昔だから…こんな…感じ…だった…と思って…歌って…みた。」


「そうなんだ。とってもいいよ。気に入ったよ。」


「良かった…。」


彼は寂しそうな表情で私を見る。彼も気づいているのだろう。


「そろ…そろ…さよ…なら…しなきゃ。」


「やっぱり、駄目なの?」


「うん。でも…安心…して…私は…あなたの…中に入るから。いつでも…あなたと…一緒。」


「嫌だよ。ナカミ…行かないで。」


「私は…どこにも…行かない。あなたの…中に…いる。」


彼はまた泣き出し私の頬に涙が落ちる。


「お願い…聞いてくれる?」


「うん、うん、いいよ、何でも言って。」


「また名前を…呼んでくれる?」


「ナカミ。」


段々消えかかっているナカミを強く抱きしめ名前を呼ぶ。


「もう1回。」


「ナカミ。」


ナカミの体は透明な粒に姿を変えていく。


「あり…がとう。」


「ナカミ…ナカミ。」


彼女は目から涙をこぼし微笑む。


そして彼女は透明な粒になり僕の中に入っていった。





ごめんね、ありがとう、さよなら…ーーー。


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