透明 VS ドロボウ
2人が互いを見つめる中1人と1匹は疎外感を覚えていた。
「うわー、あの中にずかずか行くのは気が引けるな。」
完全に2人の世界に入っている。それを遠目で見ながら溜め息を1つ。
「どうする魔ペット。あそこに割って入る勇気がねえよ。つかあいつ完全に俺達の存在忘れてるだろ。」
さっきまで話していたのに急にいないような扱いをされるのは寂しい。
「行きマショウ。ご主人様。」
魔ペットは真っ直ぐに2人の元へ歩いていく。おお、魔ペットよ。いつの間にか主張するようになったな。嬉しいのやら寂しいのやら。主従全く逆の動きで2人の元へ。
ずっと見つめ合ってどれくらい経っただろう。時間を忘れ見つめ合う。僕の頬を抑える手、吸い込まれてしまいそうな瞳、そのどちらも心地良い。
このままいつまでもナカミと一緒にいたい。
こうして体温を感じていたい。
できることなら一緒に微睡んでいたい。
話したいもっともっと色々な事を。
何をするでもなくただ一緒にいたい。
いっぱい思い出を作りたい。
僕もナカミの頬に手を伸ばす。頬に触れるとひんやりと冷たい中にあったかさを感じる。更に不思議な触り心地なのでプニプニと遊ぶ。だんだんナカミがムスッとしてきたので遊ぶのをやめる。
「ご、ごめん。つい触り心地が不思議で。」
「別にいい。」
ナカミはふいと顔を背ける。
可愛いなあと内心思いながら彼女を見る。
ふとナカミは何かに気づいたのか僕の両頬から手を離し僕を後ろに下がらせる。
ナカミが見る先は僕の来た方向。その方角から足音が聞こえる。ナカミはこの足音に気づいたのだ。
………………忘れてた!ドロボウ!
ナカミに会えたのが嬉しくて頭からすっぽ抜けていた。どうしよう、このままじゃナカミがドロボウと会ってしまう……と思った時にはもう遅かった。
「あーその、お取り込み中失礼。どのタイミングで行けば良いのか分からなくて考えてたら、魔ペットがな。」
「ご主人様がウダウダしてイラシタノデ。これでは拉致が開かないと思い私が先導してキタノデス。」
「う…………魔ペットに言われるとグサッとくるな。まあそういうことだ。悪いな。」
ドロボウはそう言うと頭を掻く。
「なぜ、いるの?」
「ん?」
ナカミは敵意を剥き出しにして問いかける。
「いやそこの奴と一緒に。」
と僕を指差す。
「なぜ、あなたが私の愛しい人といるの?」
「い、愛しい人って。」
物凄く照れる。だが今の雰囲気はそんな事を考えていられる程甘くは無かった。
「成り行きというか偶然というか。」
「そんなことは聞いてない。ドロボウ。」
ピクッとドロボウは反応する。今の今まで彼がドロボウだということは言っていないから知らないはず。ドロボウもそう思ったのかナカミに問う。
「何でドロボウだと分かった?」
「愛しい人と会えたから。思い出せたから。」
「なんだそりゃ?」
ナカミは冷たい表情を変えず淡々と話す。
「あなたが歯車を狂わせた。もう話は終わり。」
ナカミが右手を振る。すると振られた場所に形作られる物があった。
「槍?」
形作られた物は槍だった。全体が銀色に輝き片手剣のような短く小振りな槍。だがどちらかと言うと突剣のような槍だ。先端は平たく、刺すというより突くと言った方が正しい。殺傷能力の無い槍ということだろうか?
いやそんな事はなかった。
透明な刃が刀身を形作り刺突のできる槍とかしている。その刃は薄く見えるだけで動きのなかで見ることは困難を極めそうだ。剣のようにして振ることも可能そうだ。透明な刃が槍の先端からナカミの持ち手まで伸び、冷たい透明な刀身が霧の中で見え隠れしている。ナカミは前傾姿勢をとると刀身を前に突きだし左手を刃の無い槍剣に添える。すると左肩から前傾姿勢のままドロボウに凄まじいスピードで突進した。
「ちょっ!」
さすがのドロボウも反応が追い付かず身体を横に反らすだけで精一杯だ。すれすれでドロボウはかわすと転がり体制を整える。
「いきなりだな。相手方は話す気無しか。魔ペット『ハサミ』だ。」
「かしこまりマシタ、ご主人様。」
そう言うと魔ペットと呼ばれる人形がたちまちハサミへと変わる。ドロボウはハサミを前に構え立つ。ナカミはそのドロボウを見るや先刻と変わらぬスピードで突進する。
「うおっ!」
ナカミの刺突をハサミの切っ先で受け止める。が受け止めたドロボウは衝撃を吸収出来ず吹き飛ぶ。
「んなの、ありかよ……。くそ!」
ドロボウは吹き飛んだ体勢を回転して立て直し、ハサミを地面に突き刺し身体を止めた。
「その程度?」
つかつかとナカミはドロボウに歩み寄る。
「なわけないだろ?準備運動だよ、こんなもん。」
ハサミを地面から抜き持ち直し構える。
「そう。」
短い返事を返すとナカミは槍剣を構え直し軽く跳ねるように地を蹴る。
一瞬で間合いを詰め右肩から左下に剣を振った。
ドロボウは剣線を避けるとハサミを薙ぐ。
ナカミはドロボウの反撃を後方へ飛びすさり避け、距離を刺突突進で縮める。
刺突をドロボウはギリギリのタイミングで身体を反らし紙一重でかわす。
その後突進で無防備な刀身を殴打する。
「ぐあっ!」
ナカミは殴打された刀身の反動で身体を捻ると、その勢いを乗せドロボウの右肩に回し蹴りをお見舞いした。
ドロボウは転がり、蹴られた肩を抑えよろめきながら立つ。
「痛ってえ。あの体勢で蹴るかよ。普通。」
「もう終わり?」
ナカミは淡々と息を荒げもせず話す。
「終わってねえよ。魔ペット『針』だ。」
ドロボウはハサミを前方にスライドさせると銃のように構える。ハサミの中心の柄の中には針が無数に入っている。
「食らえ!ナーデルショット。」
ドロボウは柄に付いているトリガーを引き針を連射した。
ナカミはまるで踊るように針を避けていく。あるいは槍剣で弾き、ドロボウの撃った針はナカミに全く当たらない。
「魔ペット『糸』だ!」
柄の突起から糸が伸びる。ドロボウはそれを掴むとナカミに向け飛ばす。
凄まじいとまではいかないがそれでも目でやっと追いきれるくらいの速度で飛んでいく糸をナカミは簡単に避ける。
「狙いはこっちだ。」
ナカミに投げたと思った糸は、最初から針に向けて飛ばしたフェイクだった。針の上部には穴が開いておりその穴に向けて糸を通したようだ。
「これなら避けられないだろ!ナーデルキッセン!」
全ての針にどうやって糸を通したのか原理は分からないが、ドロボウの発射した無数の針がナカミを覆う。
ドロボウが叫ぶと針は次から次へとナカミに飛んでいき、ナカミは針の落ちる衝撃で砕けた床の土煙で見えなくなった。




