透明との再会と焼き付けるエガオ
一面灰色の空間の中心にポツンと立つ少女が1人。相変わらずその姿は美しくて見るものを惹き付ける。踵まで伸びた透明な髪、触れたら消えてしまいそうな後ろ姿。あの日見た時と同じ、体の中からゴウッと燃え上がるような感覚が体を支配する。今まで感じたことの無い感情が体の中で渦を巻く。
美しい。
見ているだけで溶けてしまいそうだ。ずっとこのまま見ていたい。そんな僕の心の内を読んだように夢のような時間は彼女が振り返ったことにより終わりを告げた。
「誰?」
透明感があり混じり気の無い清んだ声。振り向いた彼女の表情は前と同じく感情の見えない表情をしていた。透明で何色の色も持たない透明な瞳、透き通るような透明な肌、この世の者とは思えないほどの顔立ち、触れたら壊れてしまいそうな華奢な身体つき、その何もかもを見え隠れさせながらも更にその美しさを映えさせる透明感のあるワンピース。前会った時と全く変わらない姿。
ああ………………やっと会えた…………。
僕はゆっくりと彼女の元へ歩み寄る。会えた。ただそれだけが嬉しくて、光に誘われる虫のようにゆらゆらと歩き進む。
互いに顔がはっきりと分かる距離まで来た。目が合う。透明な瞳にはなにも写らない。彼女は僕の写らない瞳を僕に向けたまま口を開いた。
「あなたは誰?」
「え?」
開口一番、僕は忘れられていた。それもそうか前会ったときは名前も名乗らなかった訳だし。
ああ……名前無かった。
そんな事を考えていると直ぐに彼女がまた口を開いた。
「違う。」
彼女は首を振った。
「違う…………駄目、忘れちゃ駄目。思い出して。」
彼女は悲痛な表情で首を振る。
「駄目、駄目………………彼は大事な………………思い出した。」
彼女はか細い声で何かを言うとまた僕を見る。
「大丈夫?」
「うん。」
心配なので声をかける。すると短い返事が帰ってきた。
「また、会ったね。」
「思い出してくれたの?」
コクンと彼女は頷く。
「良かった。本当に……良かった。あれ?何で?」
僕の目からは涙が溢れていた。理由は分からない。嬉しいけど泣いている。慌てて隠そうと顔を背けるが遅かった。
「泣いてるの?」
「な、泣いてないよ。」
「嘘。」
いつの間にか目の前まで来ていた彼女は僕の顔を覗き込んでいる。
「泣いてる。」
表情はあまり変わらないが笑っているのが分かる。
「笑わないでよ。」
「笑ってない。」
表情に出さず彼女は笑いながら言った。
超至近距離で目が合う。僕は顔を背けるが今度は彼女が僕の頬を抑え背けさせない。
「ち、近いよ。」
僕の頬を抑える手はひんやりと冷たく触れているようで触れていないようなまるで雲に掴まれているような感覚だ。その指先がそっと僕の目尻を拭う。
「泣き止んだ?」
彼女はじっと見つめ問いかける。気づくと溢れていた涙はいつの間にか止まっていた。
「うん。」
「そう、良かった。」
彼女は表情には出さずホッとした。
「ありがとう。」
素直に僕は感謝する。
「うん。」
彼女は僕の頬を抑えたまま少し俯く。
「名前。」
「名前?」
「そう、名前。」
「名前がどうかしたの?」
「さっきのお礼に、呼んで?」
彼女は上目遣いで僕を見つめる。
「何を?」
「私の名前。」
「?いいよ。」
「覚えてる?」
「覚えてるよ。」
「じゃあ、呼んで。」
「ナカミ。」
「もう一回。」
「ナカミ。」
「もう一回。」
「ナカミ。」
「………………はい。」
彼女『ナカミ』は泣いていた。透明な頬を少し紅潮させ、表情を本当に嬉しそうにして笑った。
この笑顔にかなうものなどない。そう思うほど可愛くて綺麗で愛しい。そんな笑顔を僕は目に焼き付けるようにしっかりと見た。
僕は…………この笑顔を、絶対に忘れない。




