病院
授業が終わり、忍び足で帰ろうとするティメナを捕まえ、僕達は街一番の総合病院に向かっていた。
「なぜこんなことに。」
項垂れるティメナ。
「まあまあ、病院行くだけだし。」
ソラトがティメナを慰める。
「どれくらいで着くんだっけ?」
前を歩く僕は振り返り2人に聞く。
「30分くらいじゃないか?」
とソラト。
「はあ、帰りたい。」
と溜め息をつくティメナ。
「駄目だよ、ティメナ。ちゃんと見てもらわないと。」
「うー、ソラトォ~。」
ティメナは潤んだ目でソラトを見る。
「もう向かってんだから、行くしかねえよ。」
「意地悪。」
膨れっ面になりふてくされるティメナ。
「なあ、そういえばさ。ドロボウの話、聞いたか?」
「またでたの?」
会話に混ざらない様に耳を塞ぎそっぽを向くティメナはひとまず置いておきソラトの話に返答を返す。
「今回は警備隊がドロボウの尻尾を掴んだみたいなんだがなんともな。」
ソラトは言葉を濁すと苦虫を噛み潰したような顔をした。
「どうしたの?」
「いや、噂では警備隊がほぼほぼ壊滅したっぽい。」
「壊滅!?」
「ああ、指揮官以外は全滅らしい。」
「ドロボウは複数いたの?」
複数いないととてもじゃないが警備隊は全滅出来そうにない。
「聞いたところによると1人だ。だけど変な人形を連れてるって。」
「変な人形?」
「つぎはぎだらけの人形で腕の大きさが左右非対称なんだってさ。」
「まるで見たかのような噂だね。」
噂なのに妙に細かいところまで情報が出ていると思った。
「噂なんてそんなもんだろ。話されるうちに尾ひれがつくもんだ。」
肩をすくめソラトは空を見上げる。
「それもそっか。」
僕もソラトと同じく空を見上げる。
「相変わらず黄色いな、空。」
「そうだね。」
見上げた空はいつも通り雲で覆われ曇っている。切れ間から覗く歯車もいつも通り崩れ落ちそうな音を時折鳴らしている。
「そういえばさ、何で空の歯車ってあんな不安になるような音出すんだろうね。」
空を見上げたまま僕はソラトに話しかける。
「相棒、何言ってんだ?空の歯車が音だしてるのなんて聞いたことないぞ。」
ソラトは空を見上げるのを止め首を傾げる。
「え?さっきも鳴ってたじゃん。」
何を馬鹿なと苦笑ぎみで聞く。
「いや鳴ってないぞ。」
ソラトは真剣な顔で答えた。
「そんな。」
新事実が発覚した。子供の頃から聞いていた空の歯車の音はソラトには聞こえていなかった。もしかしたらティメナも他の人達も聞いたことが無いかもしれない。こんなに聞くたび不安を煽る音は幻聴なのだろうか?
「どうしたの?2人共黙りこくって。」
「ティメナ、ティメナは……空の歯車がが鳴らす音聞いたことある?」
「ないわ。鳴るなんて聞いたこと無いし。」
案の定ティメナも聞いたことが無い。ふと思い付いたようにソラトが口を開く。
「なあ、もしかして子供の頃からか?最近聞こえるようになったんじゃなくて。」
「うん、そうだよ。どうして分かったの?」
「いやそりゃあ、相棒と話してる時にいきなり怯えた表情をしてた時が子供の頃にあったんだよ。あのときは俺が何かまずい事言ったのかと思ったけど。今相棒の表情がその時の表情と重なったからもしかしたらと思ってな。」
「えー私気づかなかった。」
「ソラト、それいつの話?結構前じゃない?」
「そうだな。学校入る前位かな気づいたのは。」
ソラト恐るべし。自分の表情が空の歯車が鳴ったとき、表情が強張るのに気づいたのは学校に入ってすぐの頃だった。歯磨きの最中に聞こえてきて表情が強張るのを鏡で見てから表情が強張らないよう練習したものだ。
「でも学校入ってからは見ることがなかったから気のせいだと思ってたけど、違ったんだな。」
「うん。」
「ティメナより相棒の方が診てもらった方いいかもな。」
「僕は大丈夫だよ。」
「そんな事言わないで行こ‼」
「お前は1人で受診すんの嫌なだけだろ。」
「そ、そんな事無いし!」
少し機嫌の直ったティメナがまたむすくれる。
「まず行くぞ。相棒はまず診てもらう、ティメナもな。」
「わかったよ。」「はーい。」
2人で返事をした直後………
「ごめんな。」
ぽそっと呟きが後ろから聞こえる。いつからいたのか、どこから来たのか分からない影は左に腰だめた右手を
目にも止まらぬ速度で振った。
これから終盤に向かうと思います。




