別れとまたね
今日は早めに投稿してみました。
「ナカミ、それが君の名前?」
「そう、ナカミが私の名前。変?」
首を傾げナカミが聞く。
「い、いやそんなことないですよ!」
「そう。」
僕は今1人の少女、ナカミと会話?と言うより言葉を交わしていた。
まるで彼女の周りだけ切り取られているかのような存在感、淡く透明な容姿、そんな少女に見惚れつつ緊張していた。少女はそれでいて整った顔立ちをしているのだから街を歩けば誰でも振り返るだろう。僕は何故かそんな美少女に名前を聞かれ名乗りたくないと言い、自分は名乗らず相手の名前だけ聞くというなんとも情けなくみっともないと今更思う。
だが、気楽に名乗ってはいけないと自分の中で何かが危険を知らせているのだ。こんな名前を名乗るだけなのに嫌な予感しかしないのはなぜなのか自分の中で謎が浮かぶ。
「どうしたの?」
「……っ!い、いえな、何でもありません。」
僕の顔を覗き込むナカミ。
思考する際下を向く癖があるのでいきなり俯いた様になったのだろう。ナカミは下を向く僕の顔を覗き込めるようにしゃがみ上目遣いで見てくる。思わずその姿が絵になりすぎて声が上ずり言葉が詰まる。さらに顔は物凄く熱く赤面しているに違いない。顔を背け問題ないことを身ぶり手振りで示す。
「ならいい。」
立ち上がる気配、衣擦れの音。深呼吸をしてナカミに向き直る。少しこちらを伺うような視線をナカミは送ってくる。
「大丈夫ですよ。」
「良かった。」
表情が全然変わらないが目線や少しの声の調子で心配しているのかどうか分かる。会ってまだ数分しか経っていないのに不思議だ。
「心配をおかけしてすみません。」
「別にいい。」
少し俯くナカミ。
「?、どうかしましたか?」
「不思議。」
ポツリと呟く。
「不思議って何がですか?」
「表情変わらないのに心配してるの分かってた。」
「あ、やっぱり心配してくれてたんですね。ありがとうございます。そうですね僕も不思議だと思ってました。どこかで僕達会いましたか?」
「……………」
俯き、沈黙するナカミ。
「?」
首を傾げる僕。
「口説き文句?」
顔を上げ聞いてくる。
「いや、違いますよ!」
頭をブンブン振り、そうじゃないことをアピール。
「残念。」
「え、残念ってなにがですか?」
「何でもない。」
ナカミは顔をプイッとそむける。
「え、何ですか?すごい気になります。」
「敬語。」
「敬語?」
「やめて。」
「へ?あーそうですよね……じゃなかった、分かったよ。敬語やめるね。」
「うん。」
なんだかんだ短い問答に慣れてきた。それに楽しい。なぜ僕は名前を名乗らなかったんだろう。こんなに楽しい相手ならいいじゃないか、と自分の中の警告を無視し口を開く。
「ナカミの名前だけ聞いといて自分が名乗らないのも変だから改めて自己紹介を…………」
「駄目。」
短くナカミから拒否される。
「何でか聞いてもいい?」
「一度決めた事を易々と短時間で覆すのは良くない。」
なるほど、と心の中で納得。
「分かった。そうだね、じゃあ次会ったときに名乗るよ。」
「うん。約束。」
心地よい静寂が流れ、会話の終わりを告げる。
「それじゃあ、今度こそ帰るね。」
「うん、気をつけて。」
「次はいつ会えるかな。」
「時が来ればまた会える。」
「そうだね。」
「そう、だよ。」
「またね。」
「うん。」
僕はナカミに背中を向け帰路に着く。数歩で数刻前ナカミを覗いていた角に着く。ふと、後ろを振り返る。ナカミはそこに立っている。手を振る。彼女も控えめに振り返す。今まで固かった表情を悲痛を堪えるかのような表情で。僕は歩く、もう振り返らず。視界が歪む、ぼやける。堪えきれない感情がとめどなく溢れる。
「何で。」
もとの帰り道まで戻ってきた僕は少し暗くなった空を仰ぎ、目から流れる雨と短い言葉で溢れた感情を流した。
ーーーーナカミサイドーーーー
行ってしまった、彼が。彼が最後に見えた角をじっと見る。戻っては来ないことを知りながら。
「ああ、機械の神様、何で会わせてくれたの?………酷い。」
彼女もまた空を仰ぎ、震える声と彼女の透明な肌より透明な雫が両の瞳から1粒、頬を流れた。




