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前編

 

「もう勇者のお守りなんざ金輪際御免だ。今日を以ってこのパーティを離脱させてもらう」



 俺はヤトカ。しがない戦士兼スカウトだ。故郷の王国から選抜された勇者『アレム』のパーティの一員として魔王を倒すべく行動していた。メンバーは俺、勇者、姫さん、姫さん付きの女騎士、聖女、女魔法使いの6人。


 道中の索敵から獲物の調達、魔物の素材解体などの汚れ仕事は全部俺。


 もう一人の男である勇者はハーレム連中と仲を深めるのに余念が無い。


 脳内お花畑な勇者が新しいメンバーだとそこにいる武器屋の娘を連れてきたことでいい加減堪忍袋の緒が切れた。丁度いいと前々から考えていたことをぶちまけたわけである。







 そもそも俺にたいした才能などないことは他ならぬ俺自身がよーーーく分かっている。そんな俺がなんでこのパーティに加わっているか。それは俺が勇者の幼馴染というただ一点だけ。


 幼馴染といってもこいつと一緒に居て良い事などいままでひとつもない。

 全ての美味しい所は最高のタイミングでこいつに掻っ攫われ不利な部分は全部俺に降りかかる。それでもガキの頃からの付き合いだから見捨てるのも忍びないと今まで耐えてきたわけだがもう駄目だ。



 元々農家の長男として生まれた俺はこのまま農業に携わりながらゆっくりと老いていく。そんな人生を送ると思っていたしそれも悪くないって感じていた。


「ヤトカといっしょがいい。ね、ちちうえ」


 だが勇者のおまけでなぜか王国立の学園に通うはめになってしまう。なんでも一人で学び舎へ向かうのは心細いと俺を指名しやがったとか。こいつは大商家の次男坊で甘やかし放題に育てられた上、才能は群を抜いて高いときたもんだ。うちの親も俺が学園に通っている間の学費と税金を全部肩代わりしてくれるという条件に飛びついてしまう。下に兄弟が多いから口減らしの意味もあったんだよな。ま、それは仕方ない。俺はまだ子供で食い扶持を稼ぐことができなかったんだから文句を言う筋合いも無かったさ。


「どうしたんだい、ヤトカ? 僕と剣術の稽古でもしようよ」


「うるさい。後ろの五月蝿いのどうにかしてからにしろ、ここは図書室なんだから騒ぐのだけはやめてくれ」


「「「「きいい、アレム様の幼馴染でなければお傍になどいれない身の癖に!」」」」



 好きで傍にいるわけじゃない。


 学園内ではこいつと取り巻きの女達のせいで友達すらできなかった。そりゃそうだろう、俺が動けばこいつが付いてくる。そうすれば取り巻きも一緒についてくる。鬱陶しい事この上ない。

 仕方ないから訓練するか勉強するしかないわけだ。幸い学ぶことは苦痛ではなかったからぼっちでもなんとか耐えられた。小うるさい隣をスルーするスキルとは言えないスキルも習得した。



 学園卒業後は事務処理の手腕が認められ城勤めの内政官として働いていた。

 やっとあいつから離れ安息の地を得たと喜んでいたのだがそれはたったの3ヶ月で終焉を迎えることになる。

 机に向かってばかりで体が鈍ると演習場の隅っこを借りて剣の修練に励んでいたところ再びあの馬鹿に目を付けられることになったのだ。


 あいつはなんでか勇者として選ばれていた。なんでも王城に伝わる伝説の聖剣を抜いたとか。それを知ったときの俺の顔ったら燃え尽きた廃人のようだったらしい(同僚談)。

 やばいやばいやばい、やつがくる。何でか知らないが確信めいたものを感じる。



 そして数日後、内政官のはずの俺に勇者の御供という無理難題な辞令が降り立つのであった。



 王城から出発したメンバーは勇者、ムッキムキの戦士、よぼよぼの魔法使いの爺さん、マッスルな僧侶と荷物持ち兼戦闘員としての俺。剣と槍の心得はあるが一般兵レベルである。それがエリート集団と肩を並べろってのが無茶だわ。


「がっはっは、坊主。一緒に行動するならちぃと鍛えんとな。儂が面倒見てやるわい」


「むっほっほ、わっちもお手伝いしてさしあげまひょ」


「ふほほ、坊もやっかいなのに目を付けられてしまったのぅ」



 だが、その無茶を押し通すのが勇者の我が侭と教師というか狂師な三人の仲間だった。戦士に戦闘訓練を魔法使いの爺さんには攻撃魔法を僧侶からは回復魔法を合間合間にこれでもかというくらい仕込まれることになる。当初はそれでも前向きに考えられていたので耐え忍び学び果ては我流ながら罠や索敵の技術を試行錯誤していた。おっさんたちは良い奴らで前向きに学ぶ俺に自分の技術を惜しげもなく教えてくれた。俺もそんなおっさんらを信頼していったのだ。そしてレベルは低いながらも攻撃魔法と回復魔法を覚えた。昔から器用貧乏なんだがこれここに極まれりってところだな。




 だがそんな充実した旅も途上で失われることとなる。


 それは突然訪れた。


 勇者の取り巻きの一人だった姫さんがお付の女騎士と共に俺達の目の前に現れたのである。


「アドソ(戦士)、サムシン(僧侶)ご苦労さまでした。ここからはわたくしたちが勇者様と共に参りますわ」


「王からの許可は得てある貴殿らはこのまま王城へと戻り辞令を受けるが良い」



 一方的な物言いに憤慨しそうになるも王からの書状を見て仕方なく帰路につく二人。


 そしてここから俺の真の苦難が始まる。



 今までは男だけの旅で野宿も気にせず皆で役割を分担し行っていた。だが、そこに女性二人が入ることで状況は一変する。

 おっさんズが獲物を獲ってきて俺と爺さんが捌き調理していたのだがこの二人がそんなことをするわけもなく獲物の調達は完全に俺の役割となった。慣れぬ弓と罠でなんとか鳥や獣を獲ってこれば遅いだの少ないだの文句がでてくる。勇者? あいつは姫さんたちにべったりで動きゃしない。爺さんは移動で疲れているから狩りなんぞさせられない。倒れられたら今以上に困る。俺の心の拠り所は爺さんだけなんだから。寝る前に爺さんの肩や足をマッサージしてやるのも忘れない。




「そもそも貴様の戦い方は汚い。名乗りも上げずに背後から強襲するだの騎士の風上にもおけぬ」


 うっさいわ、この脳筋騎士が。同じ筋肉でもおっさんズのほうが随分と頭が柔らかいわ。

 魔物相手にやあやあと名乗りながら突撃するこの脳筋騎士のせいで無駄な損害がでるようになる。姫さんは多少回復魔法が使えるが僧侶のおっさんの穴を埋めるほどじゃない。魔物相手なら勇者が役に立つんだが派手な雷や威力の強すぎる聖剣のせいで素材として使えるところがほとんどなくなってしまう。あんまり酷いと宿に泊まれなくなるぞと脅しをかけることで幾分ましにはなったが俺の気苦労が絶える事は無い。お前らも資金不足で馬小屋に寝てみろってんだ。



 このまま行くとそのうち禿るかなぁなんて思い始めた頃、厄介事は加速する。





「勇者様、私も聖女として人々を救う旅へとお供させていただきます。これからよろしくお願いしますね」


「うん、よろしく頼むよ。それじゃ仲間を紹介するね」


 そう言いながら紹介していったとき、俺の番になったとき勇者の後ろであからさまに嫌な顔をする聖女。


 勇者が先に行った隙を見て俺へまるでゴミ虫を見るような目を向けドスの効いた声でまくし立てた。


「なんで勇者様のパーティにあなたの様な方がいるのか甚だ理解に苦しみますが私の邪魔をしないでくださいね」


 踏んでる踏んでる。俺の足をかかとで思い切り踏んでる。ぐりぐりとツイストもおまけしてフンと鼻を鳴らし聖女と言う名の悪女は勇者の尻を追いかけていった。


 俺が……何をした……。



 聖女の回復魔法は確かに凄かった。


 俺以外には。


 俺はいつまでも自前の回復魔法。おかげで生傷も絶えないが地味に実力はついていく。それでも才能溢れるこの連中にはかないはしない。本当、なんで俺この面子のなかにいるんだろうね(遠い目)。



 精神的に追い込まれていく中さらに厄介事は追撃してきた。






 魔法使いの爺さん、ぎっくり腰にて戦線離脱!!!





 爺さんの息子と孫娘が爺さんを迎えに来たときはマジ泣きしてしまった。俺の心の拠り所よ。かーーーむばああああっく。



 そして更に事態は加速。爺さんの孫娘『メリア』がパーティに配属になってしまう。

 いかん、いかんぞ。爺さんの孫娘をあのバカの毒牙にかけさせるわけにはいかない。


 当たり障りの無い行動が板についてきた俺ではあるがこの時だけは本当に気合を入れた。

 勇者がメリアにちょっかいだそうとすれば即座に姫さんか聖女(悪)を呼び出しぶつける。

 メリアは食べ物に目がないようでそれをエサに釣ろうとする勇者から遠ざけるために蜂蜜入りのクッキーを常備したり。


 この頃からだろうか精力的に妨害し始めた俺を勇者のバカが厄介そうに見つめるようになったのは。


 だったら解放してくれと思うのだがそれも言い出さない。お前はいったいなんなんだと問い詰めたくなるような毎日。



 それでもメリアのおかげでパーティの火力は跳ね上がった。

 彼女は爺さん譲りどころか麒麟児として持て囃されるほどの腕前だったのだ。何より状況に応じた魔法を使ってくれるのが俺には何よりも嬉しかった。おかげで素材の売却も捗り以前とは違い随分と懐が暖まる。



 はずだった。



 勇者のバカがなにも考えずに姫さん、女騎士、聖女(黒)にほいほい買い物させるまでは。

 こいつらに加減なんてものはないからすぐに資金は底をつく。なんなの? バカなの、本当に。


 王国からの援助?


 全部あのバカが受け取っているからどうなっているのかすら把握できない。俺にできる事は不要な品を取り上げ頭を下げて返品し非常時用に取っておいた素材を売り払い資金にあてくらいしかなかった。流石に切羽詰った俺の剣幕に押されたのか姫さん達も渋々ながら返却に応じる、全部じゃなかったけれども。





 そんな中、集中力の途切れた瞬間に俺が胴体に派手な傷跡が残るほどの重傷を負う。


 魔物の強襲により陣形が乱れ後方に配置されていたメリアが襲われそうになり俺が盾となる形で耐えしのいだのだ。索敵が遅れたせいもある。そもそも俺の索敵なぞ自己流だからこれまでだってギリギリだったのだ。何度もスカウト系の仲間をと進言したが俺の意見が聞き入れられることはなかった。



 宿に残され一人ぼうっとする俺。本気を出しているのか知らないが聖女(笑)の回復魔法でも大きな傷跡は消えなかった。

 他の面子はなんでもこの街の地下にある遺跡から聖剣の対になる神鎧だかなんだかを取りに行っている。索敵や罠解除などはこの街で一番と言われるシノビのフジバヤシさんを連れて行ったらしい。

 ふう、これでようやくお役御免かな?


 これだけ疎まれていればもうパーティ抜けたいって言っても大丈夫だよな?


 俺頑張ったよな?


 やっと地獄から抜け出せる嬉しさでほろりと涙腺が緩む。



 それから数日間。宿で久しぶりの自由とゆったりとした幸せな時間に浸った。ああ、帰ったら爪に火をともす思いで貯めたお金でどこか静かな村に家と畑を買おうかなーとか考えていたんだ。

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