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第六十九話「皆消える」

「お兄ちゃん!」

「雅人!」


 宿に戻ると皆心配した様子で僕を出迎えた。

 

「アスターシャ!」

「お兄ちゃん!?」


 僕は真っ先にアスターシャに抱きついた。

 僕はアスターシャを現実世界の妹、沙耶香と重ね合わせて見ていた。

 だから真っ先に抱きついたのかもしれない。


「もう、どこにも行かないでね」

「ああ、ずっと一緒だ」


 それからというもの僕達はいつもどおりの日常を送っていた。


 僕とナクロとアスターシャは学校で過ごし。

 テレーゼやクレファスやガーデは依頼をこなしたり、商店で働いたりして金を稼いでいた。


 そんな矢先。


「雅人、聞こえる?」


 学校の授業中に声が聞こえた。

 誰だ? 授業中だぞ。


「あら、もう私の声を忘れちゃったのかしら?」


 その声。

 まさか……。


「先生、ちょっと雅人と用事を思い出しました。失礼します」

「ちょっちょっと」


 突然、ナクロが席を立ち、僕を学校の屋上へと連れていった。


「あら? 私が用があるのは雅人だけよ」

「僕も関係者だ。立ち合う権利がある」


 何だ? ナビとナクロが会話をしている……?


「よくも私の大事な計画を邪魔してくれたわね」

「君の計画通りに事を進めたって悲劇しか待ってない」

「それに耐えるための計画なのよ。邪魔しないで!」

「僕は雅人だ。彼の幸せを邪魔するのなら」

「あら? この世界の管理を担っているのは誰なのかしら?」

「くっ! 僕だって!」

「貴方の力なんて所詮、彼の未来を少し変えるだけの力しかない」


 ナビとナクロが言い争いをしている。

 一体どういうことなんだ?


「雅人は僕が守る!」

「リセットしてもいいのよ? 雅人の記憶ごと全部ねえ」

「くっ!」


 ナクロは苦痛な表情を浮かべている。

 ナビがやばいことを言ってるのは僕にも分かる。


「ナビ!」

「やっと返事をくれたね。雅人」

「お前の目的は何だ? お前は一体?」

「話してもいいけど、どうせリセットして終わりだけどね」


 ナビは語ってくれた。

 この世界は僕の家族と僕を思う友人たちが作り出した世界だということ。

 そしてナビは案内役として僕のそばにいることなど

 ここまでは分かる。

 だが、なぜナビは僕をこの世界から切り離したいんだろう?

 その理由は次の言葉で一気に解決することになった。


「それは、貴方の家族が望んだことだからよ」


 僕の家族が!?


 ナビはさらに語った。

 どうやら僕の家族は僕に現実世界で生きて欲しいということ。

 だけどその前には悲劇が待ち構えている。

 だから敢えてイベントと称して僕に悲劇への耐性を高めてもらって、この世界を卒業してもらいたいという思いが込められていることなど。


 そんな……僕の家族がそんなことを考えていたなんて……。


「だから貴方はこの世界を卒業するべきなの。この世界にいてはいけないの。所詮作られた世界なんだから」


 そんな……僕は……。


「ナビ! だからといって今の彼の幸福を邪魔するのは間違っている」

「黙りなさい。ただの曲者が」

「僕は彼の幸福のために!」

「貴方には何も使命がないけど、私にはある」

「クッ!」

「私に逆らう権利はないわ」


 ナビは


「さて、そろそろいいでしょう。リセットするわ」


 という言葉を発した。


「待ってくれ!」


 僕はいつの間にか土下座していた。


「雅人!?」

「君の言いたいことは分かった」

「なら」

「だけど今の……今のこの幸福だけは邪魔しないでくれ」

「今更」

「約束する! 僕はいつかこの世界を卒業する」

「…………」

「だから、その時まで待って欲しい」


 ナビは


「分かった。そこまで言うなら仕方ないわね。貴方の気持ちも分からなくはない」


 と言ったあと


「でも必ずこの世界を卒業してね。約束よ」


 と言い残して、僕に話しかけることは無くなった。


「なあ、ナクロ」

「何です?」

「僕がこの世界を卒業したらこの世界はどうなるんだろう?」

「消滅……しますね」


 その瞬間、ドバっと涙が溢れ出てきた。

 僕がこの世界を卒業したら、僕の仲間が消える。


 クレファスもテレーゼもガーデも

 妹の……アスターシャも……。

 

 皆消える。


「うわああああああああああ!!」


 僕の慟哭がこの世界に木霊した。


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